「週刊少年ジャンプ」で連載されていた、和月伸宏の漫画。錬金術を用いた、少年漫画らしい熱い展開が魅力のバトル漫画です。主人公とヒロインだけでなく、ライバルや仲間が異常にキャラ立ちしているのも特徴。アニメ版は熱い主題歌も相まって、大人気となりました。 今回は、そんな本作の魅力についてご紹介しましょう。登場人物の強さや、名シーン・名言をランキング形式でご紹介しているので、そちらもお楽しみに!
私立銀成学園高校に通う主人公・武藤カズキは、ある時に錬金術の結晶である人食い怪物「ホムンクルス」と、錬金戦団の戦士・津村斗貴子の戦いに巻き込まれました。
そこで落命したカズキは、もう1つの錬金術の結晶「核鉄(かくがね)」で蘇り、武装錬金を操る戦士となるのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-01-05
序盤は不法にホムンクルスを製造する、パピヨンこと蝶野攻爵(ちょうのこうしゃく)と戦い、それはやがて人型ホムンクルスと信奉者で形成された「超常選民同盟(LXE)」との対立に発展していきます。LXEの目的はホムンクルス以上の存在、元・錬金の戦士ヴィクター・パワードの復活でした。
かつて怪物となって、錬金戦団を追われたヴィクター。そんな彼と同じ変化が、やがてカズキにも起こり始めます。そして物語は、カズキとヴィクター、錬金戦団の三つ巴の戦いになっていくのです。
徐々に熱くなっていくのが面白い本作ですが、実は最低でも2回、打ち切りの危機に直面しました。
1度目は、蝶野攻爵との一連の戦いがありきたりで地味だったためで、これはパピヨンという人気キャラが誕生したことで回避。2度目は、なんと最終回付近です。単行本の売り上げはよかったものの、連載時の誌面アンケートが振るわず、打ち切り後に読み切りが2話付け足されて完結しました。
作品自体も、主人公カズキのように何度も蘇ったわけです。
『武装錬金』は特殊能力を使った異能バトルモノなのですが、同時に王道バトル漫画としても成立しています。非常に優れた王道少年漫画スタイルが貫かれていて、作中では燃える展開の連続。特に登場人物の信念、キャラのかけ合いが最高に魅力的なのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-04-02
漫画の時点で素晴らしい出来でしたが、アニメ化に当たって整合性の検証と、熱い場面の強調が図られています。
原作漫画は、前述したように何度か打ち切りの危機に遭いました。そのため、テコ入れによる微妙な揺らぎがあり、内容が不十分な箇所もあったのです。
しかし、アニメでは後述する伏線のうち、未消化に終わった描写がカットされたり、省略されていたムーンフェイス戦やヴィクターとの総力戦が増量されるなどの変更が入っています。こうしたことで、より本作を楽しめる内容へと変化したのでした。
熱血展開に隠れがちですが、本作ではストーリーのあちこちに、後の展開へ向けたヒントが隠されています。そこで、最初から読むうえで注目の伏線をまとめてみました。
特に大事なのは、カズキのシリアルナンバーLXX(70)の核鉄でしょう。これが、後半の重要な焦点となってきます。なぜか2つ存在する、70番の核鉄。これは一体、どういう自体なのでしょうか。後に、カズキに起こる異常が伏線となってくるのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-07-02
また、敵か味方か曖昧になるパピヨンの、食人衝動(ホムンクルスの本能)もポイント。彼は作中の時間経過で変化していき、最後に理由が語られます。そして人を襲わなくなったことから、一時的共闘などに繋がるのです。
他には錬金の戦士・楯山千歳に、意味深な行動が見られます。これは打ち切りに伴って、事実上なかったことになってしまいました。本来は鬱展開に繋がったという話も……!?
またLXEとの戦いで、ムーンフェイスが最後に不吉な発言をしていますが、結局これについては本作で進展せず……。ただし、スピンオフ小説やゲームなどで、後に回収されますので、そちらもいかがでしょうか。
『武装錬金』を語るうえでは、独自解釈による錬金術の設定、そこから発展したホムンクルスと核鉄、そして武装錬金が欠かせません。
一般的に錬金術とは、近代以前にヨーロッパで広まった原始的な科学技術のことを指します。不老不死を得る究極の物質「賢者の石」の精製が最終目標とされていましたが、現実には成功していません。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-09-03
作中に登場する錬金戦団も、元は中世ヨーロッパのギルドに端を発する研究者集団でした。ただ、彼らは「賢者の石」の副産物として人造生命ホムンクルスと、兵器に使える核鉄の開発に成功した、という違いがあります。
核鉄は使用者の精神に呼応し、使い手ごとに異なる固有の形状と特性を備えた特殊兵装「武装錬金」に変化します。
核鉄はシリアルナンバー付きで、合計100個存在。手のひらサイズの持ち運びやすい核鉄は、現代科学を凌駕した力を発揮出来るため、非常に強力なのです。
武装錬金 5 (ジャンプコミックス)
またナンバーI〜Ⅲの核鉄は「賢者の石」実験に供与されて、性質が激変。使用者を、人間ともホムンクルスとも違う、第3の超存在へと変化(最初の例であるヴィクターになぞらえて「ヴィクター化」と呼ばれる)させてしまうのです。
これらは、ただ2つの成功例ではあるものの、ホムンクルスは食人衝動を備えていて危険な存在でした。核鉄も使い方を誤れば、同様に危険。錬金戦団は、これらの技術の流出監視と、拡散防止をする組織なのです。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2005-02-04
『武装錬金』といえば、強くて魅力的なキャラと、バラエティ豊かな武装錬金の数々!サポート型の能力もありますが、やはり目立つのは武器類でしょう。今回は、戦闘を得意とする登場人物のなかから選りすぐって、10人の猛者と能力を解説したいと思います。
銀成学園高校3年の副会長。人間ですが元LXEの信奉者で、敗北後は修行の旅に出て、後に練金戦団に協力しました。
武装錬金は、日本刀がモチーフの「ソードサムライX」。切れ味鋭い両刃の日本刀の攻撃力もさることながら、特殊能力であるエネルギーの無効化が地味ながら強力です。攻撃をエネルギーに頼る相手にとっては、天敵といえるでしょう。
錬金戦団の熟練戦士。倒したホムンクルスを捕食するという、ある種の儀式をおこなう武人気質の男です。作中ではカズキを狙う再殺部隊の一員として、パピヨンと交戦しました。
武装錬金は、十文字槍がモチーフの「激戦(ゲキセン)」。槍としての鋭さよりも、持ち主の損傷を高速自動修復するという特性が魅力です。「激戦」を手にした状態では、肉体がどれだけ損壊しても瞬時に完治します。ホムンクルスを凌駕する生命力です。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2005-04-04
本名ルナール・ニコラエフ。LXEの人間型ホムンクルスです。核鉄の所持を認められているので、幹部クラスといえるでしょう。
武装錬金は、月牙がモチーフの「サテライト30(サーティ)」。月齢に合わせて、本人プラス0〜29人、最大30人まで増殖することが可能です。ただの分身ではなく、全員が本人で、しかも1人でも生き残ればそこから再増殖も出来るという途轍もない能力。
倒すためには一度に全員を無力化するか、能力を封じる必要があります。向かうところ敵なしに感じますが、以降の順位で登場するキャラは、基本的に彼を完封出来る者ばかりです。
本名・蝶野爆爵(ばくしゃく)。LXEをまとめる人間型ホムンクルスで、後述するパピヨンの高祖父です。
武装錬金は、チャフ(電波撹乱兵器)がモチーフの「アリス・イン・ワンダーランド」。半径500m以内の対象のあらゆる知覚を麻痺・錯乱させることが可能で、集束させれば洗脳や精神破壊も可能です。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2005-07-04
本名・蝶野攻爵。カズキのライバルで、序盤の敵役です。虚弱体質を治癒するため錬金術を研究し、人間型ホムンクルスとなりました。ホムンクルス化してからは、敵味方不明のトリックスターとして立ち回ります。
武装錬金は、黒色火薬モチーフの「ニアデスハピネス」。形状も威力も自由自在に、火薬を遠隔操作・爆破することが出来ます。一度に使える上限は存在するものの、攻防に使い勝手のいい能力です。
練金戦団の戦士長の1人。上に立つ人間とは思えないほど攻撃的な危険人物であり、その言動に相応しく、戦団最強の火力保持者でもあります。
武装錬金は、焼夷弾(ナパーム)モチーフの「ブレイズオブグローリー」。半径250mもの範囲のある5100度の火炎を発生させ、しかも本人は炎に同化可能という無茶苦茶な能力です。武装錬金を出している間は、ほぼ無敵といえるでしょう。
本名・防人衛(サキモリ マモル)。斗貴子の直属の上司で、カズキを戦士に導く練金戦団の、戦士長の1人です。厳しくも優しい兄貴分で、肉体的にも精神的にも頼れる大人の男。
武装錬金は、防護服(メタルジャケット)モチーフの「シルバースキン」。外部からのあらゆる攻撃をシャットアウトする、無敵の防御力を誇ります。これ自体に攻撃能力はありませんが、本人の超人的格闘術が合わさることで「無敵の盾」が、「無敵の矛」にもなるのです。
加えて、「シルバースキン・リバース」という奥の手も存在。シルバースキンを裏返して、遠隔で相手に着せることで、対象を拘束することが可能になるのです。その際には特性まで裏返って、外部の攻撃を防ぐ無敵の防護服が、内側の行動を封じる拘束服に変化します。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2005-11-04
練金戦団アジア方面・大戦士長。ブラボーや火渡の上司で、錬金の戦士を束ねる戦闘部門の顧問です。理知的な男性ですが、時折理不尽さも見せます。
武装錬金は、全身甲冑(フルプレートアーマー)モチーフの「破壊男爵(バスターバロン)」。一言で言えば、巨大ロボットです。全長57m、550トンという規格外の大きさ。両肩のスペースに仲間を搭乗させることで、その人物の持つ武装錬金を拡大増幅して使用することも可能です。
本作の主人公で、「偽善者」と呼ばれるほど自身を顧みない、お人好しの正義漢。ホムンクルスとの戦いに巻き込まれて錬金の戦士となり、後に心臓代わりに移植された黒い核鉄の影響で、ヴィクターと同等の超存在になってしまいます。
武装錬金は、突撃槍(ランス)モチーフの「サンライトハート」および「サンライトハート改(プラス)」。闘争心に呼応して出力の上昇する、シンプルゆえに強力な力です。ヴィクター化に伴って、桁違いの戦闘力を獲得しました。
100年前の練金戦団戦士長にして、最強と謳われた元人間です。黒い核鉄によってホムンクルスとも異なる第3の存在となり、危険視した戦団に命を狙われました。人に絶望して復讐の鬼となっていますが、本来は理性的で優しい人物。
武装錬金は、大戦斧(グレートアックス)モチーフの「フェイタル・アトラクション」。特性は重力操作で、瞬間的に小型ブラックホールを生み出すことも出来ます。
防御がきわめて難しい攻撃に加えて、ホムンクルスを遥かに超える超存在としての肉体も持つうえに、長きに渉る戦闘経験の豊富さもあることから、まさに作中最強と呼ぶに相応しいキャラです。
魅力的なキャラが織りなす熱い名シーン・名言の応酬は、本作1番の見所です。全10巻のなかでも指折りの名場面TOP10をご紹介しましょう。
臓物(ハラワタ)をブチ撒けろ!!
(『武装錬金』1巻より引用)
戦うバイオレンスヒロイン・津村斗貴子の代名詞にして、彼女を強く印象付ける名言。口にする度に、文字通り血の雨が降ります。
そうやって貴様は身の程を知ったワケか
そして人間型ホムンクルスで満足した!
更なる高みを知りながら羽撃(はばた)こうとはしなかった!!
(『武装錬金』5巻より引用)
一騎打ちの場面で、パピヨンがDr.バタフライに向けた台詞です。ヴィクターと出会って心酔し、進化を諦めたバタフライに対し、より高みを目指すことを宣言しました。
命の“取捨選択”なんてオレには無理!
拾える命は全部拾う!
(『武装錬金』4巻より引用)
LXE信奉者の早坂姉弟を止めるため、斗貴子は命を絶とうとします。しかし、カズキがそれを阻止。理屈ではなく感情で行動する、彼らしい名言でした。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-09-03
たとえ相手が誰であろうと自分の信念をかけて
戦うコトに悔いなどない!!!
(『武装錬金』8巻より引用)
逃走しながら、始まりの地ニュートンアップル女学院を目指すカズキ達の前に、再び立ち塞がるキャプテンブラボー。避けて通れない対決がこの言葉から開始されます。どちらも己の正義で戦うところが熱くもあり悲しくもあります。
それなら俺達は
ずっと戦友だ
(『武装錬金』10巻より引用)
斗貴子に憧れて錬金の戦士を目指すも、カズキを前に身を引いた中村剛太の吐露。彼にとって、カズキが斗貴子に並ぶほど大事な存在になったことが窺えます。友情の名言です。
…わかった
でも今じゃない
今はまだ諦めない!!
オレはブラボーの今の言葉に勇気づけられて
ブラボーと同じ信念で戦士になった
オレの人としての“最後”があと6週間なら
その最後まで貫き通す!
斗貴子さんがくれたこの命で最後まであがく!!
(『武装錬金』6巻より引用)
存在するだけで危険なヴィクター化が判明し、命を狙われるカズキ。よりによってブラボーが刺客として現れた場面で、それでも足掻くことを宣言するのでした。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2005-02-04
善でも 悪でも
最後まで貫き通せた信念に
偽りなどは何一つない
(『武装錬金』3巻より引用)
作中で折れそうになるカズキを何度となく支えた、ブラボーの言葉で、彼の信条でもあります。この名言から2人の対決に繋がってしまうのが、なんとも複雑で、かつ激アツです。
(嗚呼─ 俺の名前……)
謝るなよ 偽善者
(『武装錬金』2巻より引用)
カズキとパピヨン、初対決の決着シーン。パピヨンにトドメを刺す際、人命のためとはいえ彼を犠牲にすることを、カズキは謝ります。誰からも必要とされなかったパピヨンにとって、本名を呼んでくれるただ1人の人物が、カズキでした。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2004-04-02
決着をつけに来た パピヨン
カズキの代わりに――!
…代わりなどいない
貴様にはいるのか
武藤カズキの代わりが
カズキの代わりはいない
誰もカズキの代わりになれるはずもない
(『武装錬金』10巻より引用)
ヴィクターとの決戦後、残されてしまった斗貴子がパピヨンとの因縁を終わらせるべく、戦いに挑むシーンです。カズキにこだわる気持ちは同じでも、立場の違いから対立する悲劇。
同じが如き境遇の下――
絶望にしがみついた男と…
希望を手放さなかった男…
“絶望”が“希望”に敵うはずなどない――
(『武装錬金』10巻より引用)
登場人物の名言ではありませんが、本作のフィナーレと全編を締めくくるような、見事なナレーションです。勝敗を越えた結論に辿り着くところが、本作の1番燃える展開といえるでしょう。
- 著者
- 和月 伸宏
- 出版日
- 2006-04-04
人々を守るために錬金の戦士となり、錬金戦団最大の禁忌である、裏切りの戦士ヴィクターとも死闘を演じたカズキ。そんな彼自身が謎の変化によって、ヴィクターと同じ第3の存在へと変化していきました。
彼は本来、仲間であるはずの錬金戦団から命を狙われますが、自分が元に戻るための方法と、ヴィクター打倒の術を求めて各地を巡ります。頼れる仲間は戦団を離反した津村斗貴子と中村剛太、早坂桜花とライバルのパピヨンだけ。
まさに四面楚歌。しかもヴィクターを倒すためには、二律背反の問題を解決する必要すら出てきます。究極の2択です。カズキは、そこで第3の選択肢を掴み取るのですが……。
最終回は、誰も不幸にならない、大団円が待っています。直情径行、感情に素直で破天荒なカズキらしい、気持ちのよいラストです。
必ずや、爽快な読後感をもたらしてくれるでしょう。
いかがでしたか?怪我の功名か打ち切り問題のおかげで、全10巻と読みやすい分量となっているので、気軽に手を出しやすいのも本作のいいところ。気になった方はぜひ一読してみてください。