転校先の東京で少年が出会ったのは「地元は日本全土」と豪語する、謎の拳法「都道府拳」の使い手だった!!「地元愛」をテーマに、ジャンプ史上最速のアニメ化を成し遂げた怪作のあらすじと魅力を、一挙紹介していきましょう。 地元大好きなあなたも、そんなに好きではないあなたも、きっとこの漫画が好きになる!?
『ジモトがジャパン』は、「週刊少年ジャンプ」に2018年42号から連載を始めたギャグ漫画。同じ号では『思春期ルネサンス!ダビデ君』も連載開始を開始しており、2作品が同週に連載開始というのは「ジャンプ」史上初の出来事で、そのうえどちらも学園ギャグ漫画という近いジャンルであったことから話題を呼びました。
話題はそれだけに留まらず、本作は連載開始からたった3ヶ月余りの2018年12月にTVアニメ化を発表。人気作がアニメ化するのは恒例のことですが、本作に関してはまだ単行本すら出ていません。当然「ジャンプ」史上最速のアニメ化です。
あまりにも早いペースなので、当初からアニメ化込みの企画だったのでは?という声もあるほどですが、真相は謎。
アニメは2019年4月8日からテレビ東京系列『おはスタ』内で、平日朝7時5分より放送予定です。
ジモトがジャパン 1 (ジャンプコミックス)
2019年01月04日
山形から、東京の津々浦中学校へ転校してきた安孫子時生(あびこ ときお)は、「地元はどこ」と異常なテンションでしつこく聞いてくる少年に出会います。
彼の名前は、日ノ本ジャパン。地元愛を力に変えて戦う「都道府拳」のマスターで、自身は「地元は日本全土」と豪語。47都道府県すべてに、地元民顔負けの知識と愛着を持っています。
時生が、シティーボーイを気取って田舎者を排斥する東京原理主義者・菊池益荒男(きくち ますらお)に襲われた時、なんとジャパンが助けに入りました。彼は、山形名物の数々を再現する「山形拳」で益荒男たちを撃退。
時生は彼の男気に惚れ込み、同じく埼玉出身なことを理由に益荒男から迫害されていたヒデとともに「都道府拳部」へ入部します。
ジャパンの異常な熱意に振り回されながらも、事あるごとにジャパンに敵意を燃やす益荒男との対決や、地元を巡って発生するさまざまなトラブル、文化祭や修学旅行といった学園イベントのなかで、「都道府拳」使いとして成長していくのです。
作者にとって本作が初めての連載ですが、2014年に『ヒデ』で赤塚賞の佳作を受賞し、その後「ジャンプNEXT」や本誌に読み切りを何度か掲載。2017年にはジャンプのWeb漫画誌「ジャンプ+」に『地球人間テラちゃん』全7話を短期集中連載しました。
作者自身の地元は山口県で、生まれて初めて描いた漫画は「ボクシングの試合の背景で延々と山口県の魅力をPRしつづける」という『おいでませ山口』。この作品を編集に褒められたことがきっかけで、「地元」をテーマに本作を描くことになったのです。
また、『おいでませ山口』以外の全作に「ヒデ」という肥満体でパーカー、ニット帽の少年が登場するのも特徴。本作でもメインキャラクターの1人として登場しています。
どこか特定の地域にスポットを当てて地域性をネタにする作品は、映画化もされた『翔んで埼玉』などをはじめ、そう珍しいものではないでしょう。
しかし本作では、主人公が「地元は日本全土」を謳う通り、作者の故郷である山口県や、作品の舞台となる中学校のある東京都に限らず、47都道府県すべてに等しく愛が注がれています。
1話では時生の出身地である山形、2話ではヒデの出身地である埼玉と回ごとにちがった都道府県を取り上げ、ジャパンが現地の名物や産業、伝統芸能、有名人などにちなんだ都道府拳の秘技・奥義をくり出してトラブルや悩みを解決していくのです。
すべての都道府県が地元というのはギャグ漫画でしかあり得ない無茶な設定ですが、ジャパンは実際どの都道府県に対しても熱く魅力を語ってくれるので、説得力に満ちています。
また「地元ではいじめられたり、人間関係で嫌な思い出も多い」というヒデに対しては、「そういう負の感情まで含めて受け入れていこう」と諭すなど、ノリはウザいのですが、度量の広い愛情の持ち主です。
必ずしも地元が大好きというわけじゃない読者も多いと思いますが、この漫画を読んでいると「地元のすべてが好きってわけじゃないけど、何もかもが嫌いってわけじゃない」という気持ちになるはず。地元にも愛着の持てる部分が見つかる、地元に対して前向きになれる、そんな漫画です。
毎回ちがった都道府県をテーマに話を展開する本作ですが、扱い方はただご当地ネタを列挙して一発ギャグをくり返す訳ではなく、しっかり話に絡めてその県の魅力をアピールしていくものが多く見られます。
たとえば3話では、静岡県出身のクラスメイト・望月が益荒男に愛車を破壊されたことをきっかけに、オートバイ生産台数日本一の静岡にちなんだ静岡拳で、専用バイクを作り上げて益荒男とのレース対決に挑みます。
また5話では、秋田出身の美少女・湯瀬こまちに恋をした益荒男が、田舎者嫌いを一旦忘れて秋田犬、なまはげ、横手かまくらといった秋田名物に親しもうとしたり……。
さらに、漫画のページの柱部分に毎回扱う都道府県の広告が掲載されるという試みまでされているのです。
都道府県の数が47しかない以上、早々にネタが切れるのではという心配がないでもないですが、作中では以前に登場した都道府拳もまた別な角度から掘り下げています。さらに津々浦中学のアメリカナイズを目論むライバルキャラ・雨貝一臣(あまがい かずおみ)の存在なども考えると、いずれ世界を舞台にする予定もあるのかもしれません。
「ジャンプ」のギャグ漫画に他の漫画アニメのパロディネタはつき物で、本作でもちょくちょくあるのですが、いずれもその回で取り上げる都道府県にちなんだ作品・作家さんのパロディとなっています。
たとえば1話でジャパンが益荒男たちを倒すためにくり出した蔵王炎殺黒龍波。彼は、山形出身の「ジャンプ」作家・冨樫義博の『幽☆遊☆白書』に登場する人気キャラクター・飛影の必殺技「邪王炎殺黒龍波」のパロディで、有名な温泉やスキー場を擁する山形名物・蔵王連峰もかかっています。
さらに埼玉県がテーマの2話で、ジャパンは頭を隠して露出したお尻を高く掲げて振り回す「ケツだけ星人」のスタイルになって、益荒男たちに立ち向かっています。これは埼玉県春日部市を舞台にした国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』の主人公・野原しんのすけの得意技です。
なかでも1番凄かったのは、大分県がテーマの7話でしょう。この回は奇病・ジモフルエンザに冒されたヒデを救うべく、ジャパンの「大分拳」によってヒデの精神世界に潜入するのですが、そこで出会った益荒男(の姿をしたジモフルエンザウイルス)は大分出身の漫画家・諫山創の『進撃の巨人』にちなんで、超大型巨人と化します。
そこでジャパンは、作中の兵士と同じく腰につけた装置からのガス噴射で飛び回り、2本のブレードで巨人の弱点であるうなじをえぐり切る「立体機動斬り」で相手を倒すのでした。その場面の、心なしかいつもより気合の入った作画は爆笑必至です。
「都道府県の特徴を戯画化してネタにする」というのは割と人を選ぶところもあり、扱い方によっては地元の人からすると「馬鹿にされているようで不快」ということも少なくないでしょう。
本作にそういったところがないのは、特定のどこかに集中してではなく平等にネタにしているというのも大きなポイントですが、それ以上に「47都道府県すべての『地元』が素晴らしい」というジャパンの姿勢が、作品全体に表れているからでしょう。
田舎者を排斥する益荒男を筆頭に、地元愛が暴走して暴挙に出るキャラも多いなか、ジャパンは彼らを咎めても地元愛は決して否定せず、被害者の地元の尊厳を守るのと同時に、加害者の地元も等しく愛しています。
たとえばジャパンと益荒男が「シティボーイ選手権」で対決する6話では、益荒男がジャパンに劣らない東京への愛を見せ、ジャパンはその愛の深さを認めて、最後の相撲対決では勝ちを譲りました。
また、静岡出身の望月と、山梨出身の花形が「富士山は静岡と山梨どちらのものか」で言い争う14話では、答えを得るべく富士山に登った結果に遭難。望月が作った静岡名物・キングカズこと三浦知良の雪像と、花形による山梨名物・武田信玄の雪像が皆を山頂まで導き、2人は互いの県のよさを認め合ったのです。
ギャグ漫画らしく毎回ハチャメチャな事態になるのですが、その回ごとに「地元」の魅力が伝わってきてほっこりできるような話が基本になっているため、読後感が爽やかなのも魅力です。
ジモトがジャパン 1 (ジャンプコミックス)
2019年01月04日
本巻に収録されるなかでも特におすすめのエピソードは、先に取り上げた7話の『進撃の巨人』パロディの他、謎の概念「ジモーラ」が登場し、「隣接した都道府県の拳は習得しやすく、離れると難しくなる」というのを『HUNTERXHUNTER』の念能力六性図のパロディ(「47性図」という名のただの日本地図)で解説した4話の沖縄回。
特に4話のオチのBEGINネタは、必見。また「ジャンプ+」で短期連載した『地球人間テラちゃん』の1話も収録されています。
さらに2巻も同時発売(「テラちゃん」2話収録)で、ジャパンに恋するこまちのラブコメや、津々浦中をアメリカナイズしようとする茨城県民・雨貝との対決など注目エピソードが目白押しです。