どんな企業の課題もたちまち解決してしまう、凄腕の派遣社員。彼は、なんとサイボーグだった!? とんでもない設定でありながら、社会におけるサラリーマン達の心に訴えかけるような深みのあるストーリーが魅力の作品、それが『企業戦士YAMAZAKI』です。今回はビジネスに関わるすべての人に読んでもらいたい本作の魅力を、その結末までご紹介していきます。
NEO=SYSTEM社から派遣されてくる凄腕と名高い派遣社員・山崎宅郎(やまざき たくろう)は、派遣先企業のどんな課題もたちどころに解決してしまうという伝説の男でした。
しかし、そんな彼は、なんと皮膚と脳を戦闘型サイボーグに改造された人間「企業戦士(ビジネス・コマンドー)」だったのです。
企業戦士YAMAZAKI 1
彼の元の姿は、人間である尾崎達郎(おざき たつろう)。妻子を残して過労死した後もビジネスマンとして働き続ける事を誓い、山崎として生まれ変わったのでした。
彼は今日も、ビジネスという戦場にくり出していくのです。
あらすじでもご紹介しましたが、主人公である山崎は、あらゆる企業を訪問しては、そこが抱える問題を解決していきます。本作は基本的に一話完結型のストーリーとなっており、彼は依頼人と訪問企業を救っては次の職場へと去っていく、というのが一連の流れです。
そんな本作の見所となるのが、彼が訪問先企業の登場人物達に向けて送る、名言の数々でしょう。
たとえば、彼は企業を訪問して斬新なアイデアを提案していきます。しかし、その企業の社員達からは「不可能だ」「うちの企業イメージとは合わない」といった様子で、すんなりと聞き入れてもらえない事が多々あるのです。
そんな時でも山崎は、ネガティブな発言ばかりで動こうとしない社員達に対し、叱咤激励の喝を入れる言葉を残していくのです。他にも、基本的なビジネスマナーや心がけなどについても、随所で模範にしたいような発言をします。
古いものは ただ古いというその事だけで
とりあえず否定しなければならない
そうでなければ若者にはもう……
なにもすべき事が残されていない事になってしまう
(『企業戦士YAMAZAKI』1巻より引用)
1人の情熱を失った男性に、山崎がかけた言葉です。男性は、過去に使いきりビデオカメラという商品のアイデアを社内で提案したのですが、その際に専務に聞く耳を持たれず、それ以来やる気を失ってしまっていたのでした。
そんな彼の職場に山崎が現れ、そのアイデアの上位互換ともいうべき商品をあらためて専務に発案しようとします。過去に男性が同様のアイデアを提案した事を知った山崎は、この台詞を口にするのです。
男性はこの台詞を受けて、かつての情熱を取り戻し、再び自らのアイデアを世に出すために動き出そうと奮起する事になるのでした。
まるで企業セミナー講師のようですが、そんな彼の熱いビジネスマン魂は、社会で働くすべての人達にとって活力となる事間違いなしです。
日々の仕事に疲れてしまった時、やりがいを失ってしまった時には、彼の言葉を思い返すとよいのではないでしょうか。
本作は連載時期が1992年から1999年という事で、作中の世界同様バブル崩壊後に描かれた作品です。そんな本作では、山崎が企業救済のために、次々と斬新なアイデアを提案しては実現していきます。
面白いのは、そんな作中のアイデアが、後の日本で何らかの形で実現しているということ。
たとえば「携帯型電子新聞」。この商品については、後にタブレット端末でネットニュースを受け取る事が可能となり、実現しています。他にも「自動録画機能つきテレビ」という商品は、HDD内蔵の録画テレビとして実際に発売されました。
このようにアイデア1つ1つが、漫画のなかに登場する荒唐無稽なものではなく、実現可能なものが多いのです。読み返すと古臭さは感じるかもしれませんが、それでもそのアイデアにはハッとさせられるようなものが多く、作者の構想には感心させられてしまうでしょう。
他にもさまざまなアイデアが登場しますので、そういった観点も踏まえて読み進めてみてはいかがでしょうか。
ここまでビジネスの場における魅力を中心にお伝えしてきましたが、それとは別路線として、山崎の戦闘サイボーグとしての活躍も見所の1つです。
彼は企業での窮地救済を目的として各企業に派遣されますが、その先々では他社で活躍する企業戦士達による妨害を受ける事もあります。その度に、なぜか山崎と相手の企業戦士による戦闘が開始されるのです。
もともと戦闘サイボーグとしての肉体を持つ山崎ですから戦うこと自体はおかしくないのですが、それでもビジネス漫画として読んでいた流れからの急な戦闘シーンには、思わず笑ってしまいそうになるでしょう。
しかも、彼が敵の企業戦士を攻撃する際に放つ必殺技の数々が、どれもちょっとどこかのヒーロー、ロボット漫画をパロディ化したようなものばかりで、実にコミカル。戦闘の流れも、彼が追い詰められては逆転の一撃必殺で快勝!という、水戸黄門のような安心感ある展開が見所なのです。
毎回、どのような必殺技が飛び出すのかを期待しながら読み進めるのも、本作の楽しみ方の1つではないでしょうか。
また敵として登場する企業戦士達ですが、彼らのデザインも作品がどんどん後半になるにつれて、どこかで見た芸能人に酷似したデザインになっていきます。必殺技と合わせての笑いどころなので、ぜひチェックしてみてください。
ビジネスマン達の葛藤や、戦闘シーンのコミカルさなどを併せ持つ本作ですが、さらに見所となる要素として、感動的な人情物語としての側面を持っています。
山崎は人間・尾崎だった頃に、妻子を残して過労死してしまいました。その後、彼は改造手術を受けてサイボーグとなりましたが、手術を受けた後の報酬については、すべて妻と子供のために残そうとしているのです。
ビジネスマンとして死んだ男が後に想ったのは残した妻子の事だった、というところに何ともいえない感慨があります。
そんな彼が訪問先企業でさまざまな悩みや悲哀を抱えた人物達に出会う度、彼はそんな彼らの心を救って次の職場に旅立つのです。
社会に疲れてしまった人々の心を救う事が出来る彼は、サイボーグでありながら、誰よりも人間らしいといえるのではないでしょうか。読めば読むほど前向きな気持ちになる事が出来る作品となっていますので、ぜひご一読ください。
ここからは本作の結末について、ネタバレを含めてご紹介します。
社会で悩む人々の心を救ってきた山崎。そんな彼は、かつての旧友であり、ビジネスマンとして覇を競い合い、そして同じ女性を好きになった新堂と再会します。
そんな彼は、ビジネスマンとしての成功を目指すあまり、政府に向けて国民1人1人の個人情報を横流しするという悪行に手を染めていました。彼の思惑を阻止しようとする山崎ですが、新堂は山崎の全業績データが入力されたレプリカである「黒崎卓二郎」を使い、山崎を倒そうとするのです。
圧倒的な黒崎の力を前に窮地に追い詰められる山崎でしたが、山崎を生み出した女性エンジニア貴理香(きりか)の助けもあり、黒崎を倒す事が出来ました。
しかし彼の脳と身体は、すでに度重なる業務と戦闘によってボロボロになっており、もはや幾ばくも生きる事が出来ません。そんな彼が最後に願い、そして向かった先は……。
企業戦士YAMAZAKI 12
ラストシーンは、涙無くしては読めない程に感動的です。特に、山崎と同じく社会人として働き、家族がいる読者にとっては、堪らない内容なのではないでしょうか。
若い読者にとってももちろん面白い作品ですが、まさしくすべての「企業戦士」にとって、バイブルとなるような作品といってもよいでしょう。
仕事に疲れてしまった方には、特におすすめの作品です。