東山春人、34歳。高校教師として普通に生活する彼の夢は……女子高生に殺されること!? しかも、できれば自分の想像を絶する苦しみを味わいながら。 そんなきわめて特殊な性癖を持つ彼の、危険でおぞましい計画にまつわる一部始終を描いた作品が『女子高生に殺されたい』。一見何の変哲もない日常のなかにありながら、主要登場人物達が何らかの衝撃的な秘密を抱えているというサスペンス色の強い作品となっています。 今回はそんな本作の魅力を、全巻分ご紹介しましょう。スマホアプリからは無料で読めるので、そちらもぜひチェックしてみてくださいね。
高校で教鞭を取る34歳の男性教師・東山春人(ひがしやま はると)。彼は、とある夢の実現のために臨床心理士になることをやめ、教員免許を取得したのでした。
その夢とは、なんと……女子高生に殺される事だったのです。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2015-02-09
きわめて歪んだ性的嗜好を満たすため、彼が殺される事を選んだのは、自身が勤める高校に通う女子高生・佐々木真帆(ささき まほ)でした。
自らの欲求を満たして死ぬことを望んだ春人の恐ろしい計画が、今始まります。
ここで、作者である古屋兎丸(ふるや うさまる)についてご紹介しましょう。彼は美大出身の漫画家で、元々は油絵を主に描いていました。
漫画家への転身後、1994年「月刊漫画ガロ」にて『Palepoli』にてデビュー。そして、初の週刊連載作品『Π(パイ)』開始後にフリーの漫画家となって以降、多くの作品を世に生み出しています。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
『帝一の國』など実写映画化作品をはじめとして多種多様なジャンルの作品を描いていますが、傾向としては、ブラックで猟奇的な作風の漫画が多いといえるでしょう。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2011-03-04
いずれの作品も実に繊細な書き込みがなされており、ディープな魅力と合わさって、読者を物語に引きずり込むような独特のインパクトがあるのが特徴です。
今回ご紹介する『女子高生に殺されたい』はもちろんの事、ハマればクセになる作品が揃っていますので、ぜひ他の作品もご一読いただくことをおすすめします。
古屋兎丸の作品を紹介した<古屋兎丸おすすめ漫画ベスト5!『帝一の國』原作者の独特な世界観に浸る!>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
本作は主人公である春人が、ターゲットである真帆に殺される事を目的とした計画を実行に移すまでの物語を描いたものです。
当然の事ながら春人は、ターゲットである真帆はもちろん、その他の登場人物達にも自らの抑えきれない衝動を打ち明ける事はしません。そのため自らの抱える「秘密」を、計画の実行までは絶対に他者に悟られないように努めるのです。
読者は、そんな彼の抱える「秘密」によって引き起こされる事件の顛末を追いかける事となり、彼の計画と思惑を知りつつ、その行く末を見守る形となります。
一方で、実は本作では春人以外の人物も、おのおのの「秘密」を持っています。特に、ヒロインでもある真帆が抱えている秘密は、読み始めたばかりの読者には予想もつかないものであることでしょう。
こうした各登場人物達が抱えている事情が密接にからみ合い、すべてが春人の計画の結末に影響を与える事になるのです。
登場人物同士が何を知っていて、何を考え、そしてどんな事情を抱えているのかという事を予想しながら読み進めてみるのも、楽しみ方の1つではないでしょうか。
本作は春人の通う高校での生活を中心とした、日常の風景が全編とおして描かれています。平穏で穏やかな日常生活の描写は読者にとっても身近で、違和感なく受け入れやすいものとなっているのです。
一方で、作者の本領ともいうべき非日常の描写については、とにかく読者が不安になるほどのおどろおどろしさを演出するような描き方となっています。作者特有の繊細で細部まで書き込まれたタッチは、春人の狂気を中心とした恐怖を演出する場面のインパクトをさらに強調しているのです。
また登場人物達が激しく動き回るシーンでは、緊張感溢れる表情や躍動感が見て取れ、読み手にまで緊張感が生まれてきます。
こうしたシーンで描き方が巧みに使い分けられていることで、作品としての奥深さが増しているように感じられるのです。
ここからは、単行本ごとの見所についてネタバレ紹介していきます。
本巻では主人公の春人が、独白で自身の性癖について語り、そのターゲットとして真帆に殺される事を望んでいるという物語上の設定の根幹が説明されます。
そして、そんな彼と真帆に関わってくる主要人物として、真帆に惚れている男子高校生・雪生(ゆきお)、一度読んだ内容や見た内容を記憶することが出来るアスペルガー症候群の女子高生・あおい、そして、春人の元恋人で臨床心理士として高校にやってきた五月(さつき)が登場。
彼らと春人の関わり合いが続いていき、それぞれの関係性が明らかになっていくなか、春人はいよいよそのおぞましい計画を実行に移そうと動き始めるのでした。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2015-02-09
そんな1巻の見所は、真帆が抱えている秘密が明らかになるシーンと、その背景について語られるシーンでしょう。
先述のとおり、彼女は春人に負けず劣らずの驚くべき秘密を抱えています。そして、その秘密こそが春人にとって、真帆が自らを殺すに相応しい女子高生であると考えたきっかけでもあるのです。
その秘密が明らかになり、徐々に登場人物達のなかでその秘密が共有されていく過程で、雪生やあおい、そして五月の心情にも変化が生じ、春人の計画に少しずつ影響が出始めていきます。本巻の段階では、それがどのような結果になるのか、なかなか読み解けません。
しかし巻のラストでは、これから間違いなく何かが起こる事を予感させる内容となっており、2巻を早く読み進めたい気持ちにさせてくれるのではないでしょうか。
いよいよ、真帆に殺されるための計画を実行に移す事にした春人。高校を退職し、自らの身分を証明するものをすべて処分して痕跡も残らないようにするなど、徹底した身辺整理をおこないます。
そんな彼に対し、真帆とその事情を知る面々は、なんとか真帆の抱える秘密について力になろうと考えて行動していました。その過程で春人の計画に気付いた五月は、なんとかして彼の魔の手から真帆を守ろうと考えていたのです。
そして、ついに春人の計画実行当日になり、彼は自らを殺してもらうために真帆を呼び出すのですが……果たして、計画は成就してしまうのでしょうか。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2016-08-09
そんな2巻の見所は、春人の計画が実行に移された後のラストシーンでしょう。計画がうまくいったかいかないかについては実際に読んでご確認いただければと思いますが、読者にとっては、さらに春人という主人公の異常性を実感する事の出来るラストシーンとなっています。
まさしくサスペンス要素を色濃く演出した、衝撃作に相応しい、インパクトの強いラスト。最後まで期待を裏切らない、センセーショナルな結末です。