水戸黄門の世直しの物語ではなく、スリルと刺激を求めて諸国を漫遊しており、江戸時代の人々や社会を描いていく「ギャグテイスト」の漫画となっています。本作は、「グランドジャンプ」でも連載されていた作品です。 スマホの無料アプリでも読めるので、気になった方にはそちらもおすすめです。下のボタンから簡単にダウンロードできるので、ぜひどうぞ。
江戸時代、徳川綱吉(とくがわつなよし)の治世。庶民は平和に暮らしていましたが、天下の副将軍にして、水戸藩のご老公・水戸光圀(みとみつくに)は、ひと味違いました。
なんと光圀は、刺激と血なまぐささを求めて諸国を巡り、お付きと刺客を殺し合わせて楽しんでいたのです。
- 著者
- 徳弘 正也
- 出版日
- 2014-02-19
彼のそんな道楽によって、お付き役の「助さん」と「格さん」の人材確保に困った水戸藩は、職のない浪人から腕自慢を公募します。
主人公の井上新ノ助(いのうえしんのすけ)は、水戸藩へ士官できると考えて応募し、見事に4代目の助さんに合格。
新ノ助は光圀の悪趣味に悩まされながらも、旅を通じて仲間や出会った人々と交流し、さまざまな騒動を解決していくことになります。
徳弘正也(とくひろまさや)は、1959年3月1日生まれの60歳。高知県出身の漫画家です。
1982年に、『美女は肉料理がお得意』が第17回赤塚賞佳作を受賞。翌1983年から「週刊少年ジャンプ」で連載された、『シェイプアップ乱』で商業誌デビューを果たしました。
- 著者
- 徳弘 正也
- 出版日
- 2010-11-18
代表作は、ギャグバトル漫画『ジャングルの王者ターちゃん♡』、近未来のディストピアを描いたバイオレンスSF『狂四郎2030』など。
徳弘といえば、下ネタをメインとした過激なギャグが目立ちますが、骨太なストーリーや涙を誘う人情話、痛快なアクション描写にも定評があります。
本作でもこの作風は健在で、時代劇というジャンルが徳弘節と非常にマッチしており、シリアスな笑いが多くあるのも特徴です。
徳弘正也のおすすめ作品を紹介した<徳弘正也おすすめ漫画ランキングベスト5!『ワンピース』尾田栄一郎の師匠?>の記事もおすすめです。気になる方はあわせてご覧ください。
本来の『水戸黄門』は、身分を隠したご隠居が「お供を連れて世直しの旅に出る」という時代劇。勧善懲悪のイメージが強いですが、同じ水戸黄門でも『黄門さま~助さんの憂鬱~』は、まったく毛色が違います。
本作の光圀は、トラブルに首を突っ込む「自己中心的なクソジジイ」で、お供の助さん・格さんたちは、苦労ばかり。よく知られたイメージとのギャップが本作の魅力です。
……とはいえ、少年期はかなり素行不良だったとされているので、年齢を別にすれば、ある意味では史実通りでもあります。時代考証もしっかりとしており、荒唐無稽なだけでないのが面白いところ。
ストーリーで読ませて、下ネタで笑わせ、人情話でほろりと来る……。徳弘正也の真骨頂が楽しめる作品です。
ある茶屋で光圀たちが一服していたところ、たまたま参勤交代の行列が通りかかりました。
その現場に居合わせた農民の男が、大名に減税を直訴しようとするのを察した光圀は、直訴される前に行列を乱した罰で打ち首となると諫めます。
賢明な水戸黄門が刃傷沙汰を避けたように見える場面ですが、そこには別の理由がありました。打ち首騒ぎが起こり、お忍びで旅行中だった自分の正体がバレるのを防ぎたかった、という利己的な理由による行動……。
一行はこの農民の男に宿を借りるのですが、光圀を狙う浪士の襲撃で男を死なせてしまいます。死の間際、男は減税の直訴を光圀に託しますが、彼は真剣な対応をしませんでした。
- 著者
- 徳弘 正也
- 出版日
- 2014-06-19
4代目の助さんこと、新ノ助の加入によって、光圀の諸国漫遊は再開されました。新ノ助も多くの庶民と同じく、光圀の旅は世直しが目的で、スリル目当てかどうかは半信半疑。
ところが、光圀は積極的に厄介事を増やし、気に入らないことがあれば癇癪(かんしゃく)を起こす、とんでもない人物だとわかっていきます。
諸国の事件にまつわる偶発的な戦闘に加えて、水戸黄門と知りつつ襲ってくる「徳川幕府に恨みを持つ浪士たち」もいます。この逆恨みを返り討ちにして、愉悦に浸るのも光圀にはこのうえない娯楽でした。
農民に請け負った直訴も体面だけで、ほとんど空約束も同然。助さんの進言によって、嘘が真になったものの、このエピソードから光圀が「かなりの食わせもの」ということがわかるでしょう。
これまでの光圀のお付きは、殉職して世代交代するのが普通でしたが、5代目の格さんは、光圀の思惑によって出世し、一行を抜けました。
代わりに入ってきた6代目の格さんこと、大村升次郎(おおむらますじろう)は、卑劣な先代とは打って変わり、実直な正義感の男。この升次郎の参入で、光圀一行の旅が大きく変わっていきます。
升次郎は、光圀の漫遊を世直しと信じており、庶民の側に立って具申(光圀に意見や希望を詳しく申し立てること)をくり返し、光圀をイライラさせていきます。そんな状況のなか、浪士の一団が雨天に乗じて、光圀たちを襲撃。
光圀が追い詰められて、あわや大惨事……かと思われましたが、そこで意外にも、はじめて戦った光圀が自ら浪士を倒してしまうのです。成敗の快感を味わった彼は、人生初の満足を実感します。
- 著者
- 徳弘 正也
- 出版日
- 2015-01-19
彼の傍若無人っぷりは相変わらずですが、4巻で注目すべきは、新しい格さんの存在感でしょう。
升次郎は、下級武士で腕前はからっきしですが、じつは水戸藩随一の秀才。とても柔軟な思考の持ち主で、光圀が気分よくなれるよう誘導すれば、「悪趣味な旅路」を本来あるべき「世直しの旅」に軌道修正させられることに気付きます。
自己中心的な光圀、主力の助さん(新ノ助)、縁の下の力持ち源内(げんない)、紅一点で「くのいち」のお花、そして頭脳担当の格さん(升次郎)。
個性的な面々が勢ぞろいしたことで、実情はともかく、本格的な『水戸黄門』になっていきます。
大坂(現在の大阪)への道中で、光圀一行は偶然にも浮世草子作家の、井原西鶴(いはらさいかく)と出会いました。性根の変わらない光圀が、田舎の宿を希望したことから、西鶴の紹介で「ある山寺」に宿泊することに。
山寺は、遊郭が引き取り手のない遊女を埋葬する「投げ込み寺」でした。そこへ1組のカップルが逃げ込んできたことで、本作の最後の大一番が始まります。
- 著者
- 徳弘 正也
- 出版日
- 2015-08-19
遊女にまつわる悲劇の残る寺に、大名のどら息子の横恋慕(よこれんぼ)に困る遊女と、その恋仲の男が駆け込んできます。善行に目覚めつつも、血の気の多い光圀がこれを見逃すはずもなく、新ノ助たちは大立ち回りをくり広げるのです。
このお約束な展開こそ、時代劇の醍醐味でしょう。異色の水戸黄門像で幕開けした本作が、不完全ながらも、正統派の勧善懲悪に集束していく展開は、見事な結末につながります。
なお、徳弘正也の最新作『もっこり半兵衛』は、時代的に『黄門さま~助さんの憂鬱~』から10数年後の話なので、直接のつながりはありませんが、光圀の影響を想像しながら読むと、より一層楽しむことができるでしょう。
『黄門さま~助さんの憂鬱~』の光圀ほどではありませんが、歴史的人物はイメージと史実に差があるのはよくあること。「こうだったのかも知れない」と思いながら楽しむのも、本作の醍醐味です。後味スッキリのラストは、ぜひ実際に読んでみてください。