『東京ラブストーリー』の原作者として知られる日本の漫画家。大人の恋愛に関する漫画は数知れず、恋愛をテーマとしたエッセイも多く著しています。非常に胸に突き刺さる話ばかりであることから、「恋愛の巨匠」と呼ばれることも。 今回は、そんな柴門ふみの人となりから覚えておきたい名言、意外な裏話などをご紹介しましょう。
柴門(さいもん)ふみは1957年1月19日生まれ、徳島県出身の漫画家です。本名は 弘兼準子(ひろかね じゅんこ)。エッセイストとしても知られている人物です。
バブル期に人気となったトレンディドラマの原作者ということもあり、恋愛の達人的存在とされています。
東京ラブストーリー(1) (ビッグコミックス)
結婚しており、娘と息子が1人ずついます。愛犬はウェルシュ・コーギーのリンコ。吉祥寺にある豪邸に住んでいることが知られています。
ロックバンドの「スピッツ」好きを公言しており、特にボーカルの草野マサムネは理想の男性とのことです。
代表作は漫画『東京ラブストーリー』、『あすなろ白書』など。著書には『恋愛論』、『いつか大人になる日まで』などがあります。
柴門ふみの配偶者は、同じく漫画家の弘兼憲史です。超ロングセラー作品「島耕作」シリーズの作者といえばわかりやすいでしょうか。
2人は1980年に結婚して、2019年で結婚39年目を迎えます。業界ではおしどり夫婦ともいわれていたようですが、実際には順風満帆というわけでもなかったようです。
- 著者
- 弘兼 憲史
- 出版日
- 2008-05-16
「婦人公論」2015年6月号のインタビューで、なんと柴門は夫婦生活を曝露。弘兼は私生活では育児放棄し、両親の介護にも無関心。にも関わらず離婚はしたくない、という身勝手な人物であるそうです。
現在は別居して、よい距離を保っているのだとか。
柴門ふみの話題で絶対に外せないのは、やはり作品が何度もTVドラマ化されていることでしょう。
トレンディドラマのイメージを決定付けた『同・級・生』。バブルを背景に、奔放な女性の恋愛を描いた『東京ラブストーリー』。そして大学生などの男女5人の恋愛と友情を描いたの『あすはろ白書』。
前2つは坂元裕二が、後の1作は北川悦吏子の脚本でした。『あすなろ白書』は、あの木村拓哉の出世作としても知られていますね。
あすなろ白書(1) (ビッグコミックス)
時代の変化で、今はそれほどでもありませんが、かつてのフジテレビ月曜9時ドラマ枠、通称「月9」はとてつもない人気を誇っていました。この3作は、すべてがその月9ドラマ。しかも、屈指の名作です。
1本でもヒットすれば凄いのに、何本も大ヒットしてるところが、柴門ふみの驚異的なところでしょう。
先述した『東京ラブストーリー』は、社会に出て働く同世代の男女の恋愛模様を描いた作品でした。特にこの作品を特徴付けるのが、ヒロインの赤名リカというキャラクターです。
帰国子女の彼女は、恋に遊びに自由奔放。それまでのドラマでよくあった清純な女性像とはかけ離れた、途轍もない人物像でした。放送当時は高度経済成長の影響で、性の考え方に変化が生じた時期でもあり、まさに時代を象徴するキャラクターでもあるのです。
東京ラブストーリー(1) (ビッグコミックス)
あまりにも型破りなキャラは衝撃を持って迎えられたのですが、実は彼女にはモデルがいたことが後年明かされました。
それはなんと、当時の柴門の女性担当編集だったそうです。リカと同じように(モデルなので当然ですが)遊び歩き、山のようにアクセサリーを買い漁っていたとか。現実の方が漫画っぽいという、バブルならではのエピソードといえるでしょう。
時代の機微を捉えて数々のヒット作を生み出してきた彼女は、エッセイの端々でも見られるように、とても鋭く観察する作家です。
作家の林真理子との対談でも、アラサーの社会人女性はさらに上の独身世代を手本に、仕事の邪魔をしないパートナーとの早期結婚を意識していると語っています。つまり、玉の輿は狙っていないということです。
その他にも、アラフォー以上の女性が浮気・不倫することに対する世間の目の厳しさなど、世間の風潮を冷静に分析しています。
こうした発言からは、今の男女の恋愛観をしっかり観察していることが窺えるでしょう。そうした視点が、彼女の作品に生きているのです。
柴門は一時期、乳がんにかかって入院していたことがありました。
手術自体は無事に成功したものの、当時は不安で押し潰されそうだったといいます。たくさんの作品を手がけ、2人の子供も無事巣立たせることで親の役目も終わり、精神的に弱っていた彼女はどんどんネガティブになっていったそうです。
そんな彼女を救ったのは、なんと女芸人・いとうあさこでした。偶然テレビを見ていた柴門は、いとうが『同・級・生』の主題歌を歌って「我ら柴門世代!イェイ!」と言っている姿を見て、まだ自分を覚えてくれている人がいるのだと勇気付けられたのだそう。
作家冥利に尽きるとは、まさにこのことでしょう。
時に「恋愛の巨匠」「恋愛の教祖」とも呼ばれる柴門ふみには、恋愛関係の名言がいくつもあります。各種エッセイのなかで語られたそれらから、特に印象深い5つをランキング形式でご紹介していきましょう。
- 著者
- 柴門 ふみ
- 出版日
第5位
男は悲しい過去を語る女に弱く、女は未来の夢を語る男に弱い
(『恋愛の法則36』より引用)
男女の価値観、その相違を鋭く指摘する名言といえます。男性はこれまでの積み重ねで相手を見ることが多く、逆に女性は将来の展望や発展性で相手を計るというわけです。
第4位
性格のいい美女は、醜男の情熱に負ける
(『恋愛の法則36』より引用)
美人というものは概してプライドが高く、世間体を考えるものです。言い換えれば保守的。醜男はその正反対で、失うものが何もありません。だから美男美女が考えられないほどがむしゃらにアプローチするので、根負けしてしまうというわけでしょう。
恋愛論
第3位
「言葉にしなくても愛は伝わるはず」
これは思い上がりというものです
(『恋愛論』より引用)
これは恋愛だけに限らず、人間関係にありがちな幻想といえます。言わなくても行動でわかる。ですが、私達はエスパーではないので、思っていることは言わなければほとんど伝わりません。男女間であっても、言葉にしなければ心は離れていくだけなのです。
- 著者
- 柴門 ふみ
- 出版日
- 2017-02-19
第2位
結婚生活とはいわば冷蔵庫のようなものである。
冷蔵庫に入っている限られた素材で、いかにおいしいご馳走を作り出すか、それに似ている。
決して、他人の冷蔵庫を羨ましがらないことだ
(『結婚の嘘』より引用)
隣の芝生は青い、とはよく言ったものです。結婚ではほとんどのケースで、どれほど完璧に見えるカップルであっても似たような悩みや問題を抱えています。そもそも他人を見ても、その人になることは出来ないので、自分達の冷蔵庫でごちそう=幸せを生み出すしかないのです。
第1位
彼が嫉妬深いことを喜んではいけません。
それは、彼があなたに対して貞淑である証拠にはまったくならないからです
(『恋愛論』より引用)
言葉にしなくても伝わる、というところをさらに突っ込んだ名言です。嫉妬深いということは、おそらく言葉にはしていますが、その裏側にある本心や見えないところでの行動は不明なままです。口に出しているからといって安心材料にはならない、という警句といえます。
このあとからは、柴門ふみの意外と知られていないであろう、代表作以外のおすすめ作品をご紹介します。
社会に出て結婚し、子供も生まれ、「女」から「母」になって久しい3人の女性。弁護士の夫を持つセレブ妻、熱心なキャリアウーマン、そしてでパート勤務で母子家庭の母が登場します。
性格も生い立ちも何もかも異なる彼女達でしたが、3人の息子が同じ名門校に通っているという共通点がありました。三者三様の母達の人生が、息子の落第寸前の呼び出しで交錯し、やがてそれぞれが道ならぬ恋に落ちていくのです。
- 著者
- 柴門 ふみ
- 出版日
- 2018-05-30
大人の女性恋愛を描かせれば右に出る者のいない、柴門ふみの2019年1月時点での最新作です。
本作は、不倫をテーマとした漫画となっています。柴門自身、不倫というものへの理解がずっとなかったのですが、いざ子育てを始めると、意外なほどに不倫する母親がいる、という実情を目の当たりにしたそうです。
そんな実体験から、母になった女性達がどのようにして再び女を取り戻していくのかということに着目した作品を描こうと思い立ったのだとか。
非日常的と思っていた不倫が、意外なほど日常的に描かれている本作。その経験から紡がれる母の恋は、やはり途轍もなく現実的で、刺激的で、そしてシビアなものとなっています。
女となった母がどのような運命を辿るのか?彼女達の家族はどうなっていくのか?大御所の手腕で見事なまでに描かれていきます。
大人になってしまった、かつての少女。見た目が美人で頭もよく、ちやほやされてきた彼女達は、特にこれといった困難もなく社会に出ていきました。しかし、仕事に恋愛に結婚、大人になってから立ち塞がる壁は、彼女達の価値観を容赦なく変えていきます。
これは、そんな大人になった女性を主題とした、1話完結の短編集です。
女ともだち : 1 (アクションコミックス)
柴門ふみの真骨頂が楽しめるのが、1983年から「別冊漫画アクション」で連載され始め、後にまとめられたこの『女ともだち』という作品です。各話で別々の主人公が登場しますが、それぞれまったく異なる恋愛模様が展開されるところに特徴があります。
80年代の日本、高度経済成長の真っただ中に生きる、リアリティある働く女性像がそこでは描かれています。現実では1985年に男女雇用機会均等法が施行されたころで、ちょうど女性の社会進出が本格化してきた時期と合致しているのです。
柴門ふみ特有の等身大の女性の恋愛観と、現在に連なる昭和の空気がありありと感じ取れる名作となっています。
いかがでしたか?「恋愛の教祖」と呼ばれるだけあって、とても面白い話ばかりでした。感銘を受けた方はぜひ1度、柴門ふみの著作を読んでみてください。