本作『All You Need Is Kill』は、「週刊ヤングジャンプ」で連載されていた桜坂洋・原作、竹内良輔・構成、小畑健・作画の作品。ラノベながら、ハリウッドで映画化もされたという異色作が原作です。 謎の侵略者に追い詰められた地球軍、その新兵だった主人公が時間のループに巻き込まれ、生き抜く手段を模索しながら力を身につけていくSFアクション。しかし時間のループの理由、そして結末は、思いも寄らない方向へと進んでいくのでした。 本作はスマホアプリでも無料で読むことが出来るので、そちらもおすすめです。
ある日、主人公キリヤ・ケイジは、無惨に死ぬ自分の夢を見て、目を覚まします。彼は謎の侵略生物「ギタイ」と戦う、統合防疫軍の新兵です。
彼は夢を、初出撃を前にした気持ちからくるものだろうと気にしませんでした。しかし翌日、彼は厳しい状況に置かれた戦場へと送り込まれ、夢と同じように死んでしまうのです。
ところが、彼は激痛と絶望のなか、再び自分のベッドで目覚まします。彼の身には、死亡すると初出撃の前日の朝に戻るという、ループ現象が起こるようになってしまったのです。
- 著者
- 小畑 健
- 出版日
- 2014-06-19
何をやっても死亡して、ループから抜け出せない。
そんななかで、彼は自身の行動しだいでは今までと違った結果を招くということに気付きます。そして初出撃でのギタイの戦闘に生き延びればループを抜け出せると信じ、孤独な戦いを始めるのです。
実はループ現象を体験したことがあるのは、彼だけではありませんでした。US特殊部隊の精鋭リタ・ヴラタスキもまた、その力を持っていました。この2人が協力し始めることが、物語のターニング・ポイントとなります。
タイトルはビートルズの名盤『All You Need Is Love』のパロディ。元ネタの邦訳は「愛こそはすべて」なので、本作のタイトルもそれに合わせると「殺戮こそがすべて」という意味になります。
原作者は、桜坂洋(さくらざか ひろし)です。1970年生まれの小説家で、2002年集英社スーパーダッシュ小説新人賞で最終選考に残った『よくわかる現代魔法』で、2003年にデビューを果たします。
理系大学出身のためか、ファンタジーでもSFでも、理路整然とした設定が特徴。本作の原作小説『All You Need Is Kill』はゲームで死んでもプレイヤーが経験を蓄積し、上達していくところから着想を得たそうです。
- 著者
- ["大場 つぐみ", "小畑 健"]
- 出版日
- 2004-04-02
構成の竹内良輔(たけうち りょうすけ)は1980年生まれ。2010年の読み切り作品「白舟くんと天体系彼女」でデビューしました。
もともとは漫画家で、『All You Need Is Kill』のコミカライズ作品からは構成や漫画原作も手がけるようになります。出来事を積み重ねて読ませるタイプの作家で、物語に引き込んでいくのが魅力でしょう。
作画の小畑健は、1969年生まれの漫画家。1989年に『CYBORGじいちゃんG』で漫画家デビューしました。
美麗な絵柄に定評があり、特に原作付き漫画でその手腕が発揮されます。難解なストーリーを見事な漫画に仕上げる抜群のセンスの持ち主です。代表作は『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』など。
小畑健の作品を紹介した<小畑健のおすすめ漫画ランキングベスト6!圧倒的な画力でみせる作品!>の記事もおすすめです。
原作では彼の1人称であること、ループ現象の混乱と順応とで、ページ数がかなり費やされました。この漫画版では文字媒体よりも情報量が多いということと、ストーリーが整理されていることから、キリヤの行動や内容がかなり分かりやすくなっています。
死のループという絶望的な状況にあるのに、それを逆手に取ってグングン成長していく不屈の主人公。中盤以降は、古参兵の落ち着きが見られます。
一方リタは、可憐かつヒロイックなキャラです。原作ではぼかされていましたが、本作で彼女の名前が偽名だとわかったり、ビジュアル化されたことで、より一層孤独に頑張っていたことがひしひしと伝わってきます。
過酷な状況に置いても生き抜くたくましさを見せるキリヤと、ヒロイックなリタの対比が、本作の魅力を際立たせているのです。
小畑健は、連載漫画とは思えないほど繊細で美麗な画風の漫画家ということで、広く知られています。本作でもその画力は存分に発揮されており、頼りない新兵だったキリヤが精悍な顔つきに変わっていく移り変わりが、はっきりと見て取れるのです。
そして画力に置いて何よりも特筆すべきは、リタの美しさと強さ、華奢と苛烈という相反する要素が、小畑の手によって完璧に描写されていることでしょう。
そして劇中で何度となくくり返される激しい戦闘も凄まじい迫力です。原作では若干イメージしづらかった装甲兵器「ジャケット」の動きが、想像以上の力強さで描かれます。
おぞましいギタイとの、手に汗握るバトル。長大な近接格闘武装のかっこよさ。そして、キリヤの激しすぎるグロテスクな死にざま。全編に渡って見所だらけです。
原作小説は1巻で完結していますが、文字によって描き出されたその世界観、情報は膨大なものとなっています。漫画版では始まりから終わりまでが整理され、そのうえで重要なエピソードが再配置され、ストーリーの要所が非常にわかりやすくなっているのです。
ループものの魅力とは、突き詰めれば、主人公の行動が状況に与える変化の面白さだといえるでしょう。少しずつ微妙な変化が出るのもいいですが、本作のようにギタイとの生存戦争がおこなわれている設定だと、スピード感があった方がより楽しめるでしょう。
ビジュアル化によって、直感的にわかりやすく整理されたことでより理解しやすく、コンパクトになったことでよりめまぐるしい変化が楽しめる。これこそが、漫画版ならではの魅力なのです。
気の遠くなるほどのループを越えて、キリヤとリタは無数のギタイのなかから、ループ現象の起点となる「ギタイ・サーバ」と名付けられた個体を見つけ出しました。
ギタイ・サーバは群れで行動するギタイの統率者で、この個体に危険が迫った時、ループが起こってギタイ側に有利なようにやり直せる仕組みとなっていたのでした。
- 著者
- 小畑 健
- 出版日
- 2014-06-19
2人はなんとか、ギタイ・サーバを倒すのですが……。理屈ではループが終了するはずだったにも関わらず、またしてもループが起こってしまいます。
その理由は彼ら自身がギタイ・サーバと同質の存在となってしまっていたから。2人のうちどちらかが犠牲にならなければ、ループが終わらないことが判明するのです。
スピーディに進む話だからこそ、待ち受ける過酷な運命に愕然とするでしょう。この事実を前にして、彼らは果たして、どのような答えを出すのか。ハードSF並みに整然とした設定が、冷たく残酷に襲いかかってくるのが本作の魅力です。
映画版では異なる結果を辿りましたが、この漫画版の最後は原作版に準拠しています。キリヤに対する部隊の反応が省略されていますが、その分、結末に集中することが出来るでしょう。
そのラストでは、本作のタイトルが「All You Need Is Love」のパロディになっている意味が出てきます。
絶望がない代わりに、希望もない。
ループのなかでもループの先でもギタイと戦い、その死骸を積み上げていかなくてはいけない。必要なのは愛ではなく、殺戮なのです。すなわち、オール・ユー・ニード・イズ・キル。
いかがでしたか?世界のハリウッドが認めた原作を、よりわかりやすい形にしたのが漫画版です。面白くないはずがありません。気になった方は、ぜひご一読してみてください。