「僕が必ず……姉さんを守るから……」姉を殺された青年の復讐が、今始まります。 本作は「週刊少年マガジン」に連載されている作品で、仇討ちをテーマとした物語です。仇討ち……すなわち復讐、それはもちろん犯罪です。それにも関わらず、犯罪はこれまで、さまざまな物語のテーマになってきました。『かちかち山』『猿蟹合戦』『赤穂浪士』『モンテクリスト伯爵』……。 人はなぜ復讐に魅せられるのか、今回はそのテーマとともに、本作を語りましょう。スマホの漫画アプリからは無料で読めるので、ぜひそちらもご利用ください。
大学生の望月和(もちづき わたる)は、犯罪心理学を専攻する大学生。少々風変わりなこの青年には、かつて姉がいました。
彼女はどこにでもいる普通の女の子でしたが、和にとっては代わりのいない、この世界で唯一の存在だったのです。
しかし、その姉は亡くなります。8年前、3人の少年に殺されたのです。
- 著者
- 一×
- 出版日
- 2018-10-17
犯人たちは少年法で保護され、何食わぬ顔で再び、この社会でのうのうと暮らしています。
8年間、和は己の中の憎しみと戦い続け、そしてある計画を立てていました。姉を殺した者たちへの復讐を果たす計画を……。しかし、綿密に立てたはずの計画は些細なことで覆され、彼は返り討ちに合ってしまいます。
そんな生と死の狭間で、彼は不思議な力に目覚めることになるのです。それは、己の意識を外の世界に飛ばし、眠りながらあらゆるところに行く力でした。
本作は、望月和の復讐を描いた物語です。しかし彼は第1話で、念入りに計画を練ったにも関わらず、失敗して返り討ちに合ってしまいます。
犯人が憎らしいだけに、読んでいる我々も悔しい場面。しかし、それだけに、彼が特殊な力に目覚める次の場面で期待感が高まるのです。
生死の境をさまよった彼は、不思議な体験をします。それは幽体離脱をして、その場より遠くの物事を見たり聞いたりする能力。さらに、寝ている人の夢まで見ることができるのです。
本作の見所は、共感度の高いところ。主人公の和は法を犯す犯罪者になろうとし、復讐を果たす力を渇望しています。そして運命がそれに応えたかのように、不思議な力を手に入れるのです。
そんな復習のためのストーリーである本作。世の中には恨みを抱いている人も少なくないことでしょう。仇討ちの物語に感情移入してしまいがちなのには、ここに理由があるのかもしれません。
また、本作が共感を得られるもう1つの理由。それは、主人公が孤独であるということです。
和は人当たりは悪くなく、関係が良好な家族も友人もいるようですが、その人たちが彼の仄暗い復讐心を知り得ることはありません。
復讐者は常に他者を巻き込まず、己1人でけじめをつける。この孤独な美学は復讐劇の主人公に多い設定で、追い詰められた彼らの気持ちには、やはりつい共感してしまいます。
和は力こそ手に入りましたが、これからも孤独な戦いが続いていきます。そんな彼の物語だからこそ、つい見入って共感してしまうのです。
序盤を見る限り、犯人たちは自分のやったことを反省しているとはいえません。むしろ仇討ちにきた和を喜々として返り討ちにしようと企むくらい、最低な奴らです。
そして彼らに対し、和と読者が最も憎しみを感じてしまう瞬間は、犯人の1人・馬場騎士(ばば ないと)が和を返り討ちにしたときの、このセリフではいでしょうか。
そんなんだから人にダマされんだ
レイプされて 殺されて当然なんだよ
(『夜になると僕は』1巻より引用)
これこそ、やる側とやられる側の意識の差なのでしょう。彼はこう言おうとも、やられた側は一生忘れないし、忘れることなんてできません。
上記のとおり、復讐はもちろん犯罪です。しかし、かつては日本でもヨーロッパでも、仇討ちが合法とされていた時代がありました。たとえば江戸時代の武家社会では、主君を殺されたものは忠節を示すために仇討ちが合法化されていたのです。幕府は、そのための法的手続きまで執りおこなっています。
つまり社会は、その者がしかるべき報いを受けるべきとわかったら、報復も合法化されていたということが、かつてあったのです。ここには上記のとおり、同情や感情移入の心理が働いています。
そして現代は、たとえ極悪人であっても、集団リンチも村八分も許さない社会です。法治国家たる日本では、感情ではなく、法律がすべてを決定しています。
しかし、その法律が、憎むべき悪人を保護して守っていたら?
和は、能力がある程度使えるようになってからは、犯人に報復を与えるべく、躊躇なく行動。そして犯人に反省の色が見当たらないと判断した場合、容赦なく制裁を加えるべく手を下します。すなわち、私刑をおこなおうとしたのです。
彼は、憎むべき犯罪者を野放しにしている法律を見限ったのでした。被害者を守らぬ法律に、怒りを感じたのでしょう。
守るべきは、人か法律か……。法律が被害者の感情と向き合わねば、和のような人間が現実にも出てくるかもしれません。
和は1度死にかけて、幽体離脱のような力を手に入れました。そして入院中に、この力を徹底的に調べるのです。
その結果、明らかになったのは、眠っている人の夢の世界に干渉できるということ。そして干渉するには、相手と身体的に接触しなければならないということでした。
和がこの力に気づいたきっかけは、同じ病院に入院中の友人と接触したことでした。その少年はベットで眠っているようでしたが、彼の体の上にはもう1つの体が浮いていました、それに近づくと、彼の見ている夢の世界に引き込まれていったのです。
和は、その夢の中で少年と会話し、そして虫歯で悩んでいることを知ると、その取れかかった虫歯を抜いてやりました、すると、本体の少年の虫歯も取れたのです。この力を和は「黄金の眠り」(ゴールデン・スランバー)と名付けました。
1度死にかけた人間が力を手に入れるという設定は、王道のものですが、幽体離脱自体が力になるというのは、あまり聞かないかもしれません。
和のセリフによると、この力はまだ多くの謎を秘めているとのこと。もちろん彼は今後、この能力を復讐のために大いに利用することになります。
果たして、この力が彼にとってよい方に働くのか、それとも……。
主なキャラクターは、主人公の望月和、そして彼の知り合いの刑事・三角。
この時点では彼らの関係ははっきりとは明かされていませんが、和の殺された姉・望月小夜の墓参りに来ていたことから、彼女と何か関係があるようです。
和は、三角が言っているように、かなり頭のいい少年のよう。そんな彼は周到に準備をして、姉を殺した3人の男の内の1人、馬場騎士に接触を図ろうとします。
- 著者
- 一×
- 出版日
- 2018-10-17
彼の目的は、姉を殺したことについて、罪の意識を感じているかどうかを確認することでした。そして返答しだいによっては、報いを受けてもらうと思っていたのです。
しかし、馬場は反省しているどころか、彼を返り討ちにしてきました。この時に瀕死の重症を負ったことをきっかけに、ゴールデン・スランバーを手に入れるのです。
そんな本作での今後の注目ポイントは、和と三角、この2人の関係性。わかっているのは、和は大学で犯罪心理学を学んでおり、時折非公式で、三角の仕事を手伝うほど大変な秀才であるということです。
本巻では、和が行動を起こそうとすると度々三角に遭遇し、和の復讐の壁となるような存在として描かれています。彼らの今後の関係性、展開に要注目です。
また、犯人の1人である馬場も、他の犯人2人といかなる関わり合いがあるのかも、はっきりしていません。しかも本巻を読んでみると、そのなかのリーダー格の男・秋山龍は何やら得体のしれない人物の予感。
彼は、出所後すでに和にあっているらしく……一体何者なのでしょうか。
和はこの後、残り2人の犯人に出会い、そして彼らへの果てない憎悪を力に行動を移していくことになります。姉を殺された弟の復讐劇『夜になると僕は』、今後の展開からますます目が離せません。