ノルウェーの昔話で、日本でも絵本となって有名な『三びきのやぎのがらがらどん』。3匹のやぎが橋の下に潜むトロールと対峙する物語ですが、実は映画「となりのトトロ」と深い繋がりがあるのをご存知でしょうか。この記事ではあらすじを説明したうえで、物語から学べる教訓や、橋を渡る順番、「となりのトトロ」との関係を考察していきます。おすすめの絵本も紹介するので、ご覧ください。
ノルウェーの昔話のひとつとして誕生した『三びきのやぎのがらがらどん』。1841年に、民話作家のペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーの2人が共著として発表した『ノルウェー民話集』に収録され、話題となりました。
日本ではマーシャ・ブラウンがイラストを手掛けた絵本が有名でしょう。映画「となりのトトロ」に本作が登場したり、アニメ「きかんしゃトーマス」にも本作をもとにしたエピソードがあったりと、他の創作にも影響を与えています。
では、あらすじを簡単に紹介していきましょう。
あるところに「がらがらどん」という名前の、大・中・小の大きさをしたやぎがいました。3匹は太るための草を求めて、とある山を目指します。しかし山へ行くためには、長くて大きな橋を渡らなければなりません。そして橋の下の谷底には、恐ろしいトロールがいるのです。
まずは、1番小さなやぎが橋を渡ろうとします。するとトロールが現れて、「お前を飲み込んでやる」と言いました。小さなやぎは「あとから大きなやぎが来る」と言い、見逃してもらいます。
次に、中くらいのやぎが橋を渡ろうとすると、再びトロールが現れました。「お前を飲み込んでやる」と言ってきますが、中くらいのやぎも「あとから大きなやぎが来る」と言って、見逃してもらいます。
最後に大きなやぎが橋を渡ろうとすると、またトロールが現れます。これまでと同じように威嚇をしてくるトロールに対し、大きなやぎは正面から立ち向かい、やっつけることに成功しました。
そうして3匹は無事に山へ行き、草をたくさん食べて太ることができたのです。
教訓1:力をあわせて困難を乗り越えることが大切
『三びきのやぎのがらがらどん』に登場するやぎたちは、山へ行って草を食べるという共通の目的を持っていました。しかしそのためには、トロールのいる橋を渡らなければなりません。
小さなやぎと中くらいのやぎは、1番力の強い大きなやぎに頼ることで、無事に橋をわたることができました。もしも3匹一緒ではなく、1匹ずつ山に向かおうとしていたら、うまくはいかなかったでしょう。
困った時には機転を利かせて助けあうことが大切だとわかります。
教訓2:欲張ると損をすることもある
橋の下にいるトロールは、まず小さなやぎを食べようとしましたが、「あとから大きなやぎが来る」と言われたためみすみす見逃してしまいました。中くらいのやぎに対しても、同じ失敗をしています。
もしもトロールが小さなやぎか中くらいのやぎを狙っていれば、やすやすと倒すことができたでしょう。大きなやぎを食べようと欲張ったがために、返り討ちにあってしまったのです。
作中に登場する3匹のやぎは、小さい順にトロールのいる橋を渡っていきましたが、最初から1番大きなやぎが渡ってトロールをやっつければ、小さなやぎと中くらいのやぎは安心して橋を渡ることがができると思いませんか?
なぜ大きなやぎから橋を渡らなかったのか、その理由を考えてみましょう。
1:子どもにたくさん餌を食べさせるため
小さいやぎは「子ども」、中くらいのやぎは「母親」、大きいやぎは「父親」と考えてみます。お腹をすかせた彼らが餌場に向かう際、1番太るべきものから行くのが動物の定めでしょう。彼らがトロールの存在を知らなかったと考えると、小さな子どもから橋を渡るのは当然でしょう。
2:全滅しないため
もしも大きなやぎから橋を渡り、トロールに負けてしまったら……大きなやぎが命を落とすことはもちろんですが、小さなやぎと中くらいのやぎも山に辿りつくことができず、いずれは餓死してしまいます。
反対に、『三びきのやぎのがらがらどん』の物語のように最後に大きなやぎが橋を渡り、仮にトロールに負けてしまったとしても、小さなやぎと中くらいのやぎは山に行けるのです。
このように考えると、彼らは最悪の場合でも2匹は生き残れるように、「戦略」として小さなやぎから渡ったのかもしれません。
3:実は1匹のやぎの成長過程
本作に登場する3匹のやぎは、共通して「がらがらどん」という名前をしています。彼らがどんな関係なのかもまったく記されていないことから、同一人物である可能性も考えられるでしょう。
最初に橋を渡った小さなやぎが「「あとから大きなやぎが来る」と言いますが、「あと」は「すぐあと」なのか、「数日後」なのか、詳しい説明はありません。
小さなやぎが何度も山へ行って成長し、大きくなったところでトロールを退治したとも考えられます。
スタジオジブリのアニメ映画「となりのトトロ」には、『三びきのやぎのがらがらどん』にちなんだ事柄がたびたび登場しています。
まず物語の序盤、4歳の少女メイが森の奥に迷い込み、大きな不思議な生き物と遭遇します。名前を尋ねると、「トトロ」と答えたように聞こえました。家に帰って姉のサツキに報告をすると、サツキは「トトロ」が「絵本に出てくるトロール」だと認識するのです。
『三びきのやぎのがらがらどん』が生まれたノルウェーでは、トロールはいたずら好きの妖精と認識されていて、物が突然なくなるとトロールのせいだ、と言われることもあるのです。容姿は毛むくじゃらで巨大だそう。
また「となりのトトロ」に登場するトトロが、大トトロ、中トトロ、小トトロと3体いることも『三びきのやぎのがらがらどん』と共通しています。
ちなみに3匹のやぎの名前である「がらがらどん」は、ノルウェー語で「うなり声」を意味する言葉を訳したもの。「となりのトトロ」においても、メイはトトロのうなり声を聞いてその名前を解釈しているのです。
そして決定的なのは、「となりのトトロ」のエンドロールにおいて、メイとサツキの姉妹が、お母さんに『三匹の山羊』というタイトルの絵本を読み聞かせしてもらっているシーンが登場すること。表紙には、橋の上を渡る3匹のやぎと、それを下から見るトロルの姿が描かれています。
さまざまな場面において、『三びきのやぎのがらがらどん』と「となりのトトロ」が非常に関係の深い作品だとわかるでしょう。
- 著者
- 出版日
- 1965-07-01
アメリカの絵本作家マーシャ・ブラウンがイラストを手掛けた作品です。
水色や緑色、茶色をメインにした落ち着いた色使いのなかで、トロールだけが赤黒く、鬼のような天狗のような恐ろしい姿で描かれています。また構図も工夫されていて、大きいやぎが戦うシーンはまるでページから飛び出してくるよう。迫力満点で、手に汗握るでしょう。
オノマトペも多用されていて、小さな子どもでもわかりやすい内容です。ぜひ親子で読んでみてください。