『啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)』は、推理作家・伊井圭(いい けい)のミステリー小説作品。探偵役は歌人・石川啄木、探偵助手は言語学者・金田一京助……多くの人が名前を知っている歴史上の人物である2人が、さまざまな事件を解き明かしていきます。本格ミステリーとして楽しめる作品です。 このページでは、2020年にテレビアニメの放送が決定した本作をご紹介。ネタバレ注意です。
「浅草十二階」とも呼ばれる凌雲閣(りょううんかく)で幽霊騒動が起こって新聞を賑わせるなか、言語学者・金田一京助のもとにその新聞記事を持ち込んできたのは、親友・石川啄木でした。
家族を養うために探偵業を始めた啄木は、京助を強引に巻き込んで調査に乗り出します。幽霊におそれをなしつつ、助手を務める京助ですが……。
- 著者
- 伊井 圭
- 出版日
- 2008-11-22
2020年にテレビアニメ化も決定している本作品。総監督は江崎慎平が務め、ライデンフィルムが制作、キャラクター原案はイラストレーターの佐木郁が担当します。公式サイトではキャラクタービジュアルが公開されています。
またキャストは津田健次郎、林幸矢、古沢勇人と豪華面々が発表されました。続報が楽しみな作品です。
1996年、本作の第1話に収録されている「高塔奇譚」で創元推理短編賞を受賞、その後デビューしました。残念ながら2014年に逝去されましたが、小説家・推理作家として、歴史・時代・ミステリー好きに受け入れられる作品を多く遺しました。
作品は、2001年に徳川埋蔵金をテーマとした『飾り花』、2004年に平安末期が舞台、義経伝説の謎に挑んだ『仮面の義経ー迦楼羅の面に秘められた謎ー』などがあります。
気になる本作の主要人物2人を紹介していきます。
石川啄木(いしかわ たくぼく)
歌集『一握の砂』などで知られる実在の歌人。普段は傍若無人ですが、繊細な一面を持つ人物です。本作では家族を養うために副業として探偵を営み、鋭い観察眼と冷静さで事件を解決していきます。
金田一京助(きんだいち きょうすけ)
日本の言語学者・民族学者として知られている実在していた人物です。彼は歌人・石川啄木の親友だったことでも有名。本作の主人公で啄木の始めた探偵業の助手を務めます。
偉そうに振る舞う啄木にモヤモヤを抱えながらも、その才能に憧れ、身銭を切っても尽くしてしまう……本作の京助は、そんな優しい人物として描かれています。
行動をともにしていく2人。事件の隠された側面を鮮やかに解決していく啄木ですが、普段の彼はダメ男っぷりが見え隠れします。そんな彼に振り回される京助。そんな2人にハラハラしつつも、テンポのよい展開につい引き込まれてしまうでしょう。
訪れた凌雲閣で、2人は啄木の元同僚・山岡と出会います。彼の小指を見ると、爪が赤色に染められていました。それを見て、初雪の降る季節まで色が残っていれば恋が成就する「爪紅(つまくれない)」というおまじないではないかと、啄木は気づきます。
キザな山岡の様子を「隅におけない」と笑って一句詠む啄木。京助は彼の博識ぶり、即興で歌を詠む頭の回転の早さに舌を巻きます。
なんと、この「爪紅」が後に事件を解決に導く鍵に。幽霊騒動は、とある目的を持って人為的に起こされたものだったのです。その裏には、未解決の殺人事件が関わっていて……。
騒動を起こしていた人物は誰なのか。殺人事件の犯人は誰なのか。啄木の鋭い観察眼と発想力が、犯人に迫ります。
自分とは違う視点を持ち、確かな答えを導き出す啄木に、京助は感嘆します。しかし、彼の横柄な態度、人を馬鹿にしたようなドヤ顔に、複雑な気持ちになる京助。尊敬はありつつも、お互い素直に信頼できない関係性が伺えるのも、本作の面白さといえるでしょう。
2人はどんな風に事件を解決するのでしょうか。ラストはぜひ読んで確かめてくださいね。
美しい活人形・金銀花(きんぎんか)に恋をしていたと噂される、千羽座の人気役者・乙次郎(おとじろう)の異様な死にざまに、世間では様々な噂が飛び交います。彼は首をずたずたに裂かれて殺され、その傍には口が血まみれの活人形の首が……。
そんな中、第一発見者が自首。事件は解決するかに見えましたが……。自首した男の恋人、季久(きく)という女学生から、彼の無罪を晴らしてほしい、と依頼を受けた啄木は、事件の真相究明に挑みます。
本編の題名・忍冬(すいかずら)は、咲き始めのころは白や薄紅色の花ですが、徐々に黄色に変わるという性質を持っています。また、その特徴から金銀花という異名も持つのです。
忍冬の柄がほどこされた衣装を身にまとう、金銀花と題された活人形。季久の口から語られる、人形の儚げな美しさ。同時に、おぼろげな恐ろしさを感じることでしょう。その話を聞いた啄木は、持ち前の観察眼によって事件の真相を暴く鍵をみつけます。
真相を知り恐怖のあまり失神してしまう、ちょっとヘタレな京助の一面にも注目です。
空中浮揚を売り物にしている奇術師・榊樹神(さかき きしん)は、自身の死を連想させるメッセージを何者かから受け取ります。そこで、啄木は彼の護衛を依頼されます。しかしその矢先、榊は死を迎えることに……。「鳥人」と呼ばれる彼の奇妙な死は、事故死なのか殺人なのか。
そんななか啄木は病気が発覚し、入院を余儀なくされます。京助が見舞いにいくのですが、啄木は入院前から榊の浮揚術がずっと気になっていた模様。
「奇術」か「超能力」かちょっとした口論から絶好の危機に!2人のハラハラする関係性も、本編の見所の1つです。
退院後、榊が所属する幸楽座の座長・山根から、真相究明を託された啄木と京助。彼の過去、そして死に隠されているものを追う2人がたどり着く真相とは?
「鳥人」から啄木が推察する榊の秘密が、複雑な人間関係を作り出し、本編の遠大な復讐劇へと繋がっていきます。
病により体調が思わしくない啄木の代理で、京助は依頼人である米問屋成田屋・嘉平と会うことに。そこで聞かされたのは、連続して起こった5つの誘拐事件。さらわれた子どもは、4件目までは2、3日で無事に戻ってきていました。
しかし、最後に誘拐された成田屋の一人息子・市松だけは2ヶ月経っても戻ってこないというのです。その上、身代金の要求もなく、犯人の目的は分からないまま。京助は、魔のものに遭遇すると言われる夕暮れ時の「逢魔が刻(おうまがとき)」に起こったこの誘拐事件の解決に、尽力します。
事情を聞いた啄木は、美濃屋・須藤七兵衛商店・原田屋・浦田屋・成田屋……誘拐に遭った5店舗の屋号から、「浦」「美」「原」「須」「成」、つまり「うらみはらすなり」というメッセージを、読み取りました。病床にあっても、啄木の推理は変わらず京助の盲点を突いていき、彼は驚嘆させられてしまうのです。
犯行の動機は怨恨なのか?2ヶ月という時間が必要だった理由とは……一見関係のない要素が、啄木の推理によって繋ぎ合わさり、パズルのピースがハマっていくような楽しさを味わえます。
代理探偵を勤める京助の頑張りにも注目です。肝心な場面で、恐怖のあまり気絶してしまうことも多いですが、今回は隣で助けてくれる親友がいません。何より病に倒れた親友のため、荒事にも覚悟を持って挑む彼の姿は、必見です。
啄木という親友の死から年月を経て、最初の事件を解決した少年の正体について語られます。最初の事件で探偵役になり、壊れかかった友情を繋ぎとめてくれた少年の存在が、啄木の中に「探偵」という職業を根付かせたのではないか……と、過去を思い返す京助。そこから物語が始まります。
啄木に連れられて、京助は「私娼窟(ししょうくつ)」という娼婦が多くいる地域へ。そこの銘酒屋・華ノ屋で京助が買った娼婦・おたきが死亡する事件が起こり、彼は殺人の疑いをかけられてしまいます。無実を主張するのですが、啄木は犯行時刻にその現場で彼を目撃したと言うのです。
- 著者
- 伊井 圭
- 出版日
- 2008-11-22
しかし逆に京助は、啄木が犯人ではないかと疑います。犯行現場に落ちていたローマ字日記のノート……。それは彼のもので、華ノ屋を訪れた日にも所持していたことを京助は知っていたのです。
葛藤の末、啄木を庇うため日記に関して黙秘した京助。友人から犯人として糾弾され、裏切られたように感じた彼は、感情を爆発させてしまいます。お互いを真犯人だと考え、犯人論争を交わすなか1人の少年が事件の真相を暴きました。
最初の年月が経ったのち、その少年と思われる人物がある作品を発表します。その作品は、現代にも語り継がれている作品です。少年の正体と、作品とは一体……?明治時代の歴史や文学を好む方には、彼らと少年の繋がりにピンとくるかもしれません。
本作は京助と啄木の不思議な絆で結ばれた友情だけではなく、歴史や文学の要素も含み、さまざまな角度から楽しめる作品となっています。推理小説が好きな方はもちろん、明治モダンの情景を感じたい人も、ぜひ読んでみてくださいね。
本作は2020年4月13日からTVアニメの放送が決定しています。TOKYO MX、BSフジ、CSファミリー劇場などにて放送・配信予定です。
石川啄木を浅沼晋太郎が、金田一京助を櫻井孝宏が演じます。啄木と同じく岩手県出身だという浅沼。「故郷の偉人を演じさせていただけるという機会は、役者を長くやっていたとしても、そうそう巡りあえるものではありません」と、意気込みを語っています。
また、新人声優発掘オーディションである第2回キミコエ・オーディショングランプリ受賞者の林幸矢と、準グランプリ受賞者の古沢勇人もメインキャストとして発表されています。今後の活躍が期待できる2人のデビュー作となりますので、応援しながら注目してみるのはいかがでしょうか。
TVアニメ「啄木鳥探偵處」公式サイトでは、キャラクターPVも公開されています。明治末期の東京浅草を舞台とした優美な背景描写から、いち早く作品のロマンを感じることができます。放送日などの詳細もこちらで随時発表されますので、ぜひチェックしてみてください。