『王ドロボウJING』は「コミックボンボン」で連載されていた熊倉裕一の作品。伝説の一族・王ドロボウの末裔が、財宝などを狙い、様々な場所で冒険するファンタジー漫画。全7巻で完結し、続編となる『KING OF BANDIT JING』と合わせて、本作の魅力をたっぷりご紹介しましょう。
世に泥棒は数あれど、華麗な手口で盗み出す、泥棒の中の泥棒「王ドロボウ」。本作は、王ドロボウ・ジンと、相棒の鳥・キールとともに、世界各地を巡って冒険活劇をくり広げるファンタジー作品です。
各話で独立した物語は、目的のもの(財宝とは限らない)が軸となって、ジンを導く美女が登場するのがお約束。
ゆきずりの怪盗と美女が邂逅し、ドラマチックな展開は、宮崎駿の名作アニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』を思い出すかもしれません。
- 著者
- 熊倉 裕一
- 出版日
- 2000-11-20
本作は、2007年に休刊となった月刊児童誌「コミックボンボン」で連載されていました。
小学校低学年向けのため、子供向けの作品が多く掲載されているなか、『王ドロボウJING』は異色な存在でした。
連載当初は冒険活劇に重きが置かれていましたが、中盤以降はどんどんメッセージ性が強くなり、さらにこだわりのある描き込みと、美麗な作画に進化していき、とても児童誌で受け止めきれる熱量ではなくなっていったのです。
そこで表現の幅を広げ、作品の自由度を担保するため、ボンボンでの連載は終了。青年誌「月刊マガジンZ」にて『KING OF BANDIT JING』と改題してあらためて連載される運びとなったのです。これによって作画には一層磨きがかかり、より奥深い複雑なストーリー展開が可能となりました。
ただし、残念ながら2005年から作者病気療養のため長期休載となっています。
その後、10年以上音沙汰がなく出版社側でも連絡が取れなくなっていたのですが、絶版作品を公開する「マンガ図書館Z」の働きかけで作者の所在が判明。講談社との交渉によって、『王ドロボウJING』および『KING OF BANDIT JING』の電子書籍が2017年に発売されました。
本作は主人公のジン、相棒のキール以外、レギュラーキャラクターは出てきません。そしておとぎ話のようでありながら、残酷なメルヘン、大人向けの絵本のような作風が特徴です。
- 著者
- 熊倉 裕一
- 出版日
- 2001-12-21
物語はエピソードごとに、特殊な世界観が描かれます。行く先々では、土地も文化も常識も仕掛けも法則も異なる世界が舞台となります。
時間にこだわる領主が治める時計だらけの街や、空の向こう雲の中にある宗教の聖地、眠りの夢に支配された大監獄など、毎回新しい設定。
これらの、奇妙なのに親しみの湧くキャラクターや街のデザインなどは、ティム・バートンから影響をうけたようです。おしゃれな言葉回しや、独特な世界観に引き込まれること間違いなし。
また、2017年には原画展も開かれるほどの人気っぷり。そこでも展示された、まるで芸術作品のような美しいイラストを収録した画集は、ファンにはたまらない一冊です。
本作の主人公で、王ドロボウその人。ツンツン頭と黄色いコートがトレードマーク。『王ドロボウJING』時代は10代前半、『KING OF BANDIT JING』では20代前後の姿で登場します。打てば響く軽妙な軽口が特徴のクールキャラですが、情に熱く、熱血な面もあります。
泥棒の中の泥棒と言われるだけあって、盗みのテクニックは超一流(と言っても、ストーリー重視でほぼ割愛されてますが。あくまでファンタジー)。一体何がどこまで見えているのか、行動のほとんどが結果に結びついています。
手甲と一体化した右腕の仕込み刀が主武装。抜群の体術で立ち回り、手近にあるものなら、物だろうが人だろうが関係ナシ。なんでも利用して戦います。
必殺技は相棒・キールを右腕と同化させて放つ光弾「キールロワイヤル」。爆弾生物ポルヴォーラ編ではキールの同族が使っていること、そしてジンの右腕に何やら秘密があることが明かされます。この秘密がなんなのか、今後に期待です。
お喋りな黒い鳥、ジンの相棒・キール。卵のときから一緒にいるため、「ジンの飼い主」と主張することも。ときどきの軽口がたまに傷のお調子者で、女性を見ると必ず声をかけるほどの女好きです。
ジンとは正反対の性格だが、戦いの場では2人は抜群のコンビネーションを見せる。キール単体では戦闘能力は低いものの、ジンの右腕と合体すれば、戦闘に参加することが可能になります。
各エピソードで舞台が変われば、ヒロインも変わります。ヒロインは、そのエピソードにおけるジンのターゲットとなんらかの関わりを持った女性たち。『007』に登場する女性ゲスト「ボンドガール」になぞらえて、通称「ジンガール」と呼ばれます。
ジンと関わる中で好意を示す者もいれば、時には話の進行役となるだけで、あまり接点のないキャラクターも出てきます。
そのなかでも『王ドロボウJING』の「ブルーハワイの幽霊船」編で情熱的なキスをしたロゼ、『KING OF BANDIT JING』の「赤い風車と恋愛税」編に出てくる、はっきりとアプローチしてきたアニゼットの2人は、特に印象的な女性でしょう。アニゼットに関しては、ジンが気持ちに応えたことが暗示さているので、かなり特別なヒロインと言えます。
休憩をしていたジンの下に、ベルモットと名乗る少女が儲け話を持ちかけてきました。その昔、リヴァイヴァで研究されていた不老不死の秘薬「ながらえ水」を入手出来る暗号を持っているので、手伝いをしてほしいと言うのです。さらに暗号を解いて秘薬に辿り着けば、億万長者間違いなし、とまで言ってきます。
ジンは、張り切るキールに引っ張られる形で、やむなく協力。同じく不老不死を研究し「長らえ水」を探す科学者ペルノーの妨害を受けながらも、着実にリヴァイヴァへ近付いていきました。
- 著者
- 熊倉 裕一
- 出版日
- 2000-12-20
不老不死を求めて、謎を次々に解いていくジン。しかし、その題材からは、やけに「死」の気配が感じられる。不信感を抱きつつ、たどり着いた「不死の都」は、想像とは異なり…。
謎を解くための詩と、そこに隠された暗号が見所のエピソード。その謎が解けた時、作画の美しさとともに巧妙に仕掛けられた答えにうなってしまうことでしょう。
そしてさらに見所なのは、クライマックスでのジンが行動と言葉。彼ならではの考え方に、読者も考えるところのある結末です。
魅力的なヒロインの内容でも紹介した、こちらのエピソード。
舞台は、葬礼特区ムーラン・ルージュ。
赤い風車(ムーラン・ルージュ)と名の付くそこでは、24年前に大火災で1組のカップルが引き裂かれて以来、恋愛税という奇妙な徴収が行われていました。実施しているのは、恋人・ヴィオレットを失った特区長のボルス。区内のすべての恋人たちから税金を集め、ヴィオレットの巨大な墓標「完全なる愛(パルフェ・タムール)」の建設費に当てているのです。
特区を訪れたジンは検査官アニゼットに恋愛税の脱税犯と疑われ、追われる身に。なりゆきで彼女を連れて逃亡することになったジンは、「完全なる愛」を盗むため行動を開始します。
- 著者
- 熊倉 裕一
- 出版日
- 2001-12-21
恋人を失った悲しみで、人々の自由恋愛を取り締まるという皮肉な男をめぐる物語。恋愛は厳罰という価値観の世界でくり広げられる、現実とのズレがフィクションならではの楽しさとして現れています。題材ゆえに、いつにも増してロマンスが色濃く出ているのも特徴です。
「人生はいつも音速なのに
光速で恋に落ちてしまうんだ」
(『KING OF BANDIT JING』4巻)
自嘲気味に呟かれるボルスのこのセリフ。24年の悲劇から、月日があっと言う間に過ぎてしまったという意味も込められているのでしょう。切なくもロマンティックな展開に、胸を震わされること間違いなしの内容です。
1話完結で、さまざまな物語を楽しめるのが『王ドロボウJING』、『KING OF BANDIT JING』の素晴らしいところ。ぜひお手に取り、お気に入りのエピソードを見つけてみてください。