ニュースでよく耳にする「カルテル」「トラスト」「コンツェルン」という言葉。どれも企業の市場独占という文脈で使われますが、それぞれ内容は異なります。この記事では、それぞれの特徴と具体例、「コンツェルン」の問題点や「コングロマリット」との違いなどをわかりやすく解説していきます。
複数の企業による市場の独占を指す「カルテル」「トラスト」「コンツェルン」という言葉。それぞれ独占の方法が異なります。
「同じ業種に所属する複数の企業が、販売価格や生産計画、販売地域などに関する協定を結ぶ」ことをいいます。中世ヨーロッパの「ギルド」や、平安時代や江戸時代に存在した「座」「株仲間」などもカルテルの一種です。
企業間で協定を結ぶことで競争を減らし、新規参入を妨いで利益率を向上させることが目的です。しかし消費者にとっては不利益を被る可能性があること、そして健全な競争がないと資本主義が発達しないことなどから、日本では「独占禁止法」によって禁じられています。カルテルを結んでいることが発覚すると、公正取引委員会から処分されることとなります。
「同一業種の企業が合併し、巨大な企業となって市場を独占する」ことです。
ひとつの企業が市場の大半を掌握してしまうと、価格設定などの面で消費者に対し優位になるので、「独占禁止法」で禁じられています。ただしすべての企業合併が違法ではなく、過度な独占でなければ問題ありません。どの程度のシェアを握ることが問題になるのかは、その時々によって異なります。
「複数の企業がひとつの親会社を頂点とし、子会社孫会社と連なる企業集団を形成して史上を独占する」ことです。
代表的な例としては、戦前に日本の経済界を牛耳っていた「財閥」が挙げられます。戦後は財閥が解体され、「独占禁止法」によって持株会社の設立と、既存の会社の持株会社化が禁じられましたが、M&Aをおこなう際の足かせになっているとして、1997年の法改正で解禁されました。
日本におけるカルテル、トラスト、コンツェルンそれぞれの具体例を紹介していきます。
2019年3月、道路舗装会社の大手8社に対し、公正取引委員会が独占禁止法違反で総額600億円という過去最高の課徴金を課したことがニュースになりました。道路舗装に使う「アスファルト合材」の価格を引き上げる時期や金額を事前に調整していたとのことです。
2019年4月に「日本製鉄」へと社名を変更した新日鉄住金。2012年に新日鉄と住友金属工業が合併して誕生しました。この合併によって同社の国内におけるシェアが圧倒的1位になるため、公正取引委員会から審査を受けましたが、非主流部門のシェアを下げることを条件に承認されています。
その理由は、国際市場においては独占的というほどではないから。近年では、日本国内のシェアだけでなく、世界的なシェアを勘案して判断される事例が増えています。
三井、住友、三菱、安田に代表される日本の財閥。戦後は解体されましたが、いまでも旧財閥系の企業はグループを形成している例が多いです。「ホールディングス」や「グループ会社」もコンツェルンのひとつです。
コンツェルンの問題点は、市場の独占だけでなく、同族による世襲的な支配が、政治や経済の支配階級を形成してしまうことでしょう。国家のなかで富の偏りが生じてしまいます。また石油や食料、金などの物資に大きく関わっていて、国家戦略との結びつきが避けられません。
しかしコンツェルンのトップに立っているのは、一個人です。個人と国家の私的な結びつきは、時に腐敗や堕落を招いてしまいます。
このようにして戦前、日本の経済や経済や軍事と密接に関わっていた財閥は、戦後GHQによって解体され、姿を消すことになります。これによって財閥=悪という観念が植え付けられてしまうのですが、 裏を返せば、それだけアメリカが日本の財閥を恐れていたともいえるでしょう。
先述した「ホールディングス」とは、「純粋持株会社」という意味で、両者はおおまかにいえば同じことを指しています。
「純粋持株会社」とは、自らは製造や販売などの事業をせず、株式の所有によって子会社の事業を支配することのみを事業目的としてる持株会社のこと。売上げは子会社からの配当です。戦前の財閥もこの形をとっていました。
1997年、金融ビッグバンの一環で独占禁止法が改正され、第1号となったダイエーホールディングスを皮切りに、数多くのホールディングスが設置されています。
コンツェルンと似た意味で用いられる「コングロマリット」という言葉があります。コンツェルンはドイツ語、コングロマリットは英語ですが、いずれも複数の企業が合併や株の持ちあいを通じて結びついている状態を指しています。
大きな違いは、結びつく企業が「同業種」であるか「異業種」であるかという点。同じ業種内で結びつくものがコンツェルン、本業とのシナジー効果を期待して異なる業種の企業と結びつくものがコングロマリットです。
コンツェルンは、第二次世界大戦以前のドイツや日本などで多く見られた形式で、コングロマリットは1960年代以降のアメリカを中心に広がりました。
日本では鉄道会社が、百貨店経営や遊園地、野球球団に参入するなどの例があります。
- 著者
- ["山口 利昭", "井上 朗", "龍 義人"]
- 出版日
- 2014-09-20
日本企業にとって、文字どおり「ドル箱市場」といわれてきたアメリカ。しかし2010年代以降、日本企業がアメリカの「反トラスト法」に引っ掛かり、罪に問われる事例が増えています。
その背景には、「礼儀を重んじる」「場の空気に合わせる」「相手の発言を否定しない」などの日本人らしい慣習が大きく影響しているそう。雑談や冗談レベルの話に対して愛想笑いを浮かべていただけでも、「価格操作に同意した」とみなされるのがアメリカの司法なのです。
本書では、実際にアメリカの司法省と厳しい交渉にあたった企業担当者との対談を通じ、訴訟の実態を生々しく描いています。
国際市場への進出を加速させつつある日本企業にとって、幹部や役員が実刑を受け、刑務所に服役したという事実は重く、けっして他人事ではありません。これから海外でのビジネスに携わる方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
カルテル、トラスト、コンツェルン、コングロマリットなどは、ニュースや新聞で見聞きはしても、詳しい違いまでわからない方は多いのではないでしょうか。この記事を通じて、普段のニュースをより深く理解できるようになっていただければ幸いです。