「(円周率が)割り切れない」と悩むあなたに贈りたい『虚構新聞 全国版』。

更新:2021.11.17

納得のいかない仕事・過去に振り切ったはずの恋愛・整理のつかない気持ち・果てしない円周率・突然の死…… 世の中は、実に割り切れないもので溢れかえっているようで。もう、嫌になってしまいます。 今回ご紹介するのは、そんな「割り切れない」あなたに贈るこの一冊。 きっと、すべてがどーでもよくなりますよ。

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3/14は、「円周率の日」。異論は認めない。

どうも、「ホンシェルジュ」インターン生・吉野真悟です。またの名を-秘密結社ATrACT-代表取繕役社長・吉野シンゴと申します。【だいひょう-とりつくろい・やく-しゃちょー】です。何物も取り締まりはしませんので悪しからず。だって、この海でいちばん自由な奴が海賊王なのだから。

さて、本日は3月14日。そう、みなさんお待ちかね「円周率の日」です。私も今日この日を迎えることを一年のうちの47番目くらいには待ちわびておりました。

円周率というのは「円の周長の直径に対する比率」として一家に一台は定義されている数学定理としてお馴染みですよね。私も小さい頃はよく両親や妹弟とエンシューリツで遊んだものでした。

その最大の特徴は、「割り切れない」ことに在り。延々と永遠と、数字が果てしなく続いていく。無限に広がる大宇宙、それが円周率。

円周率は割り切れないからこそ円周率なのであって、割り切れてしまってはもはや円周率ではないのです。もしも円周率が割り切れるなんてことが起きようものならば、割り切られた円周率は決して割り切れないという自身のアイデンティティを失うということを割り切ることなどできるはずもなく。遂には果てのない自分探しに出掛けることを余儀なくされます。そうなると気持ち的な意味では、割り切れなくなったということ。結局、円周率はどこまで行っても割り切れないのです。つまり、フリーメイソンだね。ちょっと何を言っているのか、私でも分かっていないから安心してほしい。

しかし、嗚呼。どこまで行けば、割り切れるのだろう。否、どこまで行っても割り切れない円周率の儚さを想うにつれ。しだいに私は、自分の心すらも割り切れなくなってしまいました。理不尽な仕事・過去の恋・整理できない気持ち・突然の死……いつしか私は、何もかもを割り切れない情けない男に成り下がっていました。

そんな割り切れない日々を送っていたある日のこと。私はふらと立ち寄った古本屋にて、とんでもない見出しが書かれた本と出会ったのでした。

「衝撃!遂に円周率が割り切れる。」

衝撃、走る。背表紙に忽然と書かれたその文言を目の当たりにした私は、直ぐに彼の書を手に取りページを捲りました。その本のタイトルを、確認することもせずに。

「無限に続くと思われていた円周率が、ついに終わりを迎えた。千葉電波大学の研究グループがこれまでの円周率演算プログラムに誤りがあったことを発見。(中略)改めて計算しなおしたところ、10桁目で割り切れたという。10桁目の最後の数字は「0」だった。」(『虚構新聞 全国版』より引用)

とんでもないことが書かれていたが、これは全て嘘。もちろん嘘。この本のタイトルは『虚構新聞 全国版』。「虚構」すなわち「嘘」しか書かれていない新聞なのです。

誰も傷つけない、笑える「嘘」を。

そもそも「虚構新聞」というのは、本当にありそうだけど決して本当ではないネタをニュースとして掲載しているwebサイトです。2004年3月の発足以来、虚構の記事を日々(4月1日を除く)配信しています。そのwebサイトから250本以上の記事を厳選収録したのが、今回ご紹介する『虚構新聞 全国版』。

著者
虚構新聞社
出版日
2017-04-28

真実しか書かれることの許されない新聞に、嘘しか書かない。大真面目に嘘を吐く。その華麗なる裏切りが最高にクセになります。 
 

私のお気に入り記事は、 
まち針からまたあんパン 札幌の洋裁店」 
「ユッケ、よく焼いて食べて」 消費者庁呼びかけ」 
高視聴率番組「イ」を再放送 日テレ、王座奪還へ」 
男子投げやり 日本新 日本陸上」 
「運命自ら切り開く」 占いランキングも戦う時代へ
コンビニ傘窃盗団を逮捕 和歌山 背後に大規模組織か」などなど。 

記事タイトルだけで二度見三度見必至の脱力感。本文はさらに真面目に馬鹿馬鹿しい文章が綴られております。

ちなみに、虚構として書いたはずなのに、後に実現化して「誤報」と相成った記事も本書には多数収録されています。たとえば、 
森永チョコ144個入「グロス」発売へ」 
シャープ「゜」の売却を検討」などなど。 

こういった場合には、真実を報じてしまったことを真摯に謝罪する記事が掲載されています。真実は、此処では「誤報」。なんて力強いメッセージなのだろう。

やはり、冗談は真顔で言うのがいちばん面白い。

とにかく馬鹿馬鹿しい本書を読んでしまえば、もう、悩んでいることが馬鹿馬鹿しくなってしまいます。もう「割り切れない」なんて悩んではいられないですね。一件落着。 この記事にも落チが付いたでしょう。

それにしても、連載第2回目にして早くも私の本性を現してしまったようです。「適当な嘘を吐いてその場を切り抜けた挙句に誰一人傷つけない駄文」を綴ることが私の目標です。以後お見知りおきを。

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