身長3センチ、体重はたったの1グラムほどの小さなひと「コロボックル」。彼らが活躍する「コロボックル物語」シリーズは、日本で初めてのファンタジー小説だといわれています。近年では、人気小説家の有川浩が続編を発表したことでも話題になりました。この記事では、それぞれの作品のあらすじや魅力をご紹介していきます。
1959年に初版が刊行された『だれも知らない小さな国』。「コロボックル物語」シリーズの1作目です。
作者は、児童文学作家の佐藤さとる。2017年に惜しまれながら88歳で亡くなりました。生前は「厚生大臣賞」や「国際アンデルセン賞国内賞」、「野間児童文芸賞」、そして「旭日小綬章」など数々の権威ある賞を受賞。日本ファンタジー小説界の第一人者といわれ評価されています。
出身は神奈川県横須賀市。学生時代から童話の創作を始めます。大学を卒業後は、市役所や中学校の教諭、児童雑誌の編集者などを務めました。
1959年、31歳の時に身長3センチほどの小人たちが活躍する『だれも知らない小さな国』を自費出版。その後講談社から刊行されました。以降「コロボックル物語」シリーズとして1987年までの間に全6巻を発表しています。
2019年現在、「コロボックル物語」シリーズは累計発行部数350万部を超える人気作として、愛されながら読み継がれています。
シリーズの人気の一端を担っているのが、村上勉が描く挿絵です。村上は『だれも知らない小さな国』でイラストレーターとしてデビューをし、以降シリーズすべての作品を担当。緻密でかわいらしく、それでいて少し幻想的なイラストは、「コロボックル物語」シリーズには欠かせない存在となっています。
それは「ぼく」が小学3年生の時の夏休み。もちの木を探しに峠の向こうに行ってみると、泉が湧き、花が美しく咲いている小山を見つけました。ぼくはその不思議な美しさに魅了され、それから足繁く通うようになります。
次の年の夏休み。同じように小山に行くと、靴を片方無くしたという女の子に出会います。一緒に探してやり、ようやく見つけた運動靴の中を見て、驚きました。
「小さい赤い運動ぐつの中に、虫のようなものが、ぴくぴくと動いているのに気がついたからだ。しかし、それは虫ではなかった。小指ほどしかない小さな人が、二、三人のっていて、ぼくに向かって、かわいい手をふっているのを見たのだ。」
(『だれも知らない小さな国』より引用)
- 著者
- ["佐藤 さとる", "村上 勉"]
- 出版日
- 2015-10-28
『だれも知らない小さな国』は「コロボックル物語」シリーズの記念すべき1作目。1959年に刊行されたとは思えないみずみずしさを放つ、名作古典ファンタジーです。
ぼくが見つけた小さな人は「コロボックル」といい、地元では「こぼしさま」と呼ばれているもの。コロボックルはぼくを「せいたかさん」と呼びます。本作では、高度経済成長期を背景にした道路の拡張によって、彼らが住む山がつぶされる危機になり、せいたかさんとコロボックルたちが力をあわせて立ち向かっていきます。
大人が読んでもピュアな心を刺激され、どこかの田舎の片隅に、本当にコロボックルたちが暮らしているのではないかと思わせてくれるのが最大の魅力でしょう。彼らは読者の日常にするりと入ってきて、まるで同じ世界の住人になったかのような気分にさせてくれるのです。
せいたかさんからのアドバイスを受けて、コロボックルたちはクリノヒコを中心に「コロボックル通信社」という新聞社を立ち上げることにしました。
その第一報として目をつけたのが、コロボックルたちが昔飼っていたという「マメイヌ」です。豆つぶほどの小さな犬で、コロボックルたちよりもっとすばしこく、利口だったといいます。
長らく死に絶えたと考えられていましたが、実はいまでも生き残っているらしい……?一同はマメイヌを探すために動き出しました。
- 著者
- ["佐藤 さとる", "村上 勉"]
- 出版日
- 2015-10-28
『豆つぶほどの小さないぬ』は、1960年に刊行された「コロボックル物語」シリーズの2作目です。全作で主人公だった「ぼく」は結婚し、すでに娘も生まれています。
本作の主人公は、コロボックルのひとり、クリノヒコ。通信社の通信員である彼を中心に、物語が進んでいきます。これまでは神秘的な存在だったコロボックルたちがぐっと人間味を増し、より身近に感じられるでしょう。
カタツムリのカラと安全ピンで作った罠や、切手サイズの新聞など、小さな国に登場するかわいらしいアイテムたちは胸がときめくものばかり。健気で愛らしい彼らの奮闘をぜひ見届けてください。
「この子は、トコという、男の子です。ほんとうの名前は、『トネリコのヒコのトコ』といいますが、めんどうなので、みんなトコとだけよびます。ひとりで、どこへでも、とことこでかけていってしまうので、そんななまえがつきました。」
(『コロボックルそらをとぶ』より引用)
主人公は、子どものコロボックル、トコちゃん。体は小指の半分ほどの大きさしかありません。
ある日トコちゃんは、大きな木の古株の下に、足をくじいてうずくまっている小鳥を見つけました。包帯を巻き、水をあげ、献身的な看病をするトコちゃん。2人はすっかり仲良くなり、それから毎日一緒に遊ぶようになります。
- 著者
- ["佐藤 さとる", "村上 勉"]
- 出版日
- 2004-05-27
1971年に刊行された「コロボックル物語」シリーズの番外編、「絵童話」シリーズです。もちろん挿絵は村上勉が担当。『コロボックルそらをとぶ』はその1作目です。小さな小さなトコちゃんと小鳥の、心の交流が描かれています。
傷ついた小鳥を懸命に看病するトコちゃん。その優しさに読者の心もあたたかくなります。やがて仲良くなると、トコちゃんは小鳥の背中に乗って街へ行くのですが……人間たちに見つからないかハラハラです。
ストーリー展開も難しい部分はなく、挿絵もたくさんあるので、「コロボックル物語」シリーズを読むにはまだ早いかなという小さなお子さんにもおすすめ。世界観はそのままに、コロボックルたちの物語を楽しむことができます。
- 著者
- 村上 勉
- 出版日
- 2015-12-16
シリーズすべての挿絵を担当した村上勉の画集です。新たに50枚を書き下ろし、2015年に刊行されました。
ページいっぱいに広がる美しい植物や、小鳥、カエルなどの動物たち。そしてその間で躍動するコロボックルが繊細な彩りで描かれています。
イラストだけでなく、佐藤さとるとの出会いやコロボックルを書くにあたっての苦労など、貴重な裏話やこだわりも掲載。「コロボックル物語」シリーズのファンにはたまらないエピソードが赤裸々に綴られています。
本編を読んだことが無い方は、導入として本作から手に取るのもよいかもしれません。
小学3年生の男の子「ヒコ」は、はち屋の子ども。ミツバチを飼育して、そこからとれたはちみつを売って暮らしています。ミツバチとともに日本中を巡るため、ヒコの家族は全国を転々としながら暮らしていました。
ある日、いつものようにはちみつを収穫したヒコは、巣箱の置いてある草地から止めてある車へと向かって歩いていました。その時です。
「『トマレ!』鋭い声が、耳のこまくを打った。えっ、とぼくは思わず足を止めた。トマレ、と言われたから、わけも分からず従った。」
(『だれもが知ってる小さな国』より引用)
足元にいたのは、大きなマムシです。このまま進んでいたら、踏んづけて噛まれてしまっていたかもしれません。トマレと叫び、ヒコを救ってくれたのは誰なのでしょうか。
- 著者
- ["有川 浩", "村上 勉"]
- 出版日
- 2015-10-28
1987年に完結したはずの「コロボックル物語」シリーズ。27年後の2014年に、佐藤さとるから直々にバトンを渡された有川浩によって書き継がれることになりました。挿絵はもちろん村上勉が担当しています。
お馴染みのコロボックルたちが登場し、優しくてほっこりできる作品の空気感はしっかりと受け継がれています。そこに有川ならではのストーリー展開が上乗せされ、新たな「コロボックル物語」シリーズとなっているのです。
本作を読むことで、佐藤さとるが書いた物語を読みたくもなるでしょうし、その逆もあるでしょう。「コロボックル物語」シリーズの世界がよりよい形で広がったことは間違いありません。小さなコロボックルと出会い、成長していく子どもたちの物語は、これからも続いていくのだと予感させてくれる一冊です。
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