あらゆる決めつけを打破!自分を大切にするためのヒントになる本【住岡梨奈】

あらゆる決めつけを打破!自分を大切にするためのヒントになる本【住岡梨奈】

更新:2021.11.18

たとえば、SNSで「ルールになんて縛られたくない!」と発言した人がいたら、「考え方がまだ子どもだなぁ」とか「ああ、尖っていたいんだねぇ」などと、どこからともなくイジワルな声が飛んできそうな気がしませんか? SNSに限らず、実際にこのような状況を目の当たりにしたことがありますし、何か発言するたび即座に「それはダメ、それは違うよ」と話を遮る人もいます。もちろん賛同してくれる人もたくさんいますが、わざわざ揚げ足を取るようなことを言われると、誰だって悲しい気持ちになりますよね。 言う側も言われる側も、自分の考えと異なる言動には敏感なのだなぁと感じます。どちらにも確固たる言い分があって、どちらが正しいというものでもない……。そんな日常的な板挟みあるあるに、時々“しんどいなぁ”と思っている人へ。 “こちら側・あちら側”と何かと分けられてしまいがちな現代のコミュニティーの中で、人はそれぞれどんなことを感じ、どんな思いを抱えているのか、どうすれば生きやすいのか。「何かとても大事なヒントが書かれている気がする!」と思った3冊をご紹介します。

ブックカルテ リンク

「おまじない」

著者
西 加奈子
出版日
2018-03-01

時々、人は無意識に“あるべきすがた”に囚われていると感じることがあります。子どもらしさ、女性らしさ、父親らしさなど、“らしさ”というものは漠然としたイメージであり、ただのイメージなはずなのに、気付けば自ら型にはまろうとして、なぜだかとても窮屈に感じてしまっているものです。

『おまじない』は8つの物語からなる短編集で、“可愛くあること”について考える女の子、いい子で在り続けることにちょっと疲れてしまった女の子、お酒を飲んだり戯けることで自分を保とうとする女性など、物語の主人公はみんな女性です。主人公たちはそれぞれ他人から受けた呪いのような言葉を纏ってしまっているのですが、関わる人からの言葉で新たな視点を得ることによって、呪いの言葉を前を向くための“おまじない”に変化させていきます。心の壁を壊して踏み出して行く力強い印象を受けました。

なかでも私は<孫係>というお話が一番心に残っています。祖父と孫の会話から新しい思いやりの形を見つけた気がしました。この本には老若男女を問わない、愛すべき種が詰まっています。

「それしか ないわけ ないでしょう」

著者
ヨシタケ シンスケ
出版日
2018-11-02

ある日突然、小さな女の子は小学校から帰ってきたお兄ちゃんに「知ってる? 未来は大変なんだぜ?」と告げられます。驚いた女の子はおばあちゃんのところへ行き、未来が大変になることを伝えます。するとおばあちゃんは「だーーーいじょぶよ! 未来なんてどうなるか誰にもわかんないんだから!」と、素敵な笑顔で女の子に大丈夫な理由を詳しく説明し始めます。

そういえば子どもの頃、「ごはん? パン? どっちにする?」なんて毎朝聞かれたものです。私は何の疑問も持たずにどちらかを答えていました。この絵本を読んでしまった後は「それしかないわけないでしょう!」と頭の中であらゆる答えを導き出すことができるようになるでしょうから、親はきっと困るでしょうけど子どもはとても楽しい気分になりそうです。

好きでも嫌いでもないなら「すらい!」があってもいい。大人も子どもも自分が持っている感覚や気持ちのやり場を増やすことができたら、未来はもっと明るくなるのかもしれません。

今それしかないのなら新しいものを考え出そう!という発明家のような思考を育ててくれる楽しい絵本です。さすが、考える絵本!

「すらすら読める徒然草」

著者
中野 孝次
出版日
2013-11-15

日本三大随筆の一つと言われている『徒然草』は、国語の教科書などで馴染みのある方も多いのではないでしょうか。私はこれまで学校の授業以外で古典文学に触れる機会はなかったのですが、「すらすら読める」と付いたタイトルと、ポップな表紙デザインに目を惹かれ、初めて『徒然草』を小説感覚で読んでみようと思いました。

中野孝次氏によって選び抜かれた段はカテゴリー別に分けられ、ページの上側に原文、下側には現代語訳、そのあとに解説と、とても読みやすい構成になっています。1330年頃(鎌倉時代)に書かれた言葉が現代でも人生の教訓になり、戒めとされていることが素晴らしいと感じられる一方で、人は今も昔も相変わらず同じようなことに愛着を持ち、日々生きることに勤しむ姿勢が愛くるしく思う段が幾つもありました。読めば読むほど、懐が深い吉田兼好に心を奪われてしまいそうです。 

難しそうだと決めつけていた『徒然草』の扉をこの本が開いてくれました。いつか読んでみたいと思っていた人は、この機会にぜひ読み始めてみてほしいなと思います。「すらすら読める」シリーズは『方丈記』もありますよ。

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