周囲に内緒で付き合う、「大人っぽい」と評される主人公カップルをメインとして、バラエティ豊かな恋模様の描かれる恋愛漫画です。主人公達のあまりの純粋さに、悶絶必須の作品です! 本作はスマホアプリからも読むことが出来るので、気になった方はまずそちらでお試しいただくのもおすすめです。
日本のどこにでもありそうな、とある平凡な中学校。そこに通う2年生の生徒のなかに、主人公の田中彼方と吉川和樹がいました。
2人は同じ学校、同じクラスに在籍する同級生。彼らは同学年の生徒達より大人びた雰囲気を持っており、周囲から慕われていました。
彼方と和樹はそれぞれが女子生徒、男子生徒の中心的人物となっていますが、一見お互いに接点はほとんどないようです。
- 著者
- 水谷 フーカ
- 出版日
- 2011-06-30
しかし、それはあくまで表向きのこと。
彼らは幼いころから付き合いのある幼馴染みであり、2人きりの時には昔からの気安い本音を見せ合う関係でした。お互いに素の自分を出せる、唯一の相手だったのです。
そして同時に、好き合う間柄でもありました。
それは他の誰も知らないこと。特別隠しているわけではないものの、大人びていると持ち上げられている手前言い出せないまま、彼らの関係はなんとなく秘密となっていったのです。
そんな2人を中心として、14歳という大人でも子供でもない、微妙な世代の淡い純情が描かれていきます。
主人公は14歳の少女・田中彼方と、同じく14歳の少年・吉川和樹の2人です。
彼方はロングヘアの似合う、清楚で可憐な大和撫子。常に落ち着き払っており、誰からも(特に同性)から好かれるお姉さん的存在です。
一方の和樹はややワイルドさのある少年で、豊富な経験(があると思われている)からくる自信に満ち溢れたリーダー格。垢抜けた風貌から、同世代の女子にとっては近付きづらく、男子達からは兄貴分的存在となっています。
どちらも実に大人っぽく描写されている2人。本当は彼らがそう望んだわけではないのですが。
実際の彼らは年相応というより精神年齢はだいぶ幼く、内心の反応は初心そのもの。読者目線では、非常に微笑ましく映ります。
また不良少年・長井辰巳や、文学少女の志木葵、江藤恵理子など脇を固める登場人物達の色恋にも時折フォーカスが当たり、主役級の魅力が引き出されるのです。
本作は水谷フーカの前作『GAME OVER』などとクロスオーバーすることもありますが、基本的には中学2年生の恋愛がメインとなっています。
14歳といえば、思春期真っ盛り。そういった微妙に難しい年代であるためか、彼方と和樹がそうであるように、作中で取り上げられる恋愛模様には秘密の関係が多いです。
ずっと前から付き合っているのに言い出せない、彼方と和樹のカップル。不良少年と女性教師の密やかな関係。同性に憧れる少女の禁断の思慕……などなど、表立っての交際が難しいものが大半なのです。
背徳的といえないギリギリのラインで、さまざまなドラマが生み出されます。
主要カップルである彼方と和樹は、お互いにすべて知り尽くしている幼馴染み同士。本編開始当初から彼氏彼女の関係にあり、意思疎通のツーカー具合でいえば、もはや熟練夫婦の域にあると言っても過言ではありません。
それにも関わらず、中学生らしいプラトニックな繋がりに終始しているのが魅力的です。
幼馴染みらしいパーソナルスペースを半分共有しているかのような距離感かと思えば、ふとした瞬間に男女を意識して固まってしまったりと、新鮮な反応を楽しむことが出来ます。
主役以外の恋模様についても同様で、若々しい感性によるリアルなやり取り、もどかしさが魅力となっているのです。
周囲からなぜか大人っぽく見られる彼方と和樹は、その期待に応えるように、学校では「大人」の仮面を被り続けています。が、一皮剥いて素に戻れば、お互いに小学生時代と変わらない気安い関係でした。
そんなある日、「変わらない」と思っていた自分達にも変化が起こっていたことに気付きます。
それは急な変更で、揃って日直に選ばれたことがきっかけ。秘密の関係のため、クラスでも極力接触していなかったのに、思わぬ急接近を果たしてしまいます。
そこで彼らは大人の仮面をつけたまま、日直をこなすのですが……。
- 著者
- 水谷 フーカ
- 出版日
- 2011-06-30
学校では大人の振りをし、校外では年齢相応(もしくは、もっと幼い)のやり取りをする2人。適度な距離を保っているからこそ、見えないこともあるのです。安心からある種のマンネリ化していた互いの認識があらたまり、新鮮な反応が描かれます。
子供っぽさと大人っぽさが同居する、ピュアな青春といえるでしょう。
なんの因果か、はたまた運命の悪戯か。クラスメイトの病欠が重なって、彼方と和樹は再び揃って日直に任命されます。
そうでなくとも、何かと学校での接点が多くなりつつある2人。近くにいられて嬉しい反面、関係を知られてはいけないことから、窮屈さが増していました。
- 著者
- 水谷 フーカ
- 出版日
- 2012-06-30
そんな最中、ひょんなことから2人に、お互いが「女」であり「男」であることを実感する出来事が起こってしまいます。
実はこの2人、中学1年生の時はクラスが別々でした。しかし2年生に進級し、小学校以来のクラスメイトとなったのです。もちろん校外では会っていましたが。
彼らが男女を実感した原因とは、否応なく訪れる体の変化です。思春期=成長期なので当然ではありますが、ずっと一緒で、ずっと変わらないと思い込んでいただけに動揺もひとしお。その反応がとても初々しく表現されます。
大人びているうえに面倒見がよい彼方と和樹は、学級委員でもないのに何かと頼られることが多いです。運動会の時期が近付きつつあるなか、そんな2人がとある問題を前にして悩んでいました。
それは、クラスの男女の対立です。
- 著者
- 水谷 フーカ
- 出版日
- 2013-04-30
異性への反発は、思春期のこの時期にはよくあることでしょう。同い年にも関わらず、彼方と和樹は仲裁役として奔走することになります。
いつものように冷静になだめて沈静化を狙うのですが……ここで不穏な雲行きとなります。些細な行き違いから、なんと彼方と和樹が対立してしまうのです。
お互いに本心はわかってるのに、成り行きですれ違ってしまう2人。これまでにない窮地です。ここで他人が思ってるほどには大人ではない、子供っぽい2人が見られます。
珍しく喧嘩してしまった彼方と和樹、この話の顛末が見所です。
まもなく秋。季節は衣替えの時期にさしかかっていました。
気温はまだまだ暑さを感じるものの、彼方は解禁日にいち早く冬服で登校してきます。一方の和樹は、まだまだ夏服で悠々自適でした。
- 著者
- 水谷 フーカ
- 出版日
- 2014-04-25
衣替えにまつわる、ほのぼのエピソード。
冬服の解禁日は偶然にも夏日で、早くも衣替えしてしまった生徒達は暑さにげんなりしてしまいます。彼方もその1人でしたが、体面を保つため、おくびにも出しません。この辺りのくだりは非常にコメディチック。
彼方が冬服にこだわる理由は子供っぽくもありつつ、女性らしさも感じられます。お気に入りの冬服で和樹とお揃いになりたいという、いじらしくも微笑ましい乙女心。
本作にしては珍しく、袖まくりやスカート折りなどのリアルなシーンが若干フェティッシュに感じられます。ただし中学生らしく、性的過ぎない健全なレベルです。
運動会も終わって落ち着いたかと思いきや、中学2年生にはまだ一大イベントが控えています。それは中学校最大の思い出ともいえる、修学旅行です。
その準備で、クラスがふわふわと落ち着かなくなります。
- 著者
- 水谷フーカ
- 出版日
- 2015-03-30
見かけは平静を保っていても、彼方と和樹も同様です。出来ればこの重大イベントで同じ班になりたいと願っていますが、例の如く2人はそれぞれ引っ張りだことなります。
そこで登場するのが、江藤恵理子です。修学旅行委員の彼女は、クラスをまとめるための手本となるべき1班に、2人を引き入れます。
2人にとって願ったり叶ったりですが、それがまた別の問題を引き起こすことにも繋がっていくのでした。
そして、この恵理子は、本巻で描かれる複数の恋愛模様の、中心人物の1人。いずれも彼方・和樹カップルとは違った方向性ですが、特に彼女の一歩退いた恋心には大注目です。切ない思いが募る純情は見逃せません。
いよいよ修学旅行の本番。修学旅行特有の浮ついた空気がそうさせるのか、生徒達の間で、旅行先での告白が大流行し始めます。
女子の話題も、それで持ちきり。当然のように大人っぽい(と思われている)彼方にも白羽の矢が立つのです。
- 著者
- 水谷フーカ
- 出版日
- 2016-03-31
のらりくらりと恋バナをかわす彼方でしたが、そこでふと気付きます。彼女と和樹は付き合っているものの、告白をしたことも、されたこともないということに。
付き合っているからもういい、ということにはなりません。他人に隠れてイチャイチャしていようとも、そういうイベントは大事なのです。そこで彼方は、なんとか告白のタイミングを図るのですが……。
本巻には修学旅行に学園祭と、青春に必要不可欠なイベントがてんこ盛りです。素行の悪い長井辰巳と、教師の日野原由佳のエピソードは、彼方と和樹のカップルを食ってしまうほどのインパクトがあります。要注目です。
修学旅行も終わってイベント行事が一段落し、旅先の経験が子供達を変えている……ということは基本的になく、日常が戻ってきて他愛ない日々が続いていました。
そんなある日、授業の一環で学級新聞を作ることになります。
恵理子は大張り切りで1班を召集し、学校の7不思議をテーマに紙面を作っていこうとするのでした。
- 著者
- 水谷フーカ
- 出版日
- 2017-03-31
これまで彼方と和樹はずっと、内面はともかく外面上は大人びたキャラとして描かれてきました。そんな和樹のキャラ崩壊に近い、意外な弱点が判明します。
それは、怖いものが苦手ということ。子犬のように怯える姿は、普段のギャップも相まって見物といえるでしょう。逆に彼方はノリノリで、女子は強しと思わせられます。
また本巻に収録されている「Intermission」では、恵理子の微笑ましい純情や、なぜか血液型を気にする彼方のちょっと大胆な一面が伺えます。思わぬところで性を感じるのも、思春期らしくてたまりません。
チビでガサツとして知られる彼方達のクラスメイト・加藤健次に異変が起こります。
彼が放課後の公園で、見知らぬ年上の女性と密会していたことが発覚したのです。しかも親戚や近所の知り合いというオチでもなく、純粋に会ったばかりの人だというのでした。
これには色恋に目ざとい女子だけでなく、男子も興味津々。
- 著者
- 水谷フーカ
- 出版日
- 2018-03-30
そこで水を向けられるのは、やはり大人な和樹です。実際のところ、恋愛経験は彼方以外にないのに、とりあえず協力を申し出たことで一波乱巻き起こります。
賑やかし要員だった加藤に春が訪れるという、驚きの展開。しかも、相手にはのっぴきならない事情があるということで、どこかシリアスさが感じられますが、果たして……?
また主役の彼方と和樹、文学少女・志木葵と灰島先生の道ならぬ関係にも、要注目です。
いつの間にか、季節は冬となっていました。間もなく中学3年生になろうかというこの時期に、とんでもない事態が起こってしまいます。
それは、和樹の引っ越しでした。
14歳の恋 9
2018年12月21日
本巻では、クライマックスを予感させる急転直下の展開がくり広げられます。
一緒にいるのが当たり前で、これからもずっとそうだと思っていた彼方と和樹。そんな2人の転機が、最悪の形で訪れるのです。
親の都合による引っ越し。大人びているとはいえまだ子供の彼らには、その現実に対してなす術はありません。登場人物のなかでもっとも安定していた2人だからこそ、引き裂かれる運命に胸が痛みます。
果たして、彼らのの未来はどうなるのでしょうか?悲劇の主人公となった2人ですが、和樹の男らしい姿には、彼方でなくても涙ぐんでしまうでしょう。
いかがでしたか?『14歳の恋』は外面と内面にギャップがある幼馴染みカップルの恋愛漫画と思いきや、主人公カップル以外にも見所のある恋愛群像劇です。ピュアな純情から、胸の締め付けられる切ない話まで、いろいろな話を楽しめるでしょう。