自ら寡作、遅筆を自虐する法月綸太郎。その分、精巧にきっちりと作り上げたミステリーで読者を唸らせ夢中にします。そんな法月綸太郎の作品のおすすめを6作ご紹介します。
法月綸太郎は、1964年に島根県松江市で生まれます。島根県立松江北高等学校を経て、京都大学法学部を卒業。1988年に江戸川乱歩賞の第二次選考を通過した『密閉教室』が島田荘司の推薦を受けたことで、作家デビューを果たします。ペンネームの由来は、吉川英治の小説『鳴門秘帖』に登場する法月弦之丞からきているのだとか。
新本格派ミステリーの代表的作家で、我孫子武丸や綾辻行人などと交流があります。
エラリー・クイーンに心酔しており、後期クイーン的問題の評論を発表。またロス・マクドナルドも愛好し、『頼子のために』などはリスペクト作品なのだそうです。
推理小説の意義や、密室を構成することへの必然性を論文発表し、さらに構築性ゆえに遅筆であることを自作のあとがきで何度も述べています。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2008-04-15
48脚の机と椅子が消え、コピーされた遺書とクラスメイトの死体だけが残された教室は、ガムテープで目張りがされた密室となっていました。自殺なのか他殺なのか。熱狂的な探偵小説の愛好家・工藤順也が、混迷する事件を追う中で辿り着いた真実とは……。
高校生が主役で高校が舞台ですが、爽やかさはなく鬱屈しており、独特のリアリティがあります。
トリックは盛りだくさんで、謎が解明できたと思ったらまた謎が現れる展開が続くため、飽きさせません。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 1993-05-06
17歳の愛娘を殺された父親が残した「娘の死を通り魔事件で片づけようとする警察が信じられず、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺して自ら死を選ぶ」という手記を読んだ探偵・法月綸太郎。手記をもとに事件の真相解明に乗り出すと、驚愕の真相が待っていて……。
手記を書かれた通りに読めば、娘を殺された父親の心と行動が丹念に描かれており、その無念さと憤怒、復讐を果たすべきかどうかの葛藤も伝わってきます。しかし、もし手記に嘘が隠されていたら――という謎解きが展開されるのです。
入り組んだストーリーで登場人物が多いにも関わらず、読んでいて事件の構図がしっかりと浮かびます。ミステリーとしての謎解き部分はもちろん、登場人物たちの感情も書き切られています。ハッピーエンドとは言い難い決着かもしれませんが、傑作です。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2005-07-08
病死した著名な彫刻家・川島伊作が倒れる直前に完成させた、娘・江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られて持ち去られる事件が起こります。悪質ないたずらか、それとも江知佳への殺人予告なのか……。
事件後に探偵や警察を必要とする状況が普通ですが、本作ではちょっと違います。その過程には、さまざまな伏線が丁寧に張られています。伏線が回収されていく様子は、鮮やかでハイレベル。事件関係者の間の葛藤や軋轢が徐々に明らかになる過程は、スリリングです。
2005年「このミステリーがすごい!」の1位にもランキングした傑作ミステリー。じっくりと法月の推理に浸ってほしいと思います。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2015-09-15
2013本格ミステリ・ベスト10、第1位作品。
繁華街のカラオケボックスに集まった4人の男たちの目的は、たった1つ――それぞれ殺意を抱えた彼らが、互いのターゲットを取り換えること――交換殺人でした。彼らはトランプのカードで誰が誰を殺すか定めていきます。お互いニックネームで呼び合う正体不明の犯人たちと、彼らの関係がはっきりとは明かされないままのターゲットたち。この設定がすでに作者の仕掛ける大きな罠なのです。
四重に仕組まれた交換殺人をトランプになぞらえており、1枚のミスなどから崩れ出す状況をカードの交換と切り札で覆そうとしていたり……。犯人と警察とのやり取りはまさにトランプゲームのようです。
設定に引っ張られ、本を途中で閉じることができずに一気に読み進めてしまうと思います。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2015-11-25
2014年「このミステリーがすごい!」1位、「ミステリが読みたい」1位にそれぞれランキングされています。
2058年4月。20世紀の探偵小説を研究するユアン・チンルウは、博士論文のテーマ「ノックスの十戒」の一部が、双方向タイムトラベルの成功について重要な役割を担う可能性があると、国家科学技術局から呼び出されます。実験に参加させられることになったユアンは……。
法月自身が述べる通り、本格ミステリーをネタにしたSFです。しかし正確にはミステリーでも、完全なSFでもないような気がします。古典ミステリーを好む方には、たまらないオマージュ作品です。特に、アガサ・クリスティとヴァン・ダイン、ノックス好きには、たまらないでしょう。
- 著者
- 法月 綸太郎
- 出版日
- 2014-09-12
「あるべきものを、あるべき場所に」が信条の怪盗グリフィンは、ある日アメリカのメトロポリタン美術館にあるゴッホの自画像を盗んで欲しいとの依頼を受けます。なんでも美術館にある絵は偽物で、本物とすり替えてほしいのだという。
グリフィンは信条にのっとって、ある驚くべき行動をとります。
この小説のおもしろさは、コミカルなのにわかりやすい文章と、話が二転三転するのに明確なロジックでしょう。
舞台は子どもでも名前は知っている美術館に、同じく有名なゴッホの絵。第二部もあって、そこで盗み出すのは、なんとカリブ海の国の将軍が持っている呪いの土偶。
一見すると子どもっぽいですが、そこは新本格の重鎮、見事な筆致で書いています。この作品は子どもだけでなく、たとえば今までライトノベルはたくさん読んでいたけどミステリーにも挑戦したいな、という人にもうってつけの作品です。
新本格ミステリーを書き続ける寡作作家・法月綸太郎。本の厚さにびっくりしてしまうかもしれませんが、読みはじめるとあまりの面白さに、そんなに枚数あったかなと思ってしまうほど。一気読みでも細切れ読みでもたっぷり楽しめますので、ぜひとも読んでみてくださいね。