理想と現実のギャップに生きづらさを感じている、という人は多いのではないでしょうか?今回紹介する『嫌われる勇気』は、アドラー心理学によって、多くの人が持つその悩みを解決に導いてきたベストセラー書籍。本記事では、『嫌われる勇気』のまとめと内容解説を中心に、人気の理由をわかりやすく説明します。読み終わる頃には内容をもっと深く知りたくなり、『嫌われる勇気』を手に取りたくなるはず。この記事が、自分を変える勇気をもつきっかけになれば嬉しいです。
『嫌われる勇気』は一言で言うと、「アドラー心理学のわかりやすい解説書」です。創始者のアドラーは、元々精神科医でした。患者の治療をしたり、目に見えない心について考えたりしていくなかで自身の考えをまとめたものがアドラー心理学です。
- 著者
- 岸見 一郎 古賀 史健
- 出版日
- 2013-12-13
ある時、アドラーはひとつの結論にたどり着きます。それは「全ての悩みの原因は対人関係である」ということです。そしてその悩みの解決方法が『嫌われる勇気』であるとしています。「世界がどうあるかではなく、あなたがどうであるか」(『嫌われる勇気』p6より引用)である、と。
『嫌われる勇気』は、一方的に語りかけるような内容の書籍ではありません。アドラー心理学を修得している哲人と、悩みを抱える青年との対話が描かれています。その対話を追いかけているうちに、読者はアドラー心理学の真理に迫ることができるのです。
『嫌わられる勇気』では、冒頭から「人は今日からでも幸せになれる」と説く哲人と、劣等感に囚われそれを理解できずにいる青年の議論が描かれます。下記に、各章の内容を簡単にまとめました。
結果の前には、原因が存在する。哲人はアドラー心理学をもって、この「原因論」を強く否定します。代わりに、過去の原因ではなく今の目的によって人は行動する、という「目的論」を唱えます。
具体例を出すと、「いじめをうけたから、部屋に引きこもる」というのが原因論。「誰かに心配してほしいから、引きこもる」というのが目的論です。
考え方を変えるだけで、過去の経験の捉え方が変わってきます。原因を気にするのではなく、目的に気持ちを向ける考え方にしようというのが、アドラー心理学の目指すところなのです。
「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」(『嫌われる勇気』p71より引用)と、アドラーは言います。お金や病気についての悩みの場合は関係ないのでは?と思う人もいるでしょう。青年も哲人に向けて、大きく反発します。
たとえば、宇宙のなかにただひとりだった場合、お金はただの紙切れと化してしまいますし、病気になった場合、生きていくことすらできなくなってしまいます。
裏を返せば、人との関係性によって、行動や感情が変化するということでもあるのです。いわゆる年収や幸せについての悩みも、他人がいてこそ成立するものであるということから、「全ての悩みは対人関係にある」としています。
アドラーは、対人関係のトラブルに遭遇した時「誰の課題であるか」を考える必要があるといいます。「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」(『嫌われる勇気』p141より引用)を考え、課題を分離していくのです。
たとえば、「その人との結婚は許しませんよ!」という親がいたとします。結婚するか決めるのは子自身です。親は子の課題に入り込んできたことになります。親の言葉に対して「なんでそんなこというの!」と子が怒ったとします。それは子が親の課題に入り込んだことになります。心配するかは親の課題であるためです。
課題を分離することは、難しいことかもしれません。しかし、自分も他者も成長するには必要なことです。「課題の分離」は、画期的な対人関係のトラブル解決策だといえます。
アドラーは、先程の「課題の分離」を対人関係のスタートとし、ゴールは「共同体感覚」だとしています。共同体感覚とは、「他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられること」(『嫌われる勇気』p179より引用)です。共同体の中で他者貢献できていると感じることで、自分は価値があると思うことができるのです。
他者貢献というと、ボランティアや仕事などで何か大きなことを成し遂げなければならないと感じる人もいるでしょう。しかしアドラーは「自分のことを「行為」レベルで考えず、まずは「存在」のレベルで受け入れていく」(『嫌われる勇気』p210より引用)という考え方をしています。
ここが非常に興味深く、対人関係において考え方が大きく変わるポイントの一つです。今まで無意識にしていた自分と他者の位置付けが覆るかもしれません。
青年は、哲人と議論を重ねていくうちに、人生の意味はなんだろうと考えはじめます。 質問を投げかけると、「一般的な人生の意味はない」(『嫌われる勇気』p277より引用)という衝撃の答えが返ってきました。
この答えには続きがあります。「人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ」(『嫌われる勇気』とp278より引用)と。わたしたちは、たった今から変わることができます。過去も未来も関係なく、今をどう生きるか。どんな意味を持って生きるかは、自分で決めることができます。あとは一歩を踏み出す勇気を持っているかどうかですね。
『嫌われる勇気』は世界累計485万部の大ヒットを記録しました。2013年の発売以降、2020年現在もなお売れ続けているロングセラーです。なぜそこまで人気なのか?その理由を考察してみました。
一つ目の理由は、多くの人が抱える悩みにフォーカスしていたことです。
「もっとこうなりたいのになれない」「もっと幸せになりたい」と思っている人は多いはず。人生の課題ともいえるこの悩みについて、アドラー心理学はこれまでとまったく違う方向性でアプローチし、具体的な答えを出しています。
二つ目の理由は、今すぐ実践できる考え方が多数提示されていることです。心理学なので、結局は「物事をどう捉えるか」という考え方がミソになります。少々わかりにくい考え方も、本書では具体例を交えているため理解しやすくなっています。
そしてそれらの考え方は、決して複雑で難しいものではありません。読み終えたら「なんだ、こんな簡単なことだったんだ」とスッキリすることでしょう。明日からと言わず、今この瞬間から変わることができることに気づくはずです。
「自己啓発本って難しそう……」と感じる人も多いでしょう。『嫌われる勇気』は、悩みを抱える青年とアドラー心理学を習得した哲人との対話形式で描かれています。読者が抱える疑問や引っ掛かりは、青年がしっかり代弁してくれます。
また、「ええい、このサディストめ!!」(『嫌われる勇気』p69より引用)というように、少々大げさな言い回しが所々で使われています。読んでいる人を飽きさせないよう、本を読んでいるというよりお芝居を見ているかのような演出がされています。その世界に引き込まれ、気づいたらあっという間に読み終えていた、なんてことになっているかもしれません。
『嫌われる勇気』は、自分は変われるという自信と、行動を起こすための勇気をくれる一冊です。読者一人ひとりの人生に大きな影響を与えるということが、人気の秘密なのかもしれません。
それではこの『嫌われる勇気』を書いた著者はどのような人なのでしょうか? 本書は、哲学者である岸見一郎氏と、フリーランスライターである古賀史健氏の共著となっています。
岸見氏は高校生の頃から哲学を志し、大学院では西洋古代哲学、特にプラトン哲学の研究をします。それと並行してアドラー心理学を研究し、精力的に執筆や講演活動、そして多くの「青年」とのカウンセリングもしていました。
一方古賀氏は書籍のライティングを専門とし、ビジネス書やノンフィクションで数多くのベストセラーを手がけています。アドラー心理学との出会いは20代の終わり。常識を覆すその思想に衝撃を受けて、その後何年にもわたり岸見氏を訪ね対話を重ねたようです。
本作はまるで、ソクラテスとプラトンの対話のような形式で哲人と青年のやり取りが描写されていますが、それは岸見氏と古賀氏の重ねてきた対話そのものなのかもしれません。
壁にぶつかった時、名言に救われた、勇気をもらった経験はありませんか?『嫌われる勇気』には、はっとさせられる名言が数多くあります。ここでは、心に突き刺さる名言を厳選して3つ紹介します。
他人の芝生は青く見えるものです。しかし「あの人みたいに美人だったら」と羨むのではなく、「低い鼻を活かしたメイクをしよう」というように自分を更新していくことに前向きになると、人生が楽しくなる気がしませんか?
あなたは他者の期待を満たすために生きているのではありません。自分の人生は自分のために生きるべきである、ということを気づかせてくれる一言です。SNSで発信することがある種の強迫観念になっている人、人から嫌われるのが怖くて自分をさらけ出せない人は、この言葉にはっとさせられるのではないでしょうか。
つまり人生には過去も未来もない、ということを示しています。人生は線ではなく点の連続であるため、人生設計やキャリア設計は不可能だとしており、非常に興味深い言葉です。今、この瞬間を生きることの尊さをしみじみと感じることでしょう。
『嫌われる勇気』の続編として、2016年に『幸せになる勇気』が発売されています。完結編ともいえる本書のテーマは、ほんとうの「自立」とほんとうの「愛」。こちらの本もぜひ手にとってみてください。
- 著者
- ["岸見 一郎", "古賀 史健"]
- 出版日
- 2016-02-26
この本では、『嫌われる勇気』の青年が3年ぶりに哲人のもとを訪れます。青年は新たな生き方を決意して、アドラーの教えを実践すべく日々過ごしてきました。
しかし再び訪れた哲人の部屋で「アドラーを捨てるべきか否か」悩んでいるという衝撃の告白をします。その告白から「教育論」「仕事論」「組織論」「社会論」「人生論」と話は広がります。
青年は最後、どのような選択をするのでしょうか。
『嫌われる勇気』の核ともいえるアドラー心理学。その教えに興味を持った人にはこちらの本をおすすめします。
- 著者
- 岩井 俊憲
- 出版日
アドラー心理学カウンセリング指導者である岩井俊憲氏によって書かれた本書は、アドラー心理学を初めて学ぶのにおすすめの本です。
図やイラストを多く使い、誰でもわかるように簡単な表現でアドラーの教えをまとめてくれています。実生活で活かせる具体的なアドバイスもあるので、読み終わったらすぐに実践したくなりそう。『嫌われる勇気』の復習としても役立つ本です。
- 著者
- 岸見 一郎
- 出版日
『嫌われる勇気』の著者の一人、岸見氏によるアドラー心理学の入門書です。アドラー心理学のエッセンスを取りまとめてあり、『嫌われる勇気』とセットで読むことでより理解を深めることができるでしょう。育児・教育についての考え方にも具体的に触れています。
ベストセラーとなった本作ですが、2017年1月にはドラマ化もされています。 このドラマは『嫌われる勇気』を刑事ドラマとして大胆にアレンジして実写化されました。
モデルで女優の香里奈さんが、主人公である警視庁捜査一課8係所属の刑事「庵堂蘭子」を、庵堂の相棒である新人刑事「青山年雄」を加藤シゲアキさんが演じます。
捜査会議にも参加せず、独自の捜査を進めて真実に向かって突き進む蘭子。青山は対立を恐れないその振る舞いに驚きます。そして、青山が足繁く通う帝都大学の教授「大文字哲人」を椎名桔平さんが演じ、庵堂の行動をアドラー心理学の知識になぞらえて考えるよう諭します。
ドラマは一話完結型で構成されており、最終回の視聴率は5.7%でした。
しかしこのドラマの主人公である庵堂蘭子を、日本アドラー学会は「(アドラーが提唱している)『相互理解のための努力』や『一致に到達する努力』や『意見や信念を分かちあうための努力』の側面を放棄しているように見受けられます」と指摘します。
日本アドラー学会が抗議を提出したことも話題となりました。
最後に、『嫌われる勇気』について紹介・解説したYouTubeも合わせて紹介します。
こちらはわずか10分ほどで『嫌われる勇気』の概要が分かる動画です。アニメーションや図を用いてわかりやすく説明されています。
こちらの動画は人気お笑い芸人「中田敦彦のYouTube大学」シリーズです。本書もさることながら、講義形式で面白おかしくアドラーの教えを解説しています。
どちらも動画で楽しみながら、『嫌われる勇気』の内容をライトに学ぶことができます。ぜひチェックしてみてください。
現代社会において、「生きづらさ」を感じている人はたくさんいるでしょう。『嫌われる勇気』は、そんな人にこそおすすめしたい本です。読んだ瞬間から活用できる、それこそがこの本の強みです。「本当に理解できているか」確かめるために何度も読んでしまう、そんな本でもあります。きっと貴方の人生をよい方向に導いてくれることでしょう。
まずはアドラーの思想をどう自分で捉え、活用していくのかが重要です。この記事を読んで実際に本を手に取ってくれたら、嬉しく思います。