「役所的な何か」に憧れて仕事を始めた主人公は、果たしてうまく働くことができるのか? 中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台として、郵便配達を担う主人公のエルフが、癖のある依頼人と配達先に振り回される様子を描いた、コメディ漫画の本作。「ウルトラジャンプ」などで連載されている、グレゴリウス山田の作品です。 この記事ではそんな本作の見所をご紹介!スマホアプリからでも無料で読めるので、ぜひそちらからもどうぞ!
剣と魔法、暴力と混沌がこの世の掟だった時代は、すでに遠い昔のこと。
人々の働きかけで世界は大きく変わり、法律と秩序が世の中を律し、文明は多くの都市とそこに生きる民を育んでいきました。
- 著者
- グレゴリウス山田
- 出版日
- 2017-01-19
物語は、そんな世界に存在する大都市である皇帝都市アイダツィヒ周辺が舞台。ここの駅逓局(えきていきょく。郵便局のこと)で働く見習い配達人のハーフエルフ・吉田は、仕事の関係であちこちを巡り歩いていました。
その行く手に待ち受けるのは、頑固ジジイと化した大魔法使い、経済の中核を担う勇者一行、権利にうるさいお役所仕事などなど……。
本作は配達人・吉田が、そんな面倒な依頼人や厄介な荷物に対して、さまざまな苦労をしつつも配達をこなしていく、ファンタジーコメディです。
物語の語り部である吉田は、本作では欠かせないキャラクター。駅逓局に所属する配達人見習いの、ハーフエルフです。
配達人とはかなりの重労働なのですが、一応女性のよう。気付きにくいことが話題になっています。
フルネームは不明。作中のほとんどのキャラが西洋風のカタカナネームなのに対して、彼女だけがなぜか和風の名前となっています。
エルフ族は人間社会と距離を置いており、文化や風俗が違うような描写があるので、彼女の漢字の名前はその設定に由来するものかもしれません。
- 著者
- グレゴリウス山田
- 出版日
- 2017-10-19
丸眼鏡と、お下げにしている金(緑?)髪がチャームポイント。いつも同じような帽子や羽織を身につけていることから、お洒落には無頓着なようです。
性格としては秩序を好む方らしく、規則を重んじて、毎朝「法令遵守、勤労奉仕」と独自の標語を口にしている描写があります。
生き方にこだわりすぎて頑固者と化した魔法使いや、商売っ気の強すぎる勇者一行など、ちょっとおかしな価値観がまかり通った本作の世界で、吉田は数少ない常識人。毎回ツッコミ役として混乱に巻き込まれていきます。
半泣きになったり瀕死になったり、愛嬌のあるリアクションを取りながらも、仕事を完遂するところが魅力の主人公です。
『竜と勇者と配達人』では、何かとマイナーな職業にスポットが当てられます。
そもそも、吉田が働いている駅逓局からして耳慣れないでしょう。駅逓局とは手紙や荷物、その他通信を一手に扱う役所の一部署です。日本でも明治の頃に実在し、今でいう総務省と日本郵便を兼ねるような省庁でした。
- 著者
- グレゴリウス 山田
- 出版日
- 2017-01-19
武器防具を扱う刀鍛冶などはまだメジャーな方で、他には石工や酒保(日用品を扱う移動雑貨屋のこと)商人、果ては公証人などの普通のファンタジーでは絶対に出てこないような職業がいくつも出てきます。それぞれちゃんと役割が割り当てられているため、どんな仕事だったのかわかるのも面白いところ。
作者のグレゴリウス山田は元々イラストレーターだったのですが、ファンタジーゲーム趣味が高じて実在した中世の文化に興味を持ち、詳しい考証の下に「十三世紀のハローワーク」という職業本を出してしまった凄い人です。
そんな作者が描いた本作は、これでもかというほどさまざまな職業が登場。そのマニアックさは、必見です。
先述しましたが、作者グレゴリウス山田には「十三世紀のハローワーク」で培った中世ヨーロッパの知識があります。その知識をベースにした世界観の描画には、単なるファンタジー漫画の域を超えた職人的なこだわりがあるのです。
設定年代に合わせたレンガと木造主体の汚れた建築物は、キャラの生活に非常に馴染んでおり、リアルな生活感を感じさせます。ファンタジーにおいて埃っぽい雰囲気やごみごみした生活感というのは、他ではあまり見ないのではないでしょうか。
- 著者
- グレゴリウス山田
- 出版日
- 2018-05-18
そして、時に登場する鎧兜のデザイン。これは実在したヨーロッパのそれを元に描き起こされており、見る人が見れば元ネタがわかるほどのこだわりよう。物語の合間に中世ヨーロッパのコラムや考証、世界設定の資料が挿入されているのも、本作の魅力です。
服飾デザインや装備の資料に関しては、作者本人のブログ「WTNB機関年代記」でも年代や系統など細かく解説されているので、あわせて読むとさらに面白いでしょう。
小説や漫画、ゲームに限らず、ファンタジー作品には暗黙の了解ともいうべきお約束があります。
たとえば、悪い魔法使いの居城は森の奥深く、モンスターが徘徊する険しい山の上であるとか。あるいはモンスターの住処は、曲がりくねった地下洞窟の奥底であるとか。そういった設定をよく見かけますが、居住性や往来の利便性でいえば、最悪の立地です。
実際に吉田も魔法使いへの配達では、即死級に危険な怪物グリフォンを逃れ、足場のない断崖絶壁をよじ登るなど大変な苦労をしました。配達人が重労働といえるのは、こういった理由からです。
本作の面白いところは、こういうファンタジーにありがちな設定をちょっと捻って、実生活に置き換えると不便だと笑いに変えるところにあります。作中で不便を被るのは、だいたい吉田で、苦労人の彼女には少し可哀想ではありますが。
気付けば配達人レベル15(一人前と認められるほどの熟練度)になっていた吉田。
彼女はアイダツィヒ駅逓局の長老に指名され、配達人のなかでも上級者にしか任せられないという「ダンジョン特区」の仕事に同行することになりました。
竜と勇者と配達人 4 (ヤングジャンプコミックス)
2018年12月19日
ダンジョン特区とは、その名の通り、地区全体がダンジョン化しているアイダツィヒ市内の魔の区画です。
40年ほど前、瘴気(熱病を起こさせる毒)が濃くて魔物が出没しやすいという土地の特性を活かし、逆転の発想でダンジョンに指定して経済活動活性化を狙った結果……勘違いした者達が違法建築や違法トラップ設置、違法魔物投棄をくり返して、本物の魔境となったのでした。
吉田はいずれ前任者から引き継ぐため、このダンジョンの流儀に慣れていかなければいけません。
この特区は作法に則って罠を解除していけば、余所者でも受け入れるという独自のルールが面白いところ。問いかけに正解すれば開く(人力の)門、巨大鉄球が転がってくるトラップなど、非常にオーソドックスかつ危ない罠が出てきます。
が、手間暇のかかった仕組みの裏側が曝露されており、危険さよりも間抜けな印象の方が強いです。
いつにも増して冷静な吉田の反応が際立ちますが、個性豊かな住人に囲まれるせいで、彼女の方が浮いていて見えるというあべこべな展開が見所でしょう。
いかがでしたか?本作に出てくるのは現実世界でもあまり意識しない職業ですが、劇中の苦労話を楽しみながら読んでいると、縁の下の力持ちに感謝したくなってくるはず。そんな職業漫画としても面白い『竜と勇者と配達人』は、スマホアプリから無料で読むことができます。ぜひご利用ください!