得意なジャンルを活かし、芯のあるミステリーを書き続けた北森鴻。もっといろいろなミステリーを見せてほしかったと、早すぎる死が悔やまれてなりません。そんな北森鴻の作品のおすすめを5作ご紹介します。
北森鴻は1961年、山口県下関市で生まれます。駒澤大学文学部歴史学科を卒業。小学館の編集プロダクションを経て、作家デビューを果たしました。
得意とする民俗学、骨董、食の分野の知識を活かし、旗師・冬狐堂シリーズ、香菜里屋シリーズなどの人気作品を生みました。
2010年1月25日、山口市内の病院で心不全にて亡くなりました。48歳でした。
「蓮丈那智のフィールドファイル」シリーズの1冊目です。民俗学者・蓮丈那智の研究室に「ある寒村で、禍々しい笑いを浮かべた木造りの面を村人が手に入れてから死者が相次いでいる」という一通の調査依頼が届いてはじまる表題作ほか5作が収録されています。
- 著者
- 北森 鴻
- 出版日
- 2003-01-29
本作は、殺人事件の謎と民俗学的な謎が複合して一気に読ませるミステリー。北森鴻の民俗学への造詣がみごとに生かされています。
ミステリーはもちろんのこと、破天荒な民俗学者・蓮丈那智と、彼女に振り回される気の毒な助手・ミクニこと内藤三國の関係も楽しめます。謎を解く那智は女王様で、その命令に逆らえないミクニはまさに下僕――このふたりの関係性があってこその作品でしょう。
旗師・宇佐見陶子を主人公にした「旗師・冬狐堂」シリーズの1作目です。
- 著者
- 北森 鴻
- 出版日
- 2000-05-12
宇佐見陶子は、自らの鑑定眼だけを頼りに骨董を扱う「旗師」で、店舗は構えていません。ある日、同業の橘董堂から仕入れた唐様切子紺碧碗が贋作だとわかり、陶子はプロを騙す「目利き殺し」に対して意趣返しの罠を仕掛けようと考えます。殺人事件や30年前の贋作事件が絡んだことで、陶子の仕掛けた罠が思わぬ方向に動き出してしまい……。
ぐいぐい読者を引っ張り込む、骨董業界についての語り部分。骨董業界の恐ろしさや、ひとりで生きる女性像が独特の雰囲気を作り出します。
骨董という言葉に尻込みせずに、ぜひ手にとってほしい作品です。
第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作。タイトルは西行の「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」が由来となっています。
- 著者
- 北森 鴻
- 出版日
- 2001-12-14
三軒茶屋の路地裏にあるビアバー・香菜里屋を舞台に、マスター・工藤が、客たちの持ちかける相談や謎を解き明かす、安楽椅子探偵といえる作品シリーズの1作目です。「香菜里屋」シリーズと呼ばれます。
工藤の推測による「答え」に相談を持ちかけた客たちは、ほぼ満足して納得します。工藤が作る料理もシリーズを人気にしている要因で、これは著者が持つ調理師の資格が活かされています。
表題作では、店の客でフリーライター・飯島七緒が同人仲間の火葬に立ち会い、身元引受人のいない彼のために、骨の中から出てきた骨折治療用ビスと彼の句帳を故郷に返そうと考え、工藤に相談します。工藤はどんな「答え」を推理するのか、飯島はどうするのか。静かに見つめていたくなる物語です。
本作では6本の短編が収録されていますが、どれも工藤と「香菜里屋」の魅力に満ちていています。血なまぐさい展開はありませんので、怖いミステリーが苦手な方にもおすすめです。
博多の親不孝通りを舞台に、鴨志田鉄樹と根岸球太の「鴨ネギコンビ」が活躍する、ハードボイルド風ミステリーシリーズ。本作と『親不孝通りラプソディー』という2冊が出版されています。
- 著者
- 北森 鴻
- 出版日
- 2006-08-12
高校時代からの腐れ縁の男ふたりが交代で語る物語なのですが、一人称は共通語と博多弁。共通語を喋るのは冷静で、ラーメンとおでん屋台でカクテルを出すテッキこと鴨志田鉄樹。博多弁を操るのは、お気楽で自己中なのに憎めないキュータこと根岸球太。探偵役はテッキで、キュータは狂言回しに近いかもしれません。連作が進むにつれ、過去や思い出がよみがえってきて、ついには……。
ノリは軽いけれど、内容は重い感じのする本作。ふたりはどうなってしまうんだろうと考えながら読みました。凸凹バディ作品が好きな方には、特におすすめです。
『支那そば館の謎』と『ぶぶ漬け伝説の謎』の短編集2冊を出す、ミステリーシリーズ。実在の寺院が舞台です。北森作品の中では、ドタバタしたコメディ色が強い作品です。
- 著者
- 北森 鴻
- 出版日
- 2006-07-12
関西一帯を騒がせた元怪盗・有馬次郎は、嵐山大悲閣の寺男として働くことになります。かつて培った「裏」の技能を駆使し、住職や新聞記者たちとともに、寺に舞い込む事件を解決していきます。
登場人物同士の会話や、おてんば記者の暴走が面白く、ヘビーな事件が多いのですがユーモアいっぱいの仕上がりです。北森作品の定番ともいうべき料理がどれもおいしそうに描かれており、読んでいるとお腹が空いてしまいます。
京都の街を思い浮かべると、面白さが増すかと思います。ミステリー部分もしっかりと構築されており、幾重にも楽しめます!
作品中に散りばめられた、うんちくや料理の表現が魅力な北森鴻作品。新作が発表されないことは寂しいですが、何度読んでも新しい発見のある作品ばかりです。まだ読んだことのない方は、ぜひ手にとってみてください。