2019年に星野源が主演で映画化される本作(映画名は『引っ越し大名!』)。なんだか、タイトルだけでちょっと面白そうなイメージですよね。歴史ものなのはなんとなくわかるかと思いますが、引っ越し?大名?と思わず手に取りたくなってしまいます。 今回は、そんな映画化の元になった『引っ越し大名三千里』を、あらすじから結末まで解説していきしょう!マンガ作品はスマホアプリから読むこともできます!
時は江戸時代。徳川家が治める天下で、家康の血を引く松平直矩(なおのり)という男がいました。
彼はそんな由緒ある血族であるにも関わらず、生涯に7回もの国替えを命じられてしまいます。一人暮らしの引っ越しですら大変なのに、家臣や財産、家族と一緒に国を引っ越すなんて、ちょっと考えただけでも大ごとです。
そんな彼のもとで引っ越し奉行をしていた家臣が亡くなった後、その役目を任されたのは「引きこもり侍」と揶揄される片桐春之介。
「人無し・金無し・経験なし」の「3無し」状態で国替えを任された彼は、果たして三千里もの引っ越しを成功させることができるのでしょうか。
- 著者
- 土橋章宏
- 出版日
- 2016-05-12
映画化にあたって主人公・片桐春之助を演じるのは、星野源。その春之介を勇気づけ、協力していく幼馴染の武芸の達人・鷹村源右衛門を演じるのが、高橋一生です。さらに、亡くなってしまった引っ越し奉行の娘・於蘭には高畑充希が決定しています。
ストーリーもさながらキャストも豪華で、かなり期待ができそうです。星野源は時代劇初挑戦。さらに主要キャスト全員人気俳優なうえにコメディ作品ということで、人気が出そうですね。
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土橋は大阪府豊中市出身で、1969年生まれ。
もともとエンジニアでしたが、退職してweb制作会社を設立します。その傍らでシナリオや小説を書き始めました。
有名な作品は「超高速!参勤交代」シリーズ。人気を博して翌年には映画化、さらに2016年に再び『超高速!参勤交代リターンズ』として再び映画化されています。
- 著者
- 土橋 章宏
- 出版日
- 2015-04-15
もともとエンジニアということですが、まったく違う物書きの世界でも活躍しており、いくつか賞も受賞しています。また小説だけでなく、映画やテレビドラマのシナリオも手掛けるなど、幅広く活動しているのです。
上記2作品だけでなく、ほかの作品でも時代ものを書いていることが多い作家です。
主人公・片桐春之介は、引きこもりの書庫番。出世や昇給などには縁がなく、引きこもって本ばかり読んでいます。そのため、ついたあだ名は「かたつむり」。そんな彼に、なぜ引っ越し奉行の白羽の矢が立ったのでしょうか。
引っ越しを命じられた君主・松平直矩は、これで5度目の引っ越し。何度もの引っ越しで藩の財政はひっ迫しているのに、今回の引っ越しは、追いうちのように減封処分(石数を減らされること)まであります。
開き直って引っ越しを成功させようと息巻きますが、引っ越し奉行の前任者はすでに死亡。家臣同士の会議で「本ばかり読んでいるから知識がありそうだ」という理由で、春之介が任されることになってしまったのでした。
それを後押ししたのが、御刀番で、春之介の幼馴染・鷹村源右衛門。彼の説得によって、春之介は一念発起するのです。この2人と、前任者の娘である於蘭を加えた3人で力を合わせて、引っ越しを成功させようと奮起します。
於蘭は、この引っ越しのアドバイザー的存在。そして、春之介にとっては癒しの女性でもあります。
引っ越しに当たってさまざまな難問が出てきますが、その都度、クセの強い上司が登場。小林彦太郎は、減らしてほしい荷物を一向に減らしてくれません。捨てねばならぬ根拠を示せ!と言ってくるのです。これを、ある手段で言いくるめるのですが、それならお前も荷物を減らせ!とさらに交渉してきます。
そのほかにも、勘定奉行や家老、金を貸してもらう和泉屋など、ひと癖もふた癖もある登場人物が数多く出てきます。それを、仲間と知恵とで解決していく主人公たち。1人1人の無理難題にも注目して、読んでみてください。
この小説の魅力の1つは、軽快に進む物語のテンポのよさです。
歴史小説ですが現代風の文章で書かれており、時代もの特有の読みづらさがありません。全部で21章で構成されていますが、1つの章で1エピソードというような構成でできており、そのたびに春之介の成長が垣間見えます。
1つ1つ出てくる問題を誰かに相談してみたり、時には非情な判断をしたり……。人もいない、お金もない、そして次々出てくる曲者の上司や取引業者たち。人と話して問題を解決していくさまは、読んでいてもかなり軽快です。
前半は、引っ越しをするにあたって必要なものを手配し、不要なものを手放す・手放させる、お金を調達する、の大奮闘。後半はやっと出立した……と思った矢先、道中での問題勃発。
問題発覚、知恵だし、解決。このくり返しが話の読みやすさ・テンポのよさを出しているのではないでしょうか。
本作の見所は、なんといっても主人公・春之介の成長です。
もともと出世に対する興味のない「本の虫」だった彼。知識を詰めることは好きでも、誰かと交渉したり、何かを考えて行動したりということは、なかなかありませんでした。しかし、引っ越し奉行のオファーを受け、出世を喜ぶ母のために一念発起します。
前任引っ越し奉行の娘・於蘭に好意を抱いたのも、行動的になった1つの原因です。協力し、優しくしてくれる彼女の存在と、幼馴染・源右衛門の激励で強くなっていきます。
春之介は知識ばかりある、いわゆる「頭でっかち」な若者でした。しかし、この仕事を任されたことによって、その知識を現実に生かすことができたのです。さらに、誰とも話さず本が友達だった彼は、この仕事を通じて人と話し、問題を聞き、交渉するという力も身に着けていきます。
きっかけは誰もやりたがらない役割が回ってきた、というようなことでしたが、仲間の協力と自分の知識でどんどん成長していき、始めと終わりではまるで別人のように感じられるでしょう。
実は、春之介の担当した国替えは、1回だけではありませんでした。ですが、ここでも成長していた春之介。最初の引っ越しのときから、次にいつ引っ越しを命じられてもいいように資金の準備、そして戦略をずっと温めていたのです。
於蘭とも家族となり、春之介はさらに成長していきます。引っ越し方法を他国に売るなどして、資金を調達していくのです。国替えはどの国でもありうることであり、そして頭を悩ます問題。これまで得た方法を商材にしてお金を得ていたのでした。これには、春之介の頭のよさにびっくりですよね。
度重なる国替えのなかでも、当初の場所であった姫路に残してきた仲間と再び合流するなど、仁義も忘れません。しかし、そんななか、また国替えを命じられてしまいます。しかも、それは将軍の側近の柳沢吉保の私怨によるものでした。
そんな理由で、たびたびお金も時間もかかる国替えをやっていては、どうしようもありません。
そこで春之介は、松平直矩と将軍・綱吉に、どのように国替えを取り消してもらうか考えます。果たして、彼の策略とはいったいなんなのでしょうか?
- 著者
- 土橋章宏
- 出版日
- 2016-05-12
最後は春之介の成長とともに、「変わらないこと」も浮き彫りになります。引きこもりだった自分が一歩踏み出して変わったこと、そして変わった根本には、「かたつむり」だった自分のベースがあること……。
一歩踏み出す勇気、そして今までやってきたことに何の無駄もないこと、また人は変われること。春之介とその周りの人々を見ているうちに、なんだか自分の仕事や悩みも解決できそうな気がしてきます。
彼の成長を、ぜひ本編でお確かめください。
『引っ越し大名三千里』、いかがでしょうか?読みやすさ、春之介の成長、作戦の思慮深さ……一貫してコメディタッチの話ではありますが、爽快さと感動も一緒に味わえる素敵なお話だと思います。ぜひ、手に取って読んでみてくださいね。