むし、を冷蔵庫にいれて年を越す、のか【山本裕子】

むし、を冷蔵庫にいれて年を越す、のか【山本裕子】

更新:2021.2.8

単刀直入に申し上げると、先月からずっとうちの冷蔵庫に「はちの子」と「ざざ虫」がいるんすよ。どちらも佃煮状態で。いや、流行ってんのは知ってんすよ、昆虫食。なんか体にいい、というのもね。知識としてはね。だがしかし、だが、しかしーーー!

山本裕子プロフィール画像
俳優
山本裕子
劇団・青年団所属。1974年、三重県生まれ。京都大学法学部卒。ドラマ『踊る大捜査線』にはまり、警察官僚を目指すか、このまま司法試験に向け勉強を続けるか、散々迷った末、勢い余って俳優になる。現在長野県在住。四歳の男児持ち。「トマト農家の嫁」と「俳優」二足の草鞋を履く。 【出演情報】 映画「シスターフッド」 監督:西原孝至 アップリンク吉祥寺にて特集上映 2020年1月4日(土)19:50の回 https://joji.uplink.co.jp/movie/2019/4221
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昆虫食。それは、世界を救う、未来のスーパーフード。

近々訪れる世界の人口爆発。その際の、食糧危機を克服するための有効な一手として、昆虫食の将来性が見込まれる、とFAO (国連食糧農業機関)が言うてはるんやから、そりゃ間違いないでしょ。

昆虫は、タンパク質や脂肪、ビタミン、ミネラルなどが豊富で、健康的な食用資源である、とか。

現在、世界では20億人以上が昆虫を日常的に食べており、その種類は1900種以上にのぼる、とか。

日本でも、地方の食文化として現存、とか。

まあそのへんをふまえて、今回はむしの話です。

わたしが数年前に嫁にきた信州・伊那谷というところは、昔からタンパク源としての昆虫食が盛んな地域みたいで。

いなご、はちの子(クロスズメバチの幼虫やさなぎ)、さなぎ(カイコのさなぎ)、ざざ虫、といったむしの佃煮が、スーパーの一角に日常的に並んでおります。

とはいえさ、じゃあ今でもみんなが毎日むしゃむしゃむし食べてんのかといえばそんなこともなく、まあお酒のアテ、とか、なつかしい故郷の味、的な、珍味としての立ち位置をキープしてるみたいなんですけど。

それでも、近所のおばさんたち(70代前後)は、秋に田んぼでいなご捕ってきて煮付ける、とか、冬に河原でざざ虫捕ってきて煮付ける、とか、まあだいたいすべて煮付けちゃうんだけど、自分ちで佃煮作るというから、やはりまだまだ現役の食文化を担っていると申せましょう。

で、だ。

珍味、だからさ、別に、食べなくてもいいわけですよ。嗜好品、でしょ。

なので、わたしはあえて自分で買ってきて、晩ごはんのおかずにしたりはしないわけです。それは、これまで育ってきた文化圏での、食習慣の違いとして。

まずこれだけは誤解の無いように申し上げておきますが、世界のどこにおいても、ひとの食べてるもの、伝統食、そういうのにいちいちケチつけたくない。悪く言いたくない。やだーむしーきもちわるーいとか言いたくない。

ただ、わたしは、むし、べつに、食べたかない。

繰り返しますが、ほんっと、単純に、食習慣の違いなのでね。

ギリ、いなご。茶色ーい、カリカリの甘辛ーい、なんだかよくわからないモノになっていれば、あれ、小魚の佃煮かな?くらいの甘い認識で食べられるじゃないですか。翅(はね)とか後肢とかじっくり見なければ。

それでね。

わたしの実家は三重県なんですけど、そこからうちの両親が来たりすると、義父はおもてなしとして、この地方の珍味であるところの、むしの佃煮を買ってきてくれるわけです。

むし。

で、まあ、むし見ながら、ひとしきり、そのむしにまつわる昔の話になったり、このあたりの風習の話になったりして

【とくに共通の話題があるわけでもない、何度も顔を合わせてはいるもののそこまで慣れ親しんだ間柄でもない、微妙な距離感の者たちの、食事の場】

においては、むしは恰好のネタとなってくれるのですが。

だれも、手を、つけない、のよ。

うちの父母もわたし同様【ギリ、いなご】でこれまで70年近く生きてきたので、今さらどうしても、よくわかんないズバリむし状のもの、には手が伸びない。

この地で生まれ育ち、幼い頃はそれこそイナゴ捕獲に走り回り、それを家でばあちゃんがやはり煮付けたという夫は

「オレ、はちの子だけなら、イケる、けど」

と謎の選り好み。

そして、当の買ってきた義父ちゃん自身は、とくにむしが好きでもないようだ。なんやねんな!

かくして、むしたちは、冷蔵庫にそっとしまわれたのだった___

そんなふうに、都合よく終われないのよね、人生って。冷蔵庫はさ、毎日何度も開けるからさ。毎回収納物が目に入るからさ。

豚バラ肉やら、豆腐やら、プリンやら、の隣に、むし。

いつまでいるのか、むし。

この先だれが食べるのか、むし。

だれかが、何らかの行動をとらない限り、このむしはずっと、この冷蔵庫内で、2019年を迎える。あ・はっぴー・にゅーいやー。なんなら次の元号だって迎えちゃう。なんせ佃煮なのでね。賞味できる期限が長いわけ。来年9月までノープロブレム。

こういう、腐ってなくて、けっこう値の張る、しかも善意から贈られた食べ物を、

「えー、なんか、たべたくないし~~」

つってゴミ箱に捨てる、ということにはどうしても抵抗があり、しかし積極的にむし食べる気にもなれず、冷蔵庫開けるたび

「……あー、いるなあー」

と、遠い目をする、のが現状です。

でも、年末ですからね。そろそろ冷蔵庫の整理もしたいじゃない。

むし、いるならいるで、【このむしは、あるべくしてここにあるむし】として、能動的に冷蔵保存したいじゃない。

そこで、そもそもの昆虫食をポジティブに受け入れようと思って。

こちら。

むしくいノート

著者
ムシモアゼルギリコ
出版日
2013-11-08
気持ちわるいと思っていたものが、こんなにおいしいなんて!?
(中略)
しかし、はじめて虫を食べるときには、ほんの少しの(いや、たくさん?)
勇気と知識と勢いが必要です。
そこで本書『むしくいノート』では、「どんなことを知っておくと
昆虫をおいしく楽しく食べられるか」という情報&体験をまとめてみました。

という、本。そのものずばり。

セミ、バッタ、ハチ、といった、わりとポピュラーなむしから、ゴキブリ、タガメ、カメムシなどの、ぎゃーす!な、むしまで、その入手法と調理法をご紹介。

読んでわかったことは「たいていのものは、素揚げにすりゃなんでもいけるな」ということです。野草、も、そうだもんね。油って、偉大よな。

表紙から伝わるかと思いますが、絵や色合い、構成でむしグロさをおさえ、とてもポップ。

あれやね、昆虫食を広めるのにもっとも必要なのは、万人受けするポップさやね。むしポップ!

「KAWAII~~おいしそ~~インスタ映え~~」

で、だいたいすべてはイケんじゃなかろうか。

間口を広げ、むしへの嫌悪感を抑えて、実際に食べるところまでもっていければ、あとはもう、自然にどんどん昆虫食、受け入れられてくと思うんですけど。

見た目がどうでも、おいしけりゃ食べるものね。ナマコとか。ホヤとか。

むし紹介のキャプションがすてきです。

  • ポリポリおいしい山のポップコーン{カナブン}
  • 食べるなら大型種がおすすめ{トンボ}

など。「山の、ポップコーンや~~~!」と満面の笑顔であのひとが食レポすれば、案外お茶の間にもすんなり受け入れられるかも知らん。

ところで、ハチの入手法を読んでいて思い出したのですが、うちの近所でたまに

「これ、今朝、山で採ってきたきのこ!」

とか

「こないだ仕留めた肉!(イノシシの)」

とか言って、なにかと地物をおすそわけしてくれるおいさんがいたのですが、そのおいさんがある日

「これ、やるよ!」

つって、持ってきてくれたのが、でかい地バチの巣ごと、はちの子だったんすけど。

知っていますか、地バチ。地面の下に巣を作る、クロスズメバチ。

その巣の中のはちの子をピンセットとかで抜き出して、ふんを出して、茹でて、バターで炒めたり、甘辛く煮付けたりして、おいしくいただくらしい。

秋の味覚として、産直市場で売られてたりするんですけど。箱に入って、上面をラップでおおって中見えるようにして。もちろん中のものどもはみんな生きている。うごめいている。そしてやはり結構高値。

採りたてのそれをね、おいさんは持ってきてくれたわけです。もちろん、ラップなんてしてない。つまり、はちオープン状態。

はちの子、自体はまだいいさ。その場で白くうごめくだけだから。でも巣には、今まさに成虫にならんとす、な「ほぼはち」も、すっかりできあがった「もうはち」もそこにはいて、世界に向かって飛び出そうとしているわけ。

それを気軽く、丸腰の、うちの夫に手渡そうとする、おいさん。

あとで調べたところクロスズメバチは、スズメバチとはいえ性格は比較的おだやか、攻撃性や威嚇性は弱く、毒性も弱い、とのこと。

つってもさ。生の、はち、だからさ。

ギャース、いやいやいや、えっと、あの、これ、すみません、うちでうまいこと調理できるひといなくて、ええと、あの、せっかくなんですけど、ほんとにすいません、つって、夫はそおっとお断りしました。夫、ようやった。ブンブンいってる生のはちの巣持って帰ってくるって、恐怖でしょ。

ただ、おいさんは、それ以降なにもくれなくなりました。おいさん、断られて傷ついたのかも。すまんかった、おいさん。

でも、でもさ・……。

あーあ、シカ肉、うまかったな……。



ざざ虫 伊那谷の虫を食べる文化

著者
松沢 陽士
出版日
2016-10-01

地域の文化としての、ざざ虫を紹介した、写真えほん。

真っ青な空のもと、遠くに中央アルプスをのぞみながら、冬の天竜川でざざ虫漁をするおじさんの写真の数々は、とてもかっこいい。なんてすてきな場所でしょう。行きつけのスーパーが、遠くに写りこんでいる!

ざざ虫、というのはそういう名前のむしではなくて、トビケラやカワゲラ、ヘビトンボなどの幼虫の総称らしい。川底の石の裏側にこのざざ虫たちがくっついているのを、なんやかんやして石から剥がし、網ですくい取るのだそうな。

これ、こういうの、お子とともに、食育として読むの、いいですね。

ざざ虫食べる文化を伝えるため、給食にざざ虫が出たり、佃煮を作ったりする小学校もあるそうな。いいじゃない。かっけーじゃない。

世界的な食糧難は、お子たちの時代に確実にやってくるわけで、それならば少しでも生きやすくしておきたい。むし食うことに対して、抵抗を減らしてやりたい。

たとえば、

「親子いっしょにセミ採りに出かけ、つかまえたセミを素揚げにして食う」

のはハードルが高いが、加工品くらいならさらりと食べて見せたいものだ。ことさらに、むしを喰らう!みたいのじゃなくて、ふつーに。食材ですけど、なにか?くらいのさりげなさでね。

まあ、そうは言っても、わたしはざざ虫がすでに佃煮になった姿しかこれまで見たことなかったので、本の中の採りたてのざざ虫たちのその色ツヤが、リアルに【むし】で、いやー写真のもつパンチ力ってすごいすね。

さて、昆虫食をざっと学び、多少なりとも、むしと向き合う心構え、は、できた気がするので、まずは第一歩、むしをお皿にかわいく飾ってみましたよ。


上2匹がざざ虫、中央がはちの子(さなぎ)、下が同じくはちの子(だいぶ成虫)。

どうですか。まあ、飾ったとて、むし、なんですけど。

おそらく、冷蔵庫のむしは年を越すだろう。

それでも、少量を小鉢にかわいく飾って、冷酒とともに~とか、ニンニクきかせたパスタのトッピングに少量、冷やした白ワインとともに~とかね。

時には酒の勢いも借りつつ、じわじわと前向きにむしに挑んでいこう、むしとともに生きていこう、と心に決めました・2018冬。

ではまた来月。

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