ドロドロが怖い小説おすすめ5選!女同士の内面にフォーカスした作品

更新:2021.11.18

嫉妬、陰口、いじめ、マウンティング……現実で起こったらと考えると想像するのも怖いですが、小説になると不思議と読んでみたくなる女同士のドロドロとした関係。内面に抱えた闇が見え隠れする、おすすめの作品を紹介していきます。

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女同士のドロドロとした複雑な友情を描いた小説『蝶々の纏足』

 

主人公の私とえり子は、5歳の時からの幼なじみ。周囲からは仲がよい2人と思われていましたが、私は彼女が疎ましくてたまりません。えり子はとても優秀で、私を自分の影法師のように連れ歩き、私の行動をいつも阻んでくるのです。

高校生になると、私は麦生という男の子と付き合い始めました。心も体も、急速に大人へと成長していきます。その一方でえり子は、相変わらずかわいくはあったものの、私にとってつまらない存在になっていったのです。

著者
山田 詠美
出版日

 

1987年に刊行された山田詠美の作品です。タイトルにある「纏足(てんそく)」とは、古代中国でおこなわれていた風習で、足が大きくならないように、幼少期から女性の足に布を巻き付けて整形するというもの。さながら、いつまでも大人になれないえり子を表しているといえるでしょう。

瞳美はえり子が妬ましく、その一方でえり子も瞳美のことを羨ましく感じています。瞳美はえり子の支配から抜け出すために麦生と付き合い、その結果心身ともに大人へと成長しました。対してえり子は、高校生になっても幼少期の雰囲気を身にまとったままでいるのです。

一見、束縛するものとされるもの、という関係に見えますが、その実お互いがお互いに依存してしまっている歪んだ関係が秀逸。腹を探りあうドロドロとした感情が見え隠れします。後半で、えり子がずっと自分のことを好きだったのではないかと私が気付く場面も心が痛くなるでしょう。

女同士のグループの裏側がドロドロで怖い小説『微笑みがえし』

 

タレントをしていた阿季子は、結婚を機に芸能界を引退。子どもも授かり、幸せな生活を送っていました。幼馴染の由記、ちなみ、玲子との仲も良好です。

しばらくして、阿季子はキャスターとして芸能界に復帰することが決まります。しかしその直後、何者かによる彼女への不気味な嫌がらせが始まったのです。

著者
乃南 アサ
出版日
1996-09-10

 

1991年に刊行された乃南アサの作品です。見どころは何といっても、女同士のグループのなかに潜むドロドロとした怖さでしょう。

阿季子はよくいえば明るくて天真爛漫な女性、悪くいえば女王様気取りで非常識なトラブルメーカーです。その他の3人は憎い気持ちを抱きつつ、それでもタレントである彼女との縁を切ろうとはしません。

阿季子が芸能界に復帰することが決まると、3人は偶然にも同時に嫌がらせを始めます。ガラスの破片が詰まった郵便物を送ったり、男遊びをスクープしたり、商法違反を暴露したりと、そのやり方はさまざま。表向きは親しげに微笑みながら、壮絶なマウントのとりあいをしていくのです。

まさに「ドロドロ」という言葉がぴったりの作品。鳥肌が立つほどの人間の陰湿さをお楽しみください。

少女時代の闇にむしばまれる小説『グロテスク』

 

主人公のわたしは、日本人の母とスイス人の父から生まれました。わたしは母に似た平凡な容姿でしたが、妹のユリコは完璧な美しさをもった美少女に成長します。ユリコと離れたいがためにわたしは必死で勉強をし、名門のQ女子高に進学。ひとりスイスの実家から離れて暮らし始めました。

学校では和恵という友人ができます。彼女の容姿も平凡で、わたしは心のうちで和恵のことを冷ややかな目で見ていました。

ある日、実家から母が自殺をしたという連絡が入ります。ユリコは日本にやって来て、Q女子高に帰国子女として編入してくるとのこと。わたしはその事実に愕然とします。

しかし、美しいと評判になったユリコは売春をしたことが発覚して退学に。また卒業後に大手企業に就職した和恵とともに、20年後に殺されてしまうのです。彼女たちは、街娼をしていたとこのことでした。

著者
桐野 夏生
出版日

 

2003年に刊行された桐野夏生の作品です。1997年に起こった「東電OL殺人事件」をモチーフにしているといわれています。

冒頭から巻き起こる姉妹間の確執、学内での階級、挫折とともに拡大する悪意……女子校時代に大きくなっていったその闇は、いつまでも彼女たちの心をむしばみ続けます。

男性優位の社会、モノとして扱われた経験、復讐心なのか自分を保つためなのか、娼婦として男の相手をする精神的崩壊……女子校時代の女同士のドロドロももちろん怖いですが、本書は男性優位の社会と、それに抗う女性の怖さが描かれているといえるでしょう。

女のドロドロとしたプライドを描いた小説『下流の宴』

 

主人公の福原由美子は、子ども2人を育てる専業主婦。彼女自身に大きな取り柄があるわけではないものの、医者の娘であること、国立大出身の高学歴であることに誇りを抱いていました。子どもたちには、人生でもっとも大切なことは学歴だと日々話しています。

しかし娘は大学在学中から婚活に励み、裕福な男性と結婚できたものの旦那が鬱を患って離職。また息子は高校を中退して以来定職につかず引きこもりぎみ。オンラインゲームで知り合った女性と交際しています。

他人を見下し、自分の行動が正しいと疑わない由美子。しかし子どもたちが思うような人生を送らない様子をみて、うちが「下流」に落ちてしまうと焦るのです。

著者
林 真理子
出版日
2013-01-04

 

2010年に刊行された林真理子の作品です。

学歴、経歴、都内と地方……高いプライドをもつ由美子ですが、彼女自身が努力をしているわけではありません。たまたまもっていた肩書きをかざして相手を見下し、「上流」「下流」と安易な格付けで人間関係を切り捨てていくさまははたから見ると滑稽です。

そんな彼女に育てられた2人の子どももなかなかで、金目当てで嘘をついて結婚をしたものの、相手を精神的に追い詰めたあげく離婚したり、すべてに対して無気力で面倒くさがったり……。

本書の唯一の救いは、そんな面倒くさがりな息子の彼女、珠緒でしょう。由美子から「育ちが悪い」「住む世界が違う」と徹底的にコケにされたため、「医者になる」と宣戦布告。ゲーム好きのフリーターだったのに、猛勉強をして医学部に合格するです。

見栄や体裁、コンプレックスなどのドロドロとした感情を描きつつ、人生において大切なものは何なのかを考えさせられる作品です。

友だち同士の行き過ぎたドロドロが怖い小説『ナイルパーチの女子会』

 

主人公の志村栄利子は30歳。大手商社に勤め、年収1000万円を超えるキャリアウーマンです。日課は、同い年の主婦「おひょう」が更新しているブログを見ること。栄利子にとって「おひょう」は憧れの存在でした。

ある日2人は偶然出会い、「30歳にして女友だちがいない」という共通点から、あっという間に親しくなります。近所に住んでいたこともあり、憧れていた友人との楽しい交流が始まるかという時。父の具合が悪くなったため、「おひょう」のブログの更新が3日間滞りました。

その間、栄利子は大量のメールを「おひょう」に送信。さらにはブログの写真から彼女の家を突き止め、会いに来るようになるのです。栄利子はストーカーと思われないかと恐れるものの、その行動はさらに勢いを増していきます。

著者
柚木 麻子
出版日
2018-02-09

 

2015年に刊行された柚木麻子の作品です。タイトルの「ナイルパーチ」は、実在する淡水魚。作者は水族館で、「生き残るために凶暴になってしまう」という説明書きを読み、本書を執筆するにいたったそうです。

コンプレックスを抱え続け、こじれた承認欲求が、栄利子を過剰な行動へとはしらせていきます。その一方で「おひょう」も、回転寿司に行ったことがないという栄利子を羨ましく感じていました。さらに彼女自身も、自分よりの人気のブロガーを追いかけまわすようになってしまうのです。

認められたいというドロドロとした欲求は少なからず誰しもが抱いているもの。だからこそ読者の胸に響くのでしょう。

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