『集団左遷』原作小説をネタバレ!江波戸哲夫の人気作品がテレビドラマ化!!

更新:2021.11.18

日々生活するなかで、お金は必要不可欠なもの。銀行はもっとも身近なお金に関わる機関ですが、その内実は、実はあまり知られていないのではないでしょうか。『銀行支店長』『集団左遷』から成る「銀行支店長」シリーズは、そんな銀行を舞台にした作品。銀行員の仕事だけではなく、組織の問題点なども描き出されます。 今回は2019年4月よりテレビドラマ化されるシリーズを、詳しく解説していきましょう。ネタバレを含みますので、ご注意ください。

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小説「銀行支店長」シリーズとは?2019年4月テレビドラマ化!

 

江波戸哲夫の小説。1992年に『支店長、最後の仕事』というタイトルで、講談社より刊行されました。その後『銀行支店長』と改題し、新装版として文庫化されています。2作目である『集団左遷』は1993年、世界文化社より刊行。2019年1月に講談社より文庫版が刊行されました。

本作はシリーズとなっていますが、舞台も物語も独立した作品です。

『銀行支店長』は大手の銀行が舞台となっており、合併した信用金庫の支店を立て直していくという物語。銀行内部の事情はもちろんのこと、主人公の家庭事情なども盛り込まれており、銀行マンとして、親としてなど、さまざまな事情を抱えながら懸命に働く姿が描かれています。

 

著者
江波戸 哲夫
出版日
2019-01-16

『集団左遷』は、大手の不動産会社が舞台。大量解雇を目的として作られた部署の本部長になった主人公が、会社から提示された実行不可能ともいえる販売計画を達成しようと奮闘します。組織内の暗部だけではなく、困難を乗り越えていくアツい人間ドラマも見所の作品です。 

2019年4月21日より放送されるテレビドラマ『集団左遷!!』は、本シリーズを原作とした作品。原作での舞台は銀行と不動産会社で違いますが、テレビドラマの舞台は『銀行支店長』と同じ三友銀行です。原作では主人公が支店の立て直しのために奮闘しますが、テレビドラマでは廃店となる支店に移動するという違いがあります。 

また、テレビドラマ版は原作2作品の要素をミックスした内容になっており、登場人物も両作品から登場。名前や役職の違いは多少ありますが、主人公から見たポジションや、どういった立ち位置の人なのかというあたりに大きな違いはなさそうです。

キャストは主演に福山雅治、その他メインキャストに香川照之、市村正親、三上博史などが名を連ねています。本作の魅力がテレビドラマでどのように再現されるのか、要注目です。

『銀行支店長』の作者・江波戸哲夫の経歴などを紹介!

江波戸哲夫(えばと てつお)は、1946年7月10日生まれ、東京都の出身の作家です。

東京大学経済学部を卒業後、三井銀行に勤務。1年で退職した後は学陽書房で務め、その後1983年に作家としてデビューを果たしました。経済や政治を題材にした作品が多く、小説の他ノンフィクション作品も数多く手がけています。 

経済、お金の話というと、どうしてもドロドロとした人間の暗部と組織の闇を描く展開を想像しますが、江波戸の作品は少々違います。組織内の暗部や無理難題を描きつつも、メインはサラリーマンがさまざまな困難に立ち向かう様子。力強く奮闘する姿が印象的で、読者の胸にぽっかりと灯がともるような、希望を感じることができるでしょう。 

著者
江波戸哲夫
出版日
2017-10-05

 

『ジャパン・プライド』は、リーマンショック後の金融危機のなか、巨大銀行の銀行員たちがおのれの仕事に邁進し、危機を乗り越えようとする物語。

さまざまな部署にスポットが当てられており、世界規模の経済恐慌となったリーマンショックのなかで、日本の銀行員たちがどのように闘っていたのかを知ることができます。

『定年待合室』は、一風変わった設定の物語。勤めていた百貨店を早期退職した50代の主人公がスナックで知り合った人々の仕事をサポートするなかで、仕事へのやりがいや自分の役割、生きがいを取り戻していきます。

定年退職後の生き方を模索して先行きに不安を感じる人が多いなか、そこに希望が持てるような心持にさせてくれるでしょう。

 

仕事もプライベートも大変!? 難題に立ち向かう主人公・片岡史郎!リストラ候補の篠田洋!

 

『銀行支店長』の主人公・片岡史郎は、大手の銀行である三友銀行の支店長をしています。仕事面でいえば、とても優秀な銀行マン。仕事熱心で真面目、情熱と責任をもって仕事に取り組んでおり、こんな仕事人でありたいという、サラリーマンの理想像ともいえるでしょう。

実直ではありますが、それで職場に決定的な不和が起こらないあたりが人柄なのでしょうか。彼の姿勢は、頑なだった周囲の心を動かしていきます。

さらにさまざまな問題や壁にぶつかるたびに、それでも前進し続ける姿には、仕事に臨む姿勢をあらためて考えさせられます。

そんな仕事熱心がすぎる片岡の家庭の様子はどうかといえば、仕事ほど順風満帆とはいかない様子。仕事に邁進しすぎるせいか家庭内での雰囲気は悪く、娘は不登校になっている状況です。

部下の育成はできる片岡ですが、家庭の問題には手をこまねいているという状況にリアリティがあり、読者が共感できるポイントの1つです。

一方の『集団左遷』は、バブル崩壊を機に遠回しな首切り宣告をされる人々が主人公。非常な副社長は、自分に逆らう篠田洋をはじめリストラ候補の人物を集めて、彼らに実現不可能と思える目標を課してリストラに追い込もうとします。

そこから彼らは一丸となって、副社長に戦いを挑むことに。一見したら負け犬ともいえる彼らの反骨精神や力強さは男臭く、それでいてかっこよく映ることでしょう。元幹部候補でありながら、ある事件によって出世街道から外れてしまった「奈落のエリート」滝川晃司の存在にも注目です。

 

『銀行支店長』あらすじ、登場人物をネタバレ解説!

三友銀行で支店長をしていた片岡は、ある日、別の支店への異動を命じられます。そこは、合併した大和信用金庫の本店だった場所。新たに飯田橋支店となったこの店の立て直しを任されることになったのです。

銀行という大きなくくりは同じですが、会社が違えば勝手も違うもの。信金時代からの猛者が数多く残る支店は、アウェー。

著者
江波戸 哲夫
出版日
2019-01-16


 

とはいえ、元信金職員たちからの、直接的な嫌がらせや抵抗があったわけではありません。退社はきっちり夜の7時というのが抵抗らしい抵抗ですが、現在の働き方から考えると読者の違和感は少ないでしょう。

会社のために、という意識の高い片岡にとっては、ちょっと困る抵抗のようですが。

片岡がバリバリのエリートサラリーマンのため、その温度差やギャップにより、苦悩するという面もあり、時間をかけて隙間を埋めていきます。そのなかで家庭内の不和が起こり、苦悩する場面も。とはいえ、信用金庫の元エースである真山とは程よい信頼関係が築かれていきます。

登場人物のなかでもっともインパクトがあるのが、庶務課長の武田です。異様な雰囲気をまとった人物で、何かしでかしてくれるのでは、という期待が高まるでしょう。

『銀行支店長』結末をネタバレ解説!

 

支店の売り上げも好調で、人間関係も悪くはなく、すべてが順調に回り始めたかに見えた飯田橋支店。しかし片岡は思わぬ出来事に遭遇し、大ピンチを迎えてしまいます。その思わぬこととは、スキャンダルと詐欺。

ビューティーサロンの美容機器購入に対する大口の融資の話がありましたが、直後にインチキやさまざまなスキャンダルが発覚。融資をやめるか迷っていた片岡は、本部から案件を握りつぶされてしまいます。

さらには三嶋食品の自社ビル取得の融資の話がありましたが、資金が持ち逃げされてしまうという思わぬ事態まで発生してしまうのです。

人がさまざまなものでつながっているように、会社も1つのものだけで成り立っているわけではありません。子会社が倒産すれば本社にも大きな影響をおよぼしますし、大口の取引先が失われれば会社が立ちいかなくなることもあります。

銀行の融資は元が取れる以上の利益があるからこそ融資をしているので、それが失われてしまえば、単純にお金をあげてしまった状況と変わりません。端的にいえば大損です。

片岡がみなと協力しながら立て直してきた支店でしたが、この2つの要素によって大ピンチを迎えることとなってしまいました。はたして片岡は、どのように対処をするのでしょうか。

すべてが順調に進むわけではないという、人の人生を表しているようでもあり、責任問題に直面するサラリーマンの悲哀を感じられるでしょう。

 

『集団左遷』あらすじ、登場人物をネタバレ解説!

 

三有不動産に勤務する主人公の篠田洋は、ある日、首都圏特販部の本部長を命じられます。出世かと思いきや、そう話はうまくいきません。彼は、初年度に売上60億円という達成不可能ともいえる販売計画を突き付けられてしまったのです。

会社員として、やれと言われたからにはどうにかしないといけませんが、彼の部署に配属になったのは、社内でも無能とレッテルを張られた社員ばかり。実は、会社では大量のリストラ計画が進んでおり、首都圏特販部の面々は、まさにその対象者だったのです。

 

著者
江波戸 哲夫
出版日
2019-01-16

 

計画を達成できなければ、会社をクビになってしまいます。彼らをリストラに追い込みたい他部署からの妨害がありながらも、特販部の社員たちは60億円という途方もない売り上げ目標を達成するために、戦いに挑んでいくのです。

本作は篠田の日記と、当時の状況を描いていく方式がとられています。そんな本作において、篠田たちと敵対関係にある会社の副社長・横山輝生は、とにかく曲者。自分の不正を暴こうとした篠田と、真っ向から対立していきます。

そして篠田の部下のなかでも最もアツいのが、第三営業部長の滝川晃司。元エリートでありながら、ある事件を機に落ちぶれてしまった彼は本作ではキーパーソンとなる人物なので、ぜひ注目してみてください。

 

『集団左遷』結末をネタバレ解説!

無理難題に直面した時、人はがむしゃらに頑張るか、悪い方向の知恵を利用して乗り切るかくらいの選択肢しかありません。特販部がどうしたのかといえば、必死に働くしかありませんでした。しかし、横山が用意したスパイ・花沢浩平の存在や妨害もあって、なかなかうまく進みません。

そんななか、大きな成長を見せたのが滝川です。篠田を中心に50人の仲間たちをまとめ上げ、必死に働いて横山に抵抗していきます。

一発逆転の方法があるわけではなく、特販部の面々は地道に営業活動をおこいます。そのやりとりや成果が出るまでのじれったい時間などは、とてもリアル。手に汗握ります。

多くの社員が懸命に働きますが、無理難題を突き付けて自主退社を迫るようなやり方をする経営者のいる会社に、未来はありません。多くの社員が自主退社をしていくなか、決死の思いで上層部との戦いに臨んでいた篠田の心境にも、また大きな変化が起こります。

会社を経営しているのは、社長をはじめとした上層部です。しかし会社を支えているのは多くの社員たちであり、双方がいなければ成り立たないのが現実。三有不動産の在り方には疑問を呈するしかありませんが、そんな会社が実際に存在するのも、また事実なのでしょう。

理不尽に立ち向かう社員たちの姿に胸がアツくなると同時に、やるせなさも感じられるはずです。サラリーマンの悲喜こもごもが詰まった物語を、ぜひお楽しみください。

舞台も展開もまったく違う2作品ですが、テレビドラマでは1つの作品として新たに生まれ変わります。どの要素が入っているのか、読了してからテレビドラマを見るのも楽しみ方の1つでしょう。

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