雀士として知られる小説家・阿佐田哲也の小説を漫画にした本作。原作の初刊は1969年と古い作品ですが、2019年に斎藤工を主演に迎えた実写映画が公開されることで、あらためて注目が集まっています。 今回は、そんな作品『麻雀放浪記』の漫画版全5巻の見所をご紹介しましょう。
主人公・哲は、中学時代までは退役軍人の父親の恩給のおかげで、余裕のある生活を送っていました。しかし、やがて日本が敗戦すると、仕事にもありつけずに毎日ぶらぶらと町を彷徨うようになるのです。
そんななか、かつて学徒動員で働いていた工場で、自分に麻雀を教えた上州虎と再会。そのことをきっかけに、博打の世界へと足を踏み入れることになるのでした。
アメリカ兵を相手にカジノをするクラブのママや、最強の博打打ちなどとの出会いを通し、麻雀の才能を開花させていく哲。彼はやがて、博打を商売にする「バイニン」へと成長していくことになるのです。
- 著者
- ["嶺岸 信明", "阿佐田 哲也", "浜田 正則"]
- 出版日
- 2017-06-19
原作小説の作者・阿佐田哲也は、雀士としても知られている人物。阿佐田哲也の他に色川武大、井上志摩夫、雀風子としても活躍しました。そんな彼が書いた原作へのリスペクトも深く感じられる本作では、マニアックともいえるくらいの麻雀の知識が詰め込まれており、内容を楽しむことができます。
一方で、麻雀を通して裏社会を生きるキャラクター達のストーリーも描かれているので、普段漫画を読まない麻雀好きの方、また麻雀は知らないけれど裏社会などがテーマになった漫画が好きな方におすすめの作品です。
そんなダークな内容も面白い本作は、2019年4月に『麻雀放浪記2020』のタイトルで映画化。斎藤工、ベッキー、岡崎体育など個性的なキャストとなっています。こちらも注目です。
・坊や哲
主人公の少年で、物語の語り部。中学卒業後、賭博の世界に足を踏み入れることになります。学生服を着ていたことから「坊や」と呼ばれるようになり、そのまま彼の通り名となりました。
当初はイカサマなしで勝ちにいこうとする様子が見られましたが、裏社会に染まっていくにつれ、徐々に変化が表れるようになるのです。
・ドサ健
上野を中心に活動しているバイニン。カモを見つけて遠慮なく金を奪う、正真正銘の悪党です。
哲に目をつけて、イカサマを教え込みます。しかし彼が勝つと、その金を奪って消えるなど、信用ならない人物です。
・上州虎
本名は、樋口虎吉。賭博歴30年以上のバイニンです。博打に参加するために、これまでさまざまな犯罪を犯してきました。
・鈴木
オックスクラブのバーテン。かつてチンチロ部落で大勝ちしていたオカマ・おりんによって紹介された哲とドサ健を、賭場へ案内します。
・清水
哲に目をつけた、ガン牌の達人。白白の美青年です。タバコを分けたのをきっかけに哲と仲よくなり、ガン牌の秘密を教えたりもする関係になるのですが……。
退役軍人である父の恩給のおかげで、金銭面では不自由なく、恵まれた子供時代を過ごすことのできた少年、哲。しかし、軍人上がりの厳しい父が嫌いで、彼はしだいにグレていきました。
そして、時代は戦中。そのまま日本が敗戦すると、それまでの父の恩給もなくなり、彼は一家を支えるために働かなくてはならなくなるのですが……。
- 著者
- ["嶺岸 信明", "阿佐田 哲也", "浜田 正則"]
- 出版日
- 2017-06-19
小説の青春編に当たる部分。
通称・坊や哲。「坊や」というのは通り名のようなもので、中学を卒業したばかりの哲が、スーツ代わりに学ランを着ていたことから付けられました。本作は、そんなまだ中学を出たばかりの彼が、賭博の世界へ飛び込んでいくところから始まります。
彼は、中学の頃は工場で働いていましたが、終戦後は仕事もなく、毎日当てもなく町をぶらぶらする生活を送っていました。
そんな時に再会したのが、上州虎という男。この虎は、まだ中学生だった晢に麻雀を教えた人物です。相変わらず賭博の世界で生きていますが、金がなくなってしまったため、誰かから金を奪おうとしたところ哲と再会したのでした。
この虎との再会をきっかけにして、後に哲が出会うことになるのが、ドサ健です。ドサ健はいわゆる「悪党」であり、言葉巧みに人を騙しては金を奪う博打打ち、すなわちバイニンでした。
哲も言葉巧みに彼に連れ回され、結果としてさんざん金を絞り出されることになります。しかし、このドサ健との出会いが、晢の博打の才能を開花させ、バイニンとしての人生を切り開かせることになるのです。
彼がバイニンの第一歩を踏み出すところから話はテンポよく進み、麻雀を知らなくても、その勢いやスピード感を感じることができるでしょう。もちろん知っている方であれば、より本作を楽しむことができます。
麻雀を知らない人にとっては、魅力を知るきっかけにもなるかもしれない、そんな一冊です。
虎が哲の実家に泥棒に入ったことから、家へと帰りづらくなってしまった哲。彼は、オックスクラブのママ・八代ゆきの家に転がり込んでいました。
ゆきはどうやら、彼に麻雀の才能を見出したようなのですが……!?
- 著者
- 嶺岸 信明
- 出版日
- 2017-10-20
前巻で金を手に入れ損ねた虎が、自分の実家に泥棒に入ってしまったことで家に帰りにくくなってしまった哲は、オックスクラブのママ・八代ゆきの家に転がり込んでいました。
オックスクラブとは、アメリカ兵を相手にした秘密カジノをしている場所。哲に麻雀の才能を見出したゆきは、彼とコンビを組むことを提案したのでした。
セレベス生まれの彼女は、20代後半くらいの美女。オックスクラブで働く一方、娼婦もしている怪しい雰囲気が漂う女性です。彼女は哲がバイニンとなるにあたって重要な人物となるので、ぜひチェックしておいてください。
ゆきからさまざまな麻雀のテクニックを叩きこまれた哲は、オックスクラブでアメリカ兵を相手に経験を積んでいきます。
そして本巻では、ゆきの他にも清水という重要なキャラクターが登場。彼は、牌にあらかじめ印などをつけて牌を判別するイカサマ、ガン牌の達人。そんな彼やゆきの存在は、哲が成長するにあたって重要な存在です。
通り名は相変わらず「坊や」の哲ですが、そんな彼がどう成長していくのかぜひ注目してみてください。
哲に博打のテクニックを授け、カモにしたドサ健。根っからのバイニンである彼は、カタギを相手に麻雀教室を開いていました。
表向きはイカサマ防止の教室でしたが、そこには本当の狙いがあって……!?
- 著者
- 嶺岸 信明
- 出版日
- 2018-01-20
1巻で哲をカモにしたドサ健が、「博打会社」を経営。拠点としている上野では、大きな顔になっていました。カタギを相手にした麻雀教室ですが、それは自分達にとって都合のよいカモを育てる手段に過ぎなかったのです。
また、このドサ健の手下には虎もいました。彼は、哲が麻雀を始めるきっかけとなった男で、さらに哲の実家へ泥棒に入った男でもあります。その虎に加え、本巻では彼の友人・出目徳も登場。
出目徳は本名を大場徳次郎といい、バイニンの世界では最強と呼ばれる者の1人です。原作である小説の方でも際立った個性を光らせているキャラクターですが、テンポよく進んでいく漫画版でも、やはり登場することとなりました。
哲の麻雀の腕に可能性を感じた彼は、哲とコンビを組みます。そんななかで哲は、彼からさまざまなテクニックを叩きこまれるのです。
他にも、ドサ健によってカモにされた1人に、チン六という男がいます。この男もバイニンなのですが、ドサ健にいいように操られ、身ぐるみをはがされてしまうことに……。小物なイメージもあるキャラクターですが哲とも関わり合いがあるので、こちらもぜひチェックしてみてください。
出目徳とコンビを組むことになった哲は、打倒ドサ健を目指し、出目徳のもとで麻雀の腕を磨いていました。
哲がそこまでドサ健を倒したいのには、実はある理由があって……。
- 著者
- 嶺岸 信明
- 出版日
- 2018-06-22
最強のバイニンと名高い出目徳とコンビを組むことになった哲。出目徳の「最強」の名前は、伊達ではありません。
哲は彼のもとで、役の1つである天和を2人で仕込むイカサマの「2の2の天和」や、あらかじめ牌を仕込むイカサマの「大四喜字一色十枚爆弾」などといった、さまざまなテクニックを身につけて着実に強くなっていきました。
一方、出目徳の家に居候をしている虎に、哲はドサ健の情報を探ってほしいと依頼をします。実は、虎はドサ健の手下でありながら、出目徳側にも付くというダブルスパイをしていたのでした。だからこそ哲は、彼に金を渡してまでドサ健の情報を求めたのです。
哲がそこまでしてドサ健を倒したい理由には、ゆきの存在が絡んでいました。すでに彼女からフラれてしまった哲でしたが、かつてゆきが、ドサ健のことを本物の博打打ちだと言っていたことを覚えていたのです。
自分が半人前だったからフラれたと思っている哲は、ドサ健を倒せば一人前になれて、再びゆきに会うことができると考えていたのでした。そんな彼の気持ちにも注目したい、第4巻です。
出目徳から至上のコンビ芸「2の2の天和」を叩きこまれた哲。
ついに打倒ドサ健を果たすため、出目徳とともに赴きますが……!?
麻雀放浪記(5) (アクションコミックス)
2018年12月28日
出目徳にさまざまなテクニックを叩きこまれた哲が、いよいよドサ健に挑む本巻。虎や女衒(げぜん)の達らも立ち合うなか、激闘がくり広げられていきます。
女衒の達とは、その名前の通り吉原で人身売買の仲介業を生業にする男です。着流しが特徴の、どこか色気のある人物ですが、何を考えているのかよくわかりません。彼は後に、哲や出目徳と深く関わってくることになるのでチェックしておいてください。
ドサ健との勝負は、まさに必見。いつも余裕な言動をしているドサ健が感情をあらわにするなど、激闘がくり広げられていくのです。その勝負の行方は……ぜひ本編を手に取って確認してみてください。
ただ、この勝負をきっかけにして、ドサ健はもちろん、哲や出目徳の関係も再び動き出し、変化していくことになります。物語においても、とても重要な勝負といえるでしょう。
出目徳と哲のコンビ芸が光るのも見所の1つですが、それが見られるのもこのあたりがピークといったところになるので、最後まで思い切り楽しんでみてください。
いかがでしたか?原作を含め、麻雀を丁寧に描いた傑作として知られている本作『麻雀放浪記』。もちろん麻雀を知っていればより深く物語を楽しむことができますが、知らなくても哲や他のキャラクター達の生きざまを楽しむことができるので、まずは気軽に読んでみてください。