『狂四郎2030』結末までの見所をネタバレ!エロだけじゃない名作を考察

更新:2021.12.11

「スーパージャンプ」で連載されていた徳弘正也の作品。近未来の日本を舞台に、リアルなディストピア描写と過激なエロを両立させたバイオレンスアクションの傑作です。暗い世界観ながら、徳弘節ともいえるお約束の下ネタギャグが一服の清涼剤となっています。 本作の魅力について、考察を交えながらご紹介しましょう。また、下のボタンのアプリから読むことができます!

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『狂四郎2030』はエロだけじゃない面白さ!結末までの見所をネタバレ!【あらすじ】

第3次世界大戦の影響で人口が激減した、西暦2030年。荒廃しきった日本は、ゲノム党による一党独裁の階級社会によって、見かけだけの秩序を保っていました。

主人公の狂四郎は、治安維持を担う末端の治安警察官。不毛の地で危険な敗残兵狩りをおこなう彼の慰めは、バーチャマシンで仮想世界へ逃避し、志乃(しの)という娘と過ごすことだけでした。

 

著者
徳弘 正也
出版日

 

ある時、彼は天才犬バベンスキーと出会い、志乃が架空の存在ではなく実在する女性・小松ユリカであることを知ります。彼女はゲノム党のお膝元、北海道の中央政府電子管理センターに勤めていました。

2人はあらためて愛を誓い合い、そして狂四郎は現実のユリカに会いに行くことを決意するのです。

それはゲノム党への反逆でした。元軍人の狂四郎は、バベンスキーの協力と持ち前の凄まじい戦闘力によって、数々の危機を乗り越えて北海道を目指していきます。

青年誌での連載ということもあって、過激な暴力描写、性的表現が散見される本作。しかし、それ以上に、徹底した管理社会の恐ろしさや人間のドロドロの内面が、読んでいて胸に突き刺さります。

ヒロインへの陵辱が、かえって狂四郎達の純愛を際立たせるところも、本作ならではの見所でしょう。

 

作者・徳弘正也とは。尾田栄一郎の師匠?

徳弘正也(とくひろ まさや)は1959年3月1日生まれ、高知県出身の漫画家です。

手塚治虫の影響から漫画家を目指し、1982年に赤塚賞の佳作を受賞。その後の1983年、「週刊少年ジャンプ」に『シェイプアップ乱』が連載されて商業デビューを果たしました。

代表作はギャグからスタートしてバトル漫画にシフトした、『ジャングルの王者ターちゃん』。

『ONE PIECE』でおなじみの尾田栄一郎は本作でアシスタントを務めていました。

ジャングルの王者ターちゃん 1

徳弘正也
集英社

下ネタ中心の過激なギャグを得意とし、北条司の『シティーハンター』とともに勃起を「もっこり」という定番ギャグに昇華させた第一人者です。その一方、文明批判とも取れる骨太なストーリーや、感動を呼び起こす人情話にも定評があります。

総じて、笑って泣けるのが徳弘作品の魅力なのです。

 

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『狂四郎2030』の魅力を考察1:苦しみながらもがく登場人物

主人公の廻狂四郎(めぐり きょうしろう)は、かつて精強な少年兵として戦争に投入され、無数の功績を挙げた元軍人です。普段はお気楽ですが、戦闘になれば訓練で精神を歪められた殺人マシンに戻ることもあります。

ヒロインのユリカは肉感的な美貌が祟って、これまで何人もの上司に襲われてきました。そんななか、彼女が管理する仮想世界で、絶対に女に手を付けない狂四郎に興味を抱き、惹かれていきます。

そして、バベンスキー。高名な科学者・八角清高の全知識を受け継いだ天才犬です。本来、彼の脳は八角博士のクローンに移植されるはずでしたが、博士の急死によって命をとりとめました。

著者
徳弘 正也
出版日

 

彼らは全員、作中で悩み苦しみます。狂四郎はユリカを想う一方で、血塗れの自分を知られることをおそれるのです。ユリカも同様に、彼への愛を感じる一方、他の男によって陵辱されてきた体を見られたくないと悩みます。

バベンスキーは、見殺しにしてしまった八角博士への未練、そして博士の研究がディストピアを生み出したきっかけを知り、苦悩するのです。

彼らが魅力的なのは、多くの悩みに苛まれながらも歯を食いしばって生きていく姿にあります。前に進み続ける姿勢には、作り物ではない人間らしさが感じられるでしょう。

 

『狂四郎2030』の魅力を考察2:過酷な反理想郷(ディストピア)

本作の世界では、徹底な管理社会が描かれます。独裁政権に一般人は命を握られ、ひたすら搾取されているのです。

一部の特権階級を除けば人は奴隷のように扱われ、男女別に隔離されて、生産業などに従事させられています。これは作業の効率化を図ると同時に、人口抑制政策でもありました。

著者
徳弘 正也
出版日

 

それを支えているのが「M型遺伝子理論」。八角博士が提唱した、犯罪傾向の高い者を調べる理論です。ゲノム党は、これを利用して人々を洗脳し、都合のよい人材の振り分けに用いています。

本作のディストピアは単純な独裁ではなく、直接的間接的な統治によって実現されていることが、おぞましくもリアリティのある設定。そこが、本作の魅力にもなっているのです。

他にも健康から遺伝子の優劣まで、徹底した管理がおこなわれています。理論的に、合理的に物事をおこなうことが必ずしも幸せにつながるわけではないということが、本作を読めば感じられるでしょう。

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『狂四郎2030』の魅力を考察3:感情に訴えかけるストーリー

狂四郎とユリカは、とにかく酷い目に遭います。

狂四郎は肉体改造までされた追っ手、洗脳されたかつての仲間と戦い、人間性のないクズに利用されたりするのです。一方ユリカは狂四郎の精神面をサポートしつつ、現実では男達の手慰みとなって弄ばれます。

著者
徳弘 正也
出版日

ゲノム党による圧政、執拗な追撃……。そのなかで経験する苦しみや悲しみを読者は追体験し、すべてが積み重なって、どんどんキャラに感情移入していくのです。困難がキャラの手によってはね除けられれば、まるで自分のことのように喜び、嬉しくなっていくでしょう。

この巧みなストーリーテリングが背景設定と合わさり、本作を名作たらしめる面白さに繋がっているのです。

また、そうしたシリアスな世界観の作品であるにも関わらず、本作の煽り文句は「近未来SF冒険SEXYバイオレンスラブロマンスせんずりコメディちんこ漫画」。どんなに緊迫した場面でも、ギャグが挟まれてきます。

そのため、キャラ達に感情移入してしまうほどの重いストーリーであっても、程よく肩の力を抜きながら読む進めることができるのです。

『狂四郎2030』の魅力を考察4:伏線は未回収?儚い終わりとは【結末ネタバレ注意】

本作は、強大過ぎる時代と社会に翻弄された男と女の物語です。

日本を縦断する苦難の果て、狂四郎は中央政府電子管理センターのある北海道に辿り着きます。そこは、日本を情報で支配するゲノム党の事実上の中心地であり、ユリカが捕らわれている場所でもありました。

狂四郎はゲノム党転覆を狙う反政府勢力の作戦に乗じ、ついにユリカとの出会いを果たします。しかし、反攻作戦は漏れており、ゲノム党上層部はそれを逆利用しようとしていたのです。

狂四郎は捕らえられ、センターで管理されている賭けの場、闘技場の戦士としての生活を強いられることになります。やっと出会えたユリカと会えるのも、闘技場へ向かうエレベーターの中のわずか10分だけです。そんな状況のなか、ユリカは狂四郎を救出できる方法を聞くことになり……。

2人の行く手には、常に苦難が待ち構えています。しかし最後には、無事ハッピーエンドを迎えるのです。

著者
徳弘 正也
出版日
2004-10-04

ただし、そのラストには賛否両論があります。強力なコンピューターウイルスの存在、あるいはバベンスキーが示唆していた八角博士のタイムマシンに関する問題が未解決のままなのです。この他、社会構造の問題たるゲノム党の独裁にも決着がつきません。

ただ、この伏線を消化しようとしても無駄にストーリーが肥大化するだけで、狂四郎とユリカの物語という軸がブレてしまいかねないでしょう。狂四郎の目的は一貫してユリカを救い出すことだったので、それ以外の設定は舞台演出に過ぎなかったのかもしれません。

2人の結末だけに焦点を絞れば、物語はすっきりと終わります。その結末も、あえて語りすぎないことによって、2人が既定路線の管理社会から解放されたことを暗示しているようです。つらい時代でも、未来には希望が待っているのだと思えるラスト。ぜひ本編でお確かめください。

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いかがでしたか?本作は単純なエロでもなければ、単なるアクションや勧善懲悪モノとも違った、いろいろと考えさせられる名作です。万人向けとはいえませんが、ぜひ実際に読んでみてください。

 

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