誰にでもある青春時代は、振り返ってみるとなぜこんなことをしたのか、と頭を抱えたくなることもあります。しかしその一瞬しかない輝きに満ちていることも。「アフロ田中」シリーズは、主人公・田中の日常を描いた青春コメディ漫画です。2002年から連載が始まり今もなお続いている本作は、2019年7月からドラマの放送も決定しました。 そんな話題の「アフロ田中」シリーズを、全編ご紹介いたします。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
「アフロ田中」シリーズは、アフロヘアーが特徴の主人公、田中広とその仲間たちの日常を描く青年向け青春コメディ漫画です。作者はのりつけ雅春。
シリーズ第1作である『高校アフロ田中』が、「ビッグコミックスピリッツ」で2002年より連載がスタート。2018年21・22合併号からは、第6作となる『結婚アフロ田中』が連載されています。
本シリーズの大きな特徴は、田中の変化に合わせてタイトルが変わっていくというところ。「高校」、「中退」、「上京」と田中に起こった変化がダイレクトにタイトルにつけられています。シリーズをとおして1人の青年を追っていきますが、大きな事件でつながっているというような展開はありません。
メインのストーリーは田中の日常なので、人生の分岐点としての事件は起こります。しかし、挫折や失敗を乗り越えていこうとか、立ち向かって何かを成すというわけではありません。そこにリアリティがあり、作品にたいする親近感が湧くのです。「田中」という人物の人生を、一緒に追っていく物語です。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2002-04-26
田中は天然パーマのアフロヘアーという特徴的な外見をしていますが、どこにでもいる平凡な青年。異性への尽きない興味と衝動を抱えながら、仲間たちとバカ騒ぎをします。下ネタも満載で、少々下品な表現もありますが、男性が持つ特有の空気管を感じることができるでしょう。あるあるネタも多く、特に男性読者には共感できるポイントが多いはずです。
2012年には『アフロ田中』として松田翔太主演で実写映画化。上京後の田中を主人公にした物語で、オリジナルキャラクターなども登場しました。
そして2019年7月からはWOWOWでテレビドラマ化が決定しました。『上京アフロ田中』を原作に、田中の東京ライフを描きます。田中役を演じるのは、『今日から俺は』などでも注目を集めた賀来賢人。以外にもアフロヘアーがマッチしており、本作での演技にも期待が高まります。
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男子高校生の岡本は、口うるさく面倒を見ようとする母親に朝からうんざりしていました。ため息まじりで家から出ると、そこには謎のアフロの男が。
自転車に石を打ち付け、カギを壊して逃走を図ったアフロ男を撃退し、無事に自転車を奪い返した岡本。疲労困憊で学校に行くと、突然の転校生の知らせを聞かされます。
それは頭よりも一回り以上大きなアフロヘアーをした本作の主人公・田中広。自転車のカギを壊し、逃走を図った男でした。田中はそんな出来事なんてなかったかのように振る舞い、謝罪の一つもありません。関わり合いたくない岡本でしたが、田中は「友達」と呼んでくるのでした……。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2002-04-26
岡本は実はボクシング部で、少ない部員の中では実力がありました。
そんな彼の自転車を盗もうとした結果、返り討ちに遭った田中。彼が意外に強かったことを羨み、ボクシング部に入部しようとついていきます。先輩の仕掛けた入部テストをクリアした田中は、ボクシング部として高校生活をスタートさせたのでした。
高校1年生は、少し大人になったような気分になりますが、まだまだ子供です。田中はアフロヘアーのせいか、実年齢よりも老けて見えるため、外見の高校生らしさは薄め。しかし言動は完全に中学生を通り越し、小学生と同等だと感じるでしょう。
本作では田中が転校してきたところから、高校ライフを描いていくのですが、とにかくどこをとっても高校生らしさに満ちているといっても過言ではありません。
女の子と付き合いたいという衝動からくる下ネタや、お金持ちになりたい、楽して暮らしたい欲求からくるトラブルなどで笑わせてくれます。とにかく明るくバカをやっている、高校生男子特有の空気感が、最大の見所です。
中盤からは田中や仲間たちの恋模様などがストーリーの中心に高校生らしい甘酸っぱさに満ちています。田中は空回りする場面が多く、その都度顔芸を披露します。青春ゆえに少々痛いなという場面もありますが、楽天的な彼は精神的なダメージを感じさせません。青春の痛みを経験した読者も、笑いに昇華することができるでしょう。
高校をさぼり続けていた田中は、先生から学生を続けるかやめるかと問われ、中退を選んでしまいました。学校をやめたことで、時間を持て余した田中。ひと月たっても何もせず、家の周りを散歩するか、テレビを見てゴロゴロしているだけの息子に母はため息ばかりついていました。
田中も居心地の悪さを感じていたころ、母から「自分から社会に出たのだから、家に生活費を入れなさい」と言い渡されます。月3万円の生活費を払えなければ、家を出ていくように言われた田中は、しぶしぶ働きにでることになるのでした。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2004-10-29
1か月後、もらった給料に目を輝かせる田中。
しかし、その中から生活費を払い続ければすぐになくなってしまうこと、自分が怠けて生活しようと考えるとあまりにも少ない額であり、一生働かなければならないことに気が付きます。
給料と生活費、様々なことを考えた田中は中古のプレハブ小屋を購入、田中家の庭で独立をはたすのでした。
学校に行かないということは、社会に出たことも同義。学校を辞める勢いはありましたが、母親に逆らうことはできず、渋々と仕事を探してしまう田中の姿に「母親には勝てないよなあ」と共感してしまう読者も多いことでしょう。
彼は怠け癖があり、できれば楽して生きたいと考えています。多くの人がそう考えていますが、さすがに声を大にして言うことはありません。
田中の考えは読者の代弁ともいえ、そのちゃらんぽらんさが清々しいとさえ感じられるでしょう。とはいえ、社会人になってもやらかしが多い田中も、少しずつ社会人として成長していきます。
本シリーズの見所は、社会人として彼らしい成長を見せていくという部分と、女性キャラクターの登場が増えていくところでしょう。ついに田中も、大人になるときがくるのです。
しかし「普通」の女の子は登場しないところが、本作らしさでもあります。清楚だった少女の変貌に裏切られたり、美人だけれどセックスが大好きで強烈な性格をしていたりと、一筋縄ではいきません。
何かと周囲を巻き込むことが多かった田中ですが、本作からは巻き込まれることも多め。不純な欲求で女の子に興味を抱いていたところから、女性の恐ろしさを知り、うなだれることも少なくありません。よりヘタレ具合の増した田中を堪能することができます。
紆余曲折ありながらも、実家のある埼玉で運送会社に勤務し、仕事も板についてきた田中。
実家から出ていかなければならなくなり、勤め先の社長に相談したところ、東京へ行けという指示を受けます。事実上の解雇では、と思いつつも田中は20歳で単身上京することになってしまいました。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2007-12-01
次の田中の仕事先は、東京の地下15メートル。きっちり8時間勤務の肉体労働により仕事から帰っては眠るだけの生活が続きました。健全な仕事っぷりに己も満足していた田中ですが、寮に同室となった高橋とうまく関係が築けず、アパートを借りて1人暮らしをしようと決意します。
東京の家賃事情や賃貸を借りる際の料金を知らず、打ちのめされる田中でしたが、無事にボロアパートへの引っ越しに成功。隣人のキャバクラ嬢に因縁をつけられたり、地元の友人たちとの考え方の違いを感じながら、ゆっくりと大人になっていきます。
埼玉で仕事をしていた田中ですが、本シリーズらしいひょんなきっかけから、東京に出ることになりました。地元を離れるため、一緒に馬鹿をやっていた友人たちの出番は減少。上京した後、久しぶりに会った地元の友人たちとの距離や違和感についても書かれており、切なさと寂しさが混ざったような気持ちが渦を巻きます。
見所は、地方から1人で上京することで発生するあれこれに、共感するポイントが多いところです。田中はアパートを探し始めてから敷金礼金という概念を知り、あまりにも膨大な金額に唖然とします。
「健全がいい」とは、高校時代の田中の口からは絶対に出なかった言葉でしょう。真面目に働き、日々を過ごすことに虚しさを感じつつも、それよりも大きな生きがいを感じているところに、ハッとさせられます。ずっと馬鹿をやっていると思っていた田中の成長は感慨深く、嬉しさと寂しさを感じることでしょう。
とはいえ、田中は変わらないなと思わされる場面も。様々な風俗店に通ったり、下ネタや女性に振り回されたり、そんな姿は健在です。そして田中の恋にも新たな展開が訪れます。ツンデレなのに異常に不器用な女子、マキとの甘酸っぱくもじれったい恋模様は特に注目です。
無事にマキと恋人同士に。契約社員として千葉県でトンネルを掘る仕事をし、順風満帆な生活を送っていた23歳の田中。
オーストラリアに行っているマキに会いに、海を渡ることになりました。彼女には連絡せず、完全なるサプライズ。空港まで田中を送っていった同僚たちは、彼の不穏な未来を想像してしまいます。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
初の海外、英語ばかりの看板に動揺する田中でしたが、なんとかマキの住むアパートにたどり着きます。エレベーターに乗り込もうとしたとき、熱烈なキスを交わすカップルの姿が。動揺する田中が見たのものは……。2人の関係は、終焉を迎えてしまいます。
オーストラリアではバックパッカーとして過ごし帰国した田中ですが、失恋によるショックで、モヤモヤが晴れることはありませんでした。旅に出ようかと一度実家に帰り、ゴロゴロしていた田中は、母親に発破をかけられる形で放浪を始めるのでした。
紆余曲折あってくっついたはずなのに、マキの裏切りによる大失恋。「女性は信用ならない」と彼に感情移入する読者も胸の痛みに苦しむことでしょう。失恋には定番の行動がありますが、傷心旅行もその一つ。田中もさすらいの旅に出ることになります。
旅行とはいっても、彼の一人旅は、北海道から沖縄までバイクで道に迷ったり、旅の途中で一文無しになったりと、優雅さの欠片もありません。路上詩人という胡散臭い職業で路銀を稼ごうとする場面は特に秀逸。意外と達筆で、いい加減ながら真理を突いた田中節に笑いがこみあげてくるでしょう。
そして失恋を癒すのは新たな恋。旅から帰った田中は、また元の職場で働き始めるのですが、合コンで漫画家志望の女性・ななこと知り合います。眼鏡で少々地味な、彼の周りにはいなかったタイプです。なんとななこのほうからアプローチをしてくるという驚きの展開。電話をしているだけでムラムラしたりと、新しい恋にのめり込んでいきます。
本シリーズに登場する女子は強烈な性格の持ち主ばかりでしたが、ななこも負けてはいません。アルバイトをしながら漫画を描いているのですが、バイト先での居酒屋では異常なテンションを見せ、日常会話で痛い言葉を平気で口にします。漫画パロディネタを駆使して怒りを表現するなど、本シリーズの女子らしさを感じられるでしょう。
恋人のななことは違い、夢も目標もなかった田中。人生このまま何も考えずに働き続けるだけなのだろうか、と悶々としてしまいます。
しかし、28歳になった時に友人の村田に誘われ、ゲストハウスのオーナーになることを決意します。田中の新天地は神奈川県の三崎。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2015-11-30
田中は以前の仕事を辞め、マグロ加工会社に勤務。慣れない重労働と人間関係に苦戦し、人間は働きすぎだと嘆きながらお金を稼ぎ、築100年の古民家を改築しようと奮闘していました。
周囲は海が見える高台で、老人が多く住む少々寂しい地域。しかし、目標を得た田中の瞳は輝いていました。
ゲストハウスの建設は、東京オリンピック開催までにという少々ゆるい期限。ななこも夢を追っている状態でなかなか会えない日々が続くも、田中は新しくできた「ゲストハウス経営」という目標に向かいながら周囲の恋模様に巻き込まれていくのでした。
前シリーズでいったん完結となりましたが、28歳になって帰ってた田中。25くらいまでは若いなという感覚でいられますが、山を越えるとあとは下るばかり。30になるとよりいっそう大人の年齢になった自分を突き付けられてしまいます。
新たな目標を持ち、迷走しながらも一生懸命な田中を見ていると、そろそろ落ち着くのかなと思いきや、そんなことはありませんでした。ななことの関係や、順風満帆にいかずに終焉を迎えるゲストハウス運営に、読者もハラハラしてしまうでしょう。笑いどころも多いだけに、読んでいるこちらの感情の動きも大きくなります。
田中も大人になったな、と思いつつもやっぱり馬鹿をやっている部分が多く、同年に比べると幼く感じるでしょう。そんな彼が、自分の人生の残りの時間に気が付いた時の焦りや不安は、誰でも感じるもの。誰かに大丈夫と言ってほしい田中の気持ちを、痛いほど理解できてしまうのです。
本作の見所は、30になる田中の不安や葛藤、焦りでしょう。今の自分でいいのだろうか、と考えている読者には想像以上に響くはずです。人の人生はわからない。だからこそ、自分でしっかりと考えなければならないのだと、田中の嘆きを通して実感することができます。
田中31歳。
付き合い始めて6年、同棲を始めて1年になる恋人のななこに、プロポーズをしました。ななこのすべてを受け入れ、夫婦としてやっていこうとやる気満々の田中。すべてをさらけ出してほしいという言葉に、ななこも怒っていいやら恥ずかしいやらで、振り回されてしまいます。
- 著者
- のりつけ 雅春
- 出版日
- 2018-08-30
相手の両親にあいさつをしに、山田家を訪れた田中。反対されることもなく、結婚の報告を済ませます。ななこへ贈った指輪が高額だったことで自己満足に浸るのですが、彼には新たに「結婚式の費用」が立ちふさがります。
あまりの出費に結婚式を挙げることを渋る田中でしたが、彼女の言葉巧みな誘導により、結婚式を開催することに。準備に悪戦苦闘する田中の友人知人たちにも、それぞれ出会いや別れがあり、少しずつ変化していくのでした。
田中のくせに超ロマンティックなプロポーズをおこなうなど、と驚いた読者も多いことでしょう。下ネタばかりの思考を持つ田中ですが、女心を理解できないわけではありません。ななこのハートをがっちりつかみ、結婚までこぎつけることができました。
読者も感心するほどのロマンティックシチュエーションを演出した田中でしたが、結婚を意識したというエピソードを語るときに台無しになってしまうところが、本シリーズといえるでしょう。
排泄物の処理をいやな顔せずにしてくれたななこに、結婚を意識したという田中の言葉は、ロマンとデリカシーに欠けるところはありますが、真理をついています。
夫婦は同じ家に住む関係。汚いところも、嫌なところもおのずと見る機会も増えてきます。そんな部分を許しあい、受け入れられるのだから、よい関係を築いていけるのではないでしょうか。
本作の見所は、田中の前に立ちふさがる日本の結婚式事情のあれこれ。結婚をする機会がなければ気にすることもありませんが、式には300万もかかると聞き、驚いた読者も多いでしょう。女性の夢でもある結婚式、田中がどのようにこの重大イベントを乗り越えていくのかに注目です。
田中はどこにでもいる平凡な男性です。たくさん稼げるスーパーサラリーマンでもない、仕事ばかりしている社畜でもない。適度にゆるく、下ネタを好み、仲間たちとバカをやっている特別ではない彼の人生は、読者にとても近い等身大の人生です。だからこそ、多くの共感を得るのです。ドラマではどんな田中の姿がみられるのか、放送を楽しみに待ちましょう。