統合失調症、自殺未遂、夫の借金、ホステスやストリップ嬢の経験、NGなしのAV女優、そしてマニア誌で漫画連載……普通の人の、何倍もの壮絶な人生を送ってきている漫画家。それが、卯月妙子なのです。彼女は主に、実体験を元にしたエッセイ漫画を発表しています。 今回は、そんな彼女の驚くべき事実を、項目別でご紹介していきましょう。
卯月妙子(うづき たえこ)は1971年12月生まれ、岩手県出身の女性漫画家です。漫画家の他にエッセイストとしての顔も持っており、さらにAV女優の経験があるという珍しい経歴の作家でもあります。
20歳の時に結婚し、子供が1人。夫とは、すでに死別しています。
- 著者
- 卯月 妙子
- 出版日
- 2012-05-18
1991年、アダルト系月刊誌「タブー」で漫画家デビュー。それからはアダルトジャンルのエッセイ漫画を発表するようになり、「マンガ・エロティクス」での連載『実録企画モノ』が話題となっていきました。
その一方、私生活では精神を病むほどの壮絶な体験を何度もくり返しており、数回の自殺未遂を起こしています。それらの経緯や、卯月の半生が綴られた『人間仮免中』は、衝撃の内容でした。
この他、劇団「指輪ホテル」の女優としても活動。2017年には海外ツアーに参加して、舞台に上がりました。
彼女は、非常に波瀾万丈な人生を送ってきています。最初のターニングポイントは小学生の頃。多くの人が大抵の場合、幸せのなかで過ごすはずの幼少期から、過酷な運命は始まっていたのです。
幼いころに統合失調症を発症。卯月の場合は、主に幻覚や幻聴などに悩まされていたようです。そうして異常体験を重ねて、中学3年生の時に自殺未遂を起こしました。
なんとか大学まで進んだかと思えば、実母が亡くなったことや父親の再婚がたたって、混迷の度合いを増していくことになるのです。
そんな彼女は20歳の時にある男性と出会い、結婚。一児の母となります。
ところが、この旦那の方も精神障害を患う人物でした。仕事は企画業……といえば聞こえはよいのですが、ほとんど成功するアテのない事業に投資しては、借金だけがかさんでいくような有様だったのです。
卯月はそんな彼を支えて子供を養うために、身を粉にして働き続けます。それでも、次から次へと借金が出来てくるのです。そして20代の女性でも大金を短時間で稼げるということから、AV女優となったのでした。
出来るだけ高い報酬で、継続して続けたいということから、卯月はどんな要求にも応えました。その結果、NGなしのAV女優となっていくのです。
彼女の旦那は結婚と前後して会社を立ち上げており、順風満帆とはいかないまでも、そこには人並みの幸せが待っているはずでした。しかし、その会社が瞬く間に倒産。卯月家の大黒柱が消失したのです。以後は収入をすべて卯月に頼り、旦那は企画業という名のヒモとなりました。
NGなしが売りの卯月は、ハードSMやスカトロ、ゲテモノ食いなど、なんでもこなしていきます。そうしたAV女優としての仕事の傍ら、同時にイラストレーターやライター業、果てはAV撮影現場のアシスタントまでもこなしていくのです。
そんななかで、夫は精神病が悪化して、投身自殺を計ります。一命は取り留めたものの植物状態となって、約1年半後に死去しました。
この頃、どれが直接の原因というわけでもなく、おそらくすべての心労がたたって、卯月の統合失調症が加速度的に進行していくのです。
前述したように、彼女は中学3年生の時に自殺未遂を起こしました。その後、統合失調症の進行によって彼女のなかにある自傷行為や殺人欲求が肥大化し、再び自殺未遂をくり返すようになるのです。
この時期には精神科病院の閉鎖病棟への入退院、自殺未遂、薬物の過剰摂取などで身も心もボロボロになっていました。こうして恒常的に手が震えるようになったため、漫画家の仕事は2002年の『新家族計画』2巻からストップ。
- 著者
- 卯月 妙子
- 出版日
それでも女優などは続けていました。しかし、2004年に新宿にあるストリップ劇場の舞台上で、自ら喉を切るという事件を起こします。その後3日間意識不明となり、奇跡的に回復。再び女優業に復帰するのです。
それから3年後の2007年、今度は歩道橋から突如飛び降り自殺を図ります。このことから、顔面崩壊と片目失明という大怪我を負いました。
2012年までの時点で、精神病院への入退院回数は、なんと7回。
統合失調症は現在は回復しつつあるようですが、まだ完全には治っておらず、幻覚症状に苦しめられていることがコミックエッセイから読み取れます。
AV女優兼、ストリッパー兼、グラビアモデル兼、SM嬢兼、AD兼、イラストレーター兼、ライター兼、主婦……一体いくつの仕事かけ持ちしているのか皆目検討のつかない、バイタリティ溢れる卯月妙子。
そんな彼女の実体験を元にしたエッセイ漫画です。
- 著者
- 卯月 妙子
- 出版日
自称・主婦ですが、ただの主婦が経験するはずのないあんなことやこんなことを、次々と披露していく作品。本作の連載から漫画家・卯月妙子は、カルト的な人気を博していきました。
中心となる内容はかなりハードなはずですが、軽妙な口調とコミカルなタッチのため、あまり気にならずに読み進めることが出来ます。いきすぎて悲劇が喜劇のように思えるためか、あるいは壮絶すぎて感覚が麻痺してしまうのかもしれません。
アダルト業界に進出するきっかけとなった1992年の過去から描かれていくので、前述した元夫もほぼ毎回出てきます。故人に言うのもなんなのですが、この男がとにかく酷い……。なぜこれで卯月はついていったのか、読んでいて不思議になってきます。
見所は、やはりAV業界の裏側でしょう。本当にこうだったか、どこまで脚色されているのかわかりませんが、ノリノリで企画を提案していく彼女の姿に、鬼気迫るものを感じてしまいます。撮影の待機時間でADをやるというのも無茶苦茶ですし、ここまで振り切っていると逆に面白くなってくるでしょう。
統合失調症の療養をしている卯月は、ある時に北海道の障害者施設に入所。ずいぶん落ち着いてきたとはいえ、まだまだ幻聴や幻覚に悩まされる毎日が続いていました。
そんな時、彼女を訪ねて1人の男がやってきます。彼の名前は、ボビー。夫に先立たれ、身も心もボロボロになった彼女を、そっと支えてきた年上の恋人です。
- 著者
- 卯月 妙子
- 出版日
- 2016-12-12
本作は、2016年に発売。2012年、卯月が漫画家休業からちょうど10年経って発表されたエッセイ漫画である『人間仮免中』の続編です。
『人間仮免中』では入退院をくり返していた時期のことや、そしてボビー(愛称。25歳年上の日本人男性)との出会い、そして歩道橋から投身自殺を図った辺りまでが描かれました。
本作『人間仮免中つづき』では打って変わって、前作ラストから4年半後の物語が始まります。
頭が3つある犬の幻覚を卯月が見ても動じず、奇想天外な言動をくり返して糞尿を垂れ流しても包み込むボビーの寛容さ、そして偉大さ。お互いにお互いを必要とする2人の純愛は、感動的です。
いかがでしたか?これがフィクションならともかくとして、ノンフィクションだというのですから、ただただ驚きです。これを機に、卯月妙子の作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。