【連載】自意識をこじらせたすべてのネガティブ女子におすすめ『紫式部日記』

更新:2019.2.16 作成:2019.2.16

自分なんて……と口ではいいつつも実は知識があると思っていて、ひけらかしはいけないと思いつつも本当はひけらかしたい。だって認めてほしいから……自意識とプライドでがんじがらめになっている女性、紫式部さん。 かく言う私も自他ともに認めるネガティブ人間なのですが、最近とても勇気づけられる本に出会ったので、今回は率直に紹介していきたいと思います。

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平安系根暗女子のネガティブな日々

著者
["小迎 裕美子", "紫式部"]
出版日
2015-03-27

 

紫式部といえば、『源氏物語』の作者。藤原道長に見初められて宮中に入り、中宮彰子の女房となった、平安時代のいわば「みやび」なイメージがある人物ではないでしょうか。

しかし本書から読み取れるシキブ(こう呼びます)は、周りの人の視線を過剰に気にして、不器用なあまり、クヨクヨしながらイライラしているんです。え、私じゃん……。

つらい。苦しい。将来が不安。本当に嫌。 = あぁ無常

そんなシキブですが、実は『源氏物語』以外にも、『紫式部日記』というものを書いています。

彼女の人生を少し紹介すると、幼い頃に母親を亡くし、地震や飢餓で世の中が荒れているなか育ちました。強盗や放火、殺人などにあうんじゃないかと不安の日々。さらに慕っていた姉も亡くなり、仲のよかった友人も亡くなってしまいます。父親は学者で偏屈なおじさん、弟はあまり頭の良くないぼんやりした子でした。

ある時、父親が都から地方に転勤することになるのです。この時シキブは27歳で、現代でいうとアラフォーくらいの感覚なのだとか。

このまま田舎で、偏屈な父親の身の回りの世話をしながら暮らすのだろう、でも本さえあればいい、本を読めれば幸せだ、と思っていたら、親子くらい歳の離れたぶさいくな男(藤原宣孝)からアプローチを受け、再び都に戻ることに。

結婚と出産を経験しますが、なんと夫が2年後に死んでしまうのです。独り身となったシキブは読書に熱中し、ついには自分で書いてみることにしました。これが、『源氏物語』です。

イケメンの光源氏が恋愛に没頭する物語は仲間たちから人気が出て、ついにはその評判が藤原道長の耳にも入ります。宮中に呼ばれて、彼の長女である中宮彰子の女房になりました。

ただシキブ自身は出世を喜ぶことはなく、むしろ女房なんて向いていないとうじうじしています。そもそもシキブは社交的ではなく、人付き合いが苦手。でも人間観察は得意で洞察力は鋭く、地味でセンシティブなんです。

『紫式部日記』は、そんな人目を気にしすぎて傷つきやすく、不器用なシキブが、ネガティブなりに宮中で自分の居場所を見つけて、自信をつけていくサバイバル戦術の記録です。

もうこの時点で、共感度が高まる。しかもシキブは『源氏物語』の作者なので、インテリ気取りのイヤなやつだという先入観を抱かれて、出仕初日に周りの女房たちから総スカンにあうのです。これがショックで数日で家に戻り、5ヶ月間も引きこもったんだとか……。

わかる、わかります。私も特別頭がいいわけではないけれど、出身大学名を言っただけで「頭いいんだね(じゃあ世界が違うから、仲間に入ってこないでね)」という反応をされたことが山ほどあります。そもそも何万人も学生がいるマンモス校な時点で、言うほどじゃないってわかってほしいのに。大学生活のことも、またいつか書きたい。

 

なんかつらい。生きづらい。

 

5ヶ月引きこもって宮中に戻ったシキブは、とにかく目立たないように、難癖をつけられないようにと、おっとりしたバカのふりをします。物語を書けて、漢文も読めて、歌も詠めるけど、わからないふりをする処世術。

これ、その場は笑って過ごせても、心のどこかで相手を下に見ている自分もいて、そんな人たちに気を遣っていること自体に疲れて、どんどん蝕まれていく方法でしょう。

しかもシキブは優しいので、帝の神輿はステキだけどその担ぎ手は苦しそうだとか、のんきに泳いでいる水鳥も水面下ではもがいているんだとか、「そっち」側にも目がいってしまう。豪華な職場に仕えているのに、常に「なんかつらい」と思っています。

さらに宮中には数年前まで清少納言が仕えていて、彼女はユーモアもあり明るい言動で周囲を盛り上げていたそう。今でもシキブの耳に、「昔はよかった」という声が聞こえてくるのです。

いくら努力を重ねても乗り越えられない壁があること、自分の手の届かないものを軽々と手に入れられる人がいることを知り、妬みが全開。穏便に過ごしたい気持ちとプライドの間でがんじがらめになり、シキブは「つらい」「生きづらい」を連呼します……。

私も、ネガティブでいることが通常運転、人や環境を恨んであえて悪いことを考えて、自ら傷つきにいくタイプですが、ここまで読むともはやシキブを応援せざるをえません。

その後のシキブは、なんとおよそ8年間も彰子に仕え続けたそう。以降どのような暮らしをしたのか、どのようにして亡くなったのかは定かではありません。しかし幼かった彰子が2人の子どもを産んで国母となるのを見届けるまで勤め上げたことを考えると、その芯の強さをうかがい知れるのではないでしょうか。

私は純文学が好きなこともあり、ネガティブな時こそ余計ネガティブな思考の渦にはまっていく読書をすることが多いのですが、『紫式部日記』はそんな私でも純粋にエネルギーをもらえる作品です。特にご紹介している本はほとんどが漫画で構成されているので、古典が苦手な方でも大丈夫。色々とこじらせてしまっている人こそ、読んでみてください。

 

著者
["小迎 裕美子", "紫式部"]
出版日
2015-03-27

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