本作は2015年からWebコミックサイト「となりのヤングジャンプ」で連載されていた那多ここねの作品です。元気な幼稚園児を預かることになった低血圧の男子高校生が、ほのぼのとした日常を送っていくハートフルストーリーとなっています。ゆるい雰囲気に癒やされること間違いなし。
高校2年生の坂口秀人(さかぐち しゅうと)は、周囲とあまり付き合わない大人しい少年でした。ゴールデンウィークも過ぎた5月下旬、彼はひそかにウキウキとした気持ちになっていました。両親が海外に出かける3ヶ月間、自由気ままに1人過ごせることになったからです。
その初日、自宅に帰ると……見知らぬ女の子が家の中でかくれんぼをしていました。幼女の名前は、森田ちほ。秀人の両親と一緒に、彼女の親も海外へ行くこととなり、急きょ坂口家に預けられたのでした。
1人っ子で物静かな少年・秀人と、元気いっぱいの女の子・ちほ。彼らの親が帰ってくるまでの3ヶ月――100日間の共同生活が始まります。
- 著者
- 那多 ここね
- 出版日
- 2016-05-19
とにかくちほのペースに秀人が巻き込まれていくのが面白い漫画です。最初は距離を測りかねていた彼が、兄のような、はたまた父親のような保護者目線になっていくのも頼もしい限り。また、幼児っぽさ満載な彼女の行動も微笑ましいです。
疲れた心に、癒やし効果抜群の作品となっています。
那多ここねは5月20日生まれ、滋賀県出身の女性漫画家です。詳しいプロフィールは不明ですが、2015年「B's-LOVEY recottia」に掲載された読み切り短編『雨上がりカタツムリ』で商業デビューしました。
- 著者
- 那多 ここね
- 出版日
- 2018-11-16
現在は「月刊コミックゼロサム」で『先生もネット世代』を連載中。2019年6月にはSNS上で評判を呼び単行本化された『クールドジ男子』が発売予定となっています。
いずれの作品もリアルな日常に視点を置いています。なかでも、思わずクスリと共感してしまうような行動が描かれているのも見所。また、適度に非日常のアクセントを交えた世界観も魅力的です。せ
本作の主人公は、坂口秀人と森田ちほの2人です。ローテンションとハイテンションの凸凹コンビとなっています。
秀人は、ちほや幼稚園の子どもたちから「しゅうくん」とも呼ばれます。園児たちからみれば十分大人ですが、まだまだ未熟さのある高校生です。基本的にちほに押されっぱなしですが、段々と過保護すぎる保護者になっていく過程が面白いところ。
一方のちほは、ツインテールが重力に逆らってピンと立つほど元気な女の子で、愛称は「ちぃ」。自由気ままな性格と、幼さゆえの問題行動も見られます。しかし素直なよい子なので、見ているだけで楽しくなってきます。秀人がちょっと頼りないことから、自分が彼の保護者だと思っている節があります。
そして2人の共同生活に欠かせないマスコットのふくめん。ちほが保護した迷子のウサギで、白黒模様が覆面マスクに見えることが名付けられました。
秀人の友達・青木は見た目も言動もチャラいですが、二人の間を取り持つナイスキャラ。精神年齢はちほと同じくらいですが、その場の空気を読む天才です。
他にも高校の同級生、幼稚園のお友達、先生など、秀人とちほの日常を彩るキャラはまだまだ出てきます。そんな彼らの関わりも見所の1つです。
ただただ日常で起こりそうなことが描かれていく、平和そのものを表現している本作。しかし、大人にとっては同じような毎日でも、幼い子供には日々が初めての連続なのです。
ちほは、どんな些細なことにも目を輝かせ、全力で取り組んでいきます。願望は思わず言ってしまうし、嬉しかったり楽しかったりすれば、踊り出すこともしばしば。また、大人が憂鬱に思う雨の日でも、ふだんとはちょっと違う非日常として、全身を使って楽しみます。そのすべてが微笑ましく感じられる作品です。
秀人も、慣れない家事や子供の世話に四苦八苦します。一緒に寝る場所を提案したり、ホームシックなちほを気遣って2人で料理をしたり、初めてのことにどんどん挑戦していきます。最初はレトルトばかりだったのに、いつの間にか上達しているなど、彼の成長が感じられます。
楽しい時間がいつまでも続くように……。この作品は、時間経過が曖昧だったり、場合によっては時間がループしてずっと続くことがあります。ところが、あらすじでも触れたように本作は100日間という期限が。そこが最大のポイントと言っても過言ではありません。
彼らの絆は、日々どんどん深まっていきます。長いようで短い100日間、その1日1日に着目すると途方もなく長く思えますが、気付けばあっと言う間に時間が過ぎていくのです。中盤から終盤に進むに従い、ゆったりまったりした生活の中に、どこか切なさが垣間見えてきます。
「いずれやってくる別れだからこそ、一瞬一瞬が愛おしい」そんな感情が芽生えてきて、どんどん話の中に引き込まれていくのが、本作ならではの魅力といえるでしょう。
約3ヶ月の間、嬉しいこと、楽しいことだけでなく、悲しいこともありました。それらをすべて2人で乗り越えて、ついに運命の日、100日目がやって来ます。
ママが帰ってくる、とちほははりきって秀人と片付けをするのですが、少し様子が変でした。実は、帰ってきたママと坂口家で一緒に暮らすのだと、ちほは思い込んでいたのでした。
- 著者
- 那多 ここね
- 出版日
- 2017-11-17
最終日、ちほがお別れを理解してなかったことが判明します。その無邪気さが、かえって残酷な現実を浮かび上がらせることに。
別れが悲しいのは、彼らが家族同然になったからに違いありません。しかしそれと同じくらい、本当の家族も大切に思っていることがわかります。秀人がちほに語りかける姿は、1日目のふたりとは真逆です。本作の最大の感動シーンといえるでしょう。
物語は終わってしまいますが、単行本には後日談的なエピローグも収録されています。二人の別れが惜しい読者にとっては、少し嬉しくなる話となっているのでぜひご覧ください。
いかがでしたか?秀人とちほ、2人の友達たちとの生活が描かれた優しい物語です。本作を読むことで、きっと彼らから元気をもらえますよ。