甘く、時にビターなスイーツミステリー小説おすすめ4選!

更新:2021.12.14

疲れた時にはあまーいスイーツが食べたい!どうせ食べるなら、それにちょっとした謎を足してみてはどうでしょう?ちょっとの刺激でもっとスイーツがおいしくなるかもしれません。甘いスイーツが紡ぐミステリー作品を、今回はご紹介します。

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和菓子が伝えるメッセージ『和菓子のアン』坂木司

和菓子にまつわるお客の不思議な行動とは?そんな日常の謎が散りばめられた短編連作の作品となっています。

主人公は高校卒業後、進学も就職もせずに無職となってしまった梅本杏子。大学に行く理由も見つからず、かといって就職もピンと来なかった彼女は、とりあえずバイトでもしながら将来を模索しようと考えます。そんな彼女が、デパ地下の和菓子店でバイトをするところから物語が始まります。

著者
坂木 司
出版日
2012-10-11

和菓子には、上生菓子という分類があります。これはよくお茶の席などで見られるような色形がとてもきれいなお菓子です。この上生菓子、季節によって商品が変わっていくわけですが、それら一つ一つにちゃんと意味があるのです。たとえば作中でも登場した「おとし文」というお菓子、これは巻いた葉っぱの上に露を模した白い餡がおかれた形をしています。これは、葉を丸めて落としてある文のような様子から名づけられているのです。

さて、物語では10個買った上生菓子の内、一つだけをこのおとし文にした、とある女性の行動の謎を探るお話になっています。ひとつだけのおとし文に隠された意味とはいったい何なのか、ちょっと気にはなりませんか?坂木司のほんわか甘いミステリー小説、ぜひご賞味あれ。

お菓子によって繋がれる、人の想い『ショコラティエの勲章』上田 早夕里

主人公の絢部あかりが売り子として働いているのは老舗和菓子屋の神戸支店です。そこの二軒隣には人気のショコラトリーがあり、そこで彼女は不思議な万引き事件に遭遇することになります。その事件により、ショコラトリーのシェフ長峰と仲良くなった彼女でしたが、その後もさまざまなお菓子にまつわる不思議な事件に遭遇することになります。

ショコラトリー、というのはフランス語でチョコレート専門店のことを言います。この話は和菓子屋と洋菓子屋、双方が出てくるのでたくさんの種類のお菓子が楽しめるのが魅力的です。

著者
上田 早夕里
出版日
2011-03-15

作中に出てくるお菓子を1つ紹介すると、ガロット・デ・ロワというパイ菓子が出てきます。この中には陶器の人形が入っており、切り分けた時にそれが入っていれば祝福をうけると言われているのです。物語では、この人形を6個入れたはずなのになぜか7個になっているという謎を解き明かします。

甘さとビターが絶妙に絡み合ったショコラトリーの物語、それぞれのお菓子に秘められた人々の幸福な記憶や切ない願いともに楽しみたい、贅沢なスイーツ小説です。

デザートに潜んだ、小さな毒『蜜蜂のデザート』拓未 司

神戸でフレンチ・スタイルのビストロを経営する料理人である、紫山幸太が主人公のスイーツグルメ・ミステリーです。デザートに力を入れようと、スイーツの研究に励む彼は家族で〈スイーツ・グランプリ〉の県代表店「テル・カキタ」に出かけたところ、息子の陽太に異変が起きてしまいます。なんとその店には以前にも食中毒を起こしたというパティシエがいたりして……。

少し毒を感じるスイーツミステリー小説です。

著者
拓未 司
出版日
2011-08-05

飲食店と食中毒という組み合わせなので、飲食業界での衛生管理などの裏事情なども垣間見えます。食というのは、信頼関係があってこそ他者に提供できるものです。その中に毒という悪意を練り込んでしまえばどうなるのか、少し怖い話でもありますね。

作者の拓未 司はもともと料理人、ということもあってスイーツの描写は見事です。とくに味覚の表現が素晴らしい、の一言でしょう。どうしても食べたくなってついつい洋菓子店に出向きたくなるぐらいなので、夜中に読んでしまうと空腹で悶えるため要注意。

ところで、この作品は「ビストロ・コウタ」シリーズの二作目の作品になっています。一冊目のタイトルは『禁断のパンダ』で、『蜜蜂のデザート』の三年前が舞台です。こちらのはミステリーよりどちらかといえば怪奇もののような雰囲気がありますが、やはり見事な料理描写に思わずよだれが出てしまいます。こちらはスイーツがメインではありませんが、興味があれば読んでみることをお勧めします。

二人の探偵高校生が、日々の謎を解く『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信

メインとなるのは小市民を目指す主人公たち、小嶋常伍郎と小佐内ゆきのコミカル探偵物語です。恋愛関係や依存関係ではないものの、いつもともにいる高校生の二人の前には本人たちの想いとは外れ、いつも謎が降りかかってきてしまいます。

この本には五作の短編連作が書かれており、シリーズとしても続いている人気作品です。主人公は前述の二人なのですが、物語は小嶋常伍郎の視点でのみ描かれており、もう一人の主人公小佐内ゆきの心情は語られることがありません。「元安楽椅子探偵と元ハードボイルド探偵(行動派)の話」というコンセプトで執筆された、ミステリー小説です。

著者
米澤 穂信
出版日
2004-12-18

さて、本タイトルであるいちごタルトに注目……したいところですが、ここでは「おいしいココアの作り方」という三つ目に掲載されている作品に注目しようと思います。

この話の謎はとんでもない事件……なんてことはなく、じつはただココアをどうやって作ったのかを真剣に考えているだけのお話です。友人の家で出された3つのココア、しかしシンクは濡れている様子がなく、かきまぜたスプーンだけ。果たしてどうやって鍋も使わず温めたミルクでココアを作ったのか、本当にそれだけなのですが結論に至るまでの推理合戦がとても面白く出来ています。

仮説をどんどん上げていくのではなく、問題の捉えなおしによる問いの変遷がミステリーとして群を抜いた出来になっています。ぜひ、ココアを片手に読んでみてほしいスイーツミステリー小説です。

いかがでしたでしょうか。頭を使うと糖分がほしくなりますから、甘くておいしいお菓子を食べながらのミステリーは相性的にもいいのではないでしょうか。かわいいケーキとおいしいココアを手に、事件の謎を登場人物と一緒に解いてみる、なんて素敵だとは思いませんか?

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