真藤順丈のおすすめ書籍5選!『宝島』だけじゃない、直木賞候補作家の作品

更新:2021.11.16

『宝島』が直木賞候補にノミネートされ、注目されている真藤順丈。ホラー、ミステリー、純文学、ライトノベルと多彩なジャンルの作品を書くことと、バイオレンスでスピーディなストーリー展開が魅力の作家です。この記事では、そんな彼の作品のなかから特におすすめのものをご紹介していきます。

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真藤順丈とは。さまざまなジャンルを手掛ける多才な小説家

 

1977年生まれの真藤順丈。30歳を迎えた2008年に、毎月1作を新人賞に応募することを決め、なんとそのうちの4作品が受賞。一躍注目を浴びてデビューをした小説家です。

特徴は、なんといっても作品のジャンルが多岐にわたっていること。純文学やホラー、ミステリー、SF、ライトノベルなど幅広く、2008年だけで「ダ・ヴィンチ文学賞大賞」「日本ホラー小説大賞」「電撃小説大賞」「ポプラ社小説大賞」を受賞しています。2019年には「直木賞」にノミネートされたことで話題になりました。

学生時代にクリエイティブ集団を結成し、映画監督を志していたこともあり、スピーディで映像的な感性を駆使した作風が魅力です。バイオレンスな描写もありますが、限界的な状況のなかで見えてくる心理描写に定評があります。ストーリーだけでなく文体にも工夫を凝らしているので、その点でも注目でしょう。

では、そんな真藤順丈の神髄を味わえる作品をご紹介していきます。

真藤順丈の代表作!直木賞にノミネートされた『宝島』

 

戦後の沖縄を舞台に、1972年に本土に変換されるまでを描いた作品です。2019年に直木賞にノミネートされ、真藤順丈の代表作ともいえる作品になりました。

米軍基地から物資を略奪し住民に分け与える「戦果アギャー」。なかでも「オンちゃん」は住民たちから英雄視されていました。しかしある夜に米軍基地を襲ったまま、消息不明になってしまうのです。

オンちゃんの行方を追いつつ、彼を慕っていた3人の若者たちの数奇な運命が描かれていきます。

著者
真藤 順丈
出版日
2018-06-21

 

オンちゃんがいなくなり、3人の若者たちは警察官、小学校教師、反体制派人物とそれぞれ異なる道に進んでいきます。しかし彼らはそれぞれの立場でオンちゃんの意志を受け継ぎ、沖縄のことを想いながら生きていました。

物語自体はフィクションですが、戦後の沖縄で実際に起きた事件なども描かれ、なかなか表立って報道されることの少ない沖縄の苦闘と、複雑な状況をうかがい知ることができるでしょう。

オンちゃんの行方を追うミステリー要素と、若者たちの青春の日々、そして戦後沖縄史を学ぶこともできる一冊です。

ホラーだけどホラーじゃない真藤順丈のおすすめ小説『庵堂三兄弟の聖職』

 

2008年に「日本ホラー小説大賞」を受賞した作品です。

主人公である三兄弟の家業は、弔いの一環として死体から骨や皮を取り出し、石鹸や財布などの生活用品として作りかえる「遺工士」というもの。父親の七回忌をきっかけに、家業を継いだ長男と彼を手伝う三男、そして都会に出たものの進路に迷っている次男が久しぶりに集まりました。

そこへとある難しい依頼が舞い込んできて、彼らの過去が浮かびあがってきます。

著者
真藤 順丈
出版日
2010-08-25

 

死体を加工して物を作り出すので、スプラッタな描写はもちろんありますが、そこから感じられるのは恐怖ではなく、真摯な姿勢と圧倒的なパワーです。三兄弟たちがさまざまな人の生死を受け止めていくドラマとしての完成度に秀でていて、ホラー小説が苦手な方にもおすすめです。

特に三男の庵堂毅巳は、激昂しやすい汚言症で罵詈雑言をくり返しながらも、その根底に人に対する熱い情がある人物として描かれていて、その健気さに爽やかな感動すら感じられるでしょう。

真藤順丈が描くディストピア小説『RANK』

 

ネットワークを駆使したカメラが設置され、国民は行動を逐一チェックされる監視社会が舞台です。社会的行動にもとづいてランキングをつけられ、順位が下位の者は反社会的な人物とみなされて処分されてしまいます。

本書は、その処分を実行する特別執行官たちの視点で描かれた物語です。

著者
真藤 順丈
出版日
2011-12-06

 

ターゲットが女性であれば陵辱すらも辞さず、強烈な暴力性を体現して該当者を殺戮していく特別執行官。さらにそんな彼らを狙うテロの影や、テロをけん引する「最下位の人」などが絡みあい、ストーリーはぐいぐいと進んでいきます。そのドギツさと破滅的なビジョンは、真藤順丈作品のなかでも随一だといえるでしょう。

近未来の日本を描いたディストピア小説ですが、大衆のぼんやりとした総意と、それを表したかのような堅苦しい制度、制度に対する不満……と現実世界とリンクする部分も多くあり、ページをめくる手が止まりません。監視とランク付けを徹底する国家の本当の目的とは何なのでしょうか。

生まれた時から「墓」だった男の一代記『墓頭』

 

頭のこぶの中に双子の弟の遺骸をもって生まれてきた男、「墓頭(ボズ)」。彼の正体は、毛沢東やポル・ポト、クメール・ルージュなどアジアの独裁者とそれにまつわる虐殺に携わり、歴史の裏側で暗躍してきた人物でした。本書は、そんなボズの生涯を描いた物語です。

舞台はアジア各地におよび、真藤順丈作品のなかでもそのスケールは最大級。舞台の広さに比例するように、バイオレンスな描写もまたエスカレートしています。

著者
真藤 順丈
出版日
2015-10-24

 

主人公は、とある小説家。行方不明となった父親の消息をたどるうち、ボズのことを知るのです。一体彼は誰なのか、正体を探るミステリー要素と、歴史小説の要素が絡みあいながら物語は進んでいきます。

ボズはもちろん、彼が呼び寄せてしまう死の影に取り込まれていく登場人物たちも、それぞれに強烈なキャラクター。運命を交錯させながら、戦後のアジアを生きていくのです。

真藤順丈が映画人を描いた群像小説『七日じゃ映画は撮れません』

 

日本映画界の重鎮として、数々の映画人の育成にも尽力してきた皆田晃三郎が亡くなりました。遺言に従い、とある映画監督のもとに脚本が届けられます。

本書は、その脚本を映画として完成させるために集まったスタッフたちを主人公にした連作短編と、実際に映画の撮影に挑む姿を描いた長編の2部構成になっています。

著者
真藤 順丈
出版日
2018-12-06

 

もともと映画監督を志望していた真藤順丈の経歴がいかされた作品といってよいでしょう。さまざまな過去の名画を引用し、膨大な数の注記があり、その情報量の多さに圧倒されます。

予算不足にあえぐ邦画界や、監督同士の方針の違い、作品にかけるそれぞれの信念などが、実際に制作に携わっていた真藤だからこそ書ける裏事情も交えて描かれていきます。

ひとつの映画を完成させるためのストーリー展開と、群像劇を楽しめる一冊です。

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