季節が春になると、新学期を迎える人や新社会人になる人、この機会に新しいことにチャレンジしようと思う人もたくさんいるでしょう。どんなことが待っているのかワクワクする反面、不安もつきものです。この記事では、新しい生活を応援してくれる春に読みたい小説をご紹介していきます。きっとあなたの背中を押してくれるはずです。
色とりどりの草木が生い茂る街は、たくさんの人々や車が行き交う、にぎやかな場所。朝になり、目が覚めてから窓を開ける何気ない日常と、窓から見える景色とともに、今日も新しい1日が始まります。
毎日の何気ない生活のなかに、生きる喜びと確かな希望があることを、そっと気づかせてくれる物語です。
- 著者
- 荒井 良二
- 出版日
- 2011-12-02
2011年に刊行された、絵本作家、荒井良二の作品です。「産経児童出版文化賞」で大賞を受賞しています。本書は、荒井が東日本大震災の後被災地を訪れ、現地の人々と交流を深めながら書いたもの。制作中にも余震が起き、ますます2011年のうちに出版したいという気持ちが強くなったそうです。
何気ない日々のくり返しのなかに幸福があり、窓を開けるたびに感じる新しい人生に、思わず気持ちが明るくなります。色鮮やかな風景に感受性を刺激され、知らないはずの景色をなぜか懐かしく感じることでしょう。生きることの尊さを教えてくれる一冊です。
高校1年生の花菱英一は、両親と弟との4人暮らしです。両親の結婚20周年をきっかけに引っ越した先は、築30年以上の、看板がかかったままの元写真館でした。
ところが、引っ越してすぐ一家の身のまわりでは不思議な出来事が起こり、さらには心霊写真が持ち込まれ、英一は数々の「謎」に巻き込まれることとなります。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2013-10-16
2010年に刊行された宮部みゆきの作品です。2013年にはテレビドラマ化もされました。宮部は『模倣犯』や『理由』などの多数のミステリー小説や時代小説で知られる作家ですが、本書は初めてのノンミステリーになります。
全4部構成になっていて、一家が元写真館に引っ越したことをきっかけに、さまざまな心霊現象に巻き込まれ、数多の謎を主人公の英一が解決していく物語。
登場人物の心情が丁寧に描写され、ほのぼのとした温かみを感じられる読後感となっています。
ある朝の食卓で、突然「今日で父親を辞める」と宣言した父、弘。母親は家出中なのに、なぜかいつも料理を届けにやってきます。兄は天才児でありながら大学へは行かず、農業を始めました。
主人公の佐和子は、家族の変化に戸惑う日々を送ります。そんなある日、同じ塾に通う大浦勉学と出会いました。大浦はいたって単純な性格をしていましたが、それがいつしか佐和子にとって大切なものへと変わっていくのです。
- 著者
- 瀬尾 まいこ
- 出版日
- 2007-06-15
2004年に刊行された瀬尾まいこの作品です。2005年に「吉川英治文学新人賞」を受賞、翌2006年にはコミック化、さらに2007年には映画化もされました。
一見平凡な家庭に見えても、実はそれぞれが心に悩みや不安を抱えています。そんななか、食卓を囲む時間はもっとも家族が打ち解けられる時。本書ではその微妙な距離感を繊細に描写しています。
主人公の佐和子を通じて、あらためて「普通の家族」について考えさせられる物語です。
家族とともに、故郷のメキシコからアメリカへ、不法移民としてやってきたパンチート少年。
過酷な労働を強いられながらも、たくましい父と母、そして6人の兄弟とともに、明るく生きていきます。
- 著者
- フランシスコ ヒメネス
- 出版日
- 2003-11-01
2003年に刊行された、フランシスコ・ヒメネスの作品です。日本では千葉茂樹によって翻訳されました。ヒメネスは1943年にメキシコで生まれ、1947年に移民としてアメリカへ行き、1965年にアメリカ国籍を取得しています。本書は、彼の自伝的小説として執筆されました。
本書に登場する家族は、貧しさと戦いながらも豊かに過ごすために、アメリカに行くことを決断。着いた先では、大人も子どもも関係なく過酷な労働を強いられます。しかし彼らはあるがままを受け入れ、決して希望を捨てることなく懸命に生きていくのです。
たとえ苦しい環境だったとしても、必ず希望や喜びがあることを実感させてくれる物語でしょう。
予備校生の一本槍歩太は、自身の進路に悩んでいたある春先、電車で見掛けた五堂春妃に一目惚れをします。後に、父の入院先の病院で春妃と再会。なんと彼女は、父の主治医でした。
歩太にはすでに斉藤夏姫という恋人がいましたが、それでも彼は日に日に春妃に惹かれてしまうのです。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1996-06-20
1994年に刊行された、村山由佳のデビュー作です。同年ラジオドラマ化、2006年には映画化され、ミリオンセラーになっています。
村山は、歩太が恋に落ちる相手である春妃について、「清冽」と表現。その意味のとおりに、美しく清らかななかに、どこか澄んだ冷たさも感じられる作品です。その絶妙な人間の温度を、みずみずしい感性と親しみやすい文体で実に見事に表しています。
失ってから本当の大切さに気付く、切なくも透明感のある物語だといえるでしょう。
小学校を卒業したばかりの春休み、主人公のトモミは、弟のテツとともに放置されていたバスの中で一夜を過ごします。
周囲の大人たちはトラブルを抱え、自身も子どもから大人へと成長していることへ戸惑いを感じているトモミ。しかし彼女は、外の世界に一歩踏み出したことで、新たな世界を知るようになるのです。
- 著者
- 湯本 香樹実
- 出版日
- 2008-06-30
1995年に刊行された、小説家であり脚本家でもある湯本香樹実の作品です。
トモミの家族は、仕事でなかなか家に帰らない父、いつもイライラしている母、納戸の整理ばかりしている祖父と、ほとんど交流がありません。まだ幼い子どもにとって、家と学校は自分の世界そのもの。周囲の状況が不安定になると、その影響をダイレクトに受けてしまいます。
子どもの心象風景を丁寧に描写した作品。外の世界で新たな出会いを体験するたびに、トモミ自身の世界も少しずつ広がり、客観的に物事を見られるようになっていくのです。
心を揺らがせながらも、少しずつ成長していく姿を感じられ、一歩踏み出す勇気を与えてくれる作品でしょう。