謎解きやトリック、名探偵の活躍などが物語の中心となっている「本格ミステリ」。推理小説のジャンルのひとつです。この記事では、2001年に創設された「本格ミステリ大賞」の歴代受賞作のなかから、特におすすめの作品を紹介していきます。
推理小説のジャンルのひとつである「本格ミステリ」を発展させるために設立された「本格ミステリ大賞」。本格ミステリ作家クラブが主催し、2001年から実施されています。
小説部門と、評論・研究部門があり、前者の対象は単行本化された作品に限られていますが、後者は雑誌などに掲載された作品も候補に。過去にはアマチュア同人小説サークルが頒布した評論『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド 増補改訂版』が受賞したこともありました。
毎年1回、本格ミステリ作家クラブの会員にアンケートをとったうえで、予選委員が候補となる5作品を選定。会員は候補作すべてを読み、選評を付けて投票をします。後に選評は公開され、開票も公の場でおこなわれるのが特徴です。
見事に大賞を受賞した作品には、トランプのクイーンをあしらった特性トロフィーが授与されます。これは京極夏彦がデザインしたもので、すらりと伸びた台座に斜めにトランプが突き刺さったフォルムもかっこいいのですが、トランプ自体にも注目です。よく見るとマークは「M」になっていて、クイーンが持っているのは花ではなく鍵。遊び心が感じられるでしょう。
ではここからは、「本格ミステリ大賞」小説部門の歴代受賞作のなかから、おすすめの作品を紹介していきます。
高校生の「僕」のもとに、友人の森野夜が手帳を拾って持ってきました。中を見てみると、どうやら最近起こっている連続殺人事件にまつわる日記が綴られていて、まだ見つかっていない死体の在り処が書かれていたのです。
次の同曜日の午後、僕と夜は手帳の情報を頼りに、死体を見に行くことにしたのですが……。
- 著者
- 乙一
- 出版日
2003年に「本格ミステリ大賞」を受賞した乙一の作品です。乙一はファンタジーやライトノベルなど多彩な作品を生み出す作家ですが、本作はファンの間で「黒乙一」と呼ばれる、残酷表現やダークな色合いの強い作品になっています。
僕と夜は2人とも高校生ですが、どちらも人間の死や殺人などに並々ならぬ興味を抱いています。物語は終始ほの暗い影がつきまとい、そわそわしながら読み進めることになるでしょう。
最終章に向けて細かい伏線を回収しながらも、読者に対して大きなトリックを仕掛けていく構成は、まさにミステリの醍醐味を味わえます。
文庫本は、『GOTH 夜の章』と『GOTH 僕の章』の2冊に分かれているのでご注意ください。
天才数学者で、高校で教師として働いている中年男性の石神。アパートの隣の部屋に住む花岡靖子とその娘の美里が、ストーカーと化した元夫を殺してしまったことを知り、彼女たちを救うために完全犯罪に仕立てあげます。
数日後に遺体が発見され、捜査に乗り出したのが、石神の大学時代の同級生で親友でもある、天才物理学者の湯川でした。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 2008-08-05
2006年に「本格ミステリ大賞」を受賞した東野圭吾の作品です。「ガリレオ」シリーズの初の長編作品で、2008年に公開された映画も大ヒットしました。「本格ミステリ大賞」だけでなく、「このミステリーがすごい!」国内編で1位、「週刊文春ミステリベスト10」で1位、さらには「直木賞」も受賞しています。
本書の主役の石神は、ガリレオこと湯川に 「本当の天才と呼べる男は石神だけだ」とまで言わせた人物。そんな彼が、すでに起こってしまった殺人事件をどうやって完全犯罪に仕立てあげていくのかが見どころです。
実際に手をくだした母娘さえもそのトリックは知らされていません。「天才」と呼ばれる男の計算はどこまで緻密なのか、体感してみてください。
物語の舞台は、宇宙人との邂逅を信じて急成長を遂げている宗教団体「人類協会」の聖地といわれている、神倉という場所。そこへ出かけたまま大学に顔を見せなくなった部長・江神の身を案じ、推理小説研究会のメンバーは現地に向かうことにしました。
無事に江神と再会できたものの、殺人事件が発生。協会の面々はなぜか警察への通報を拒否し、推理小説研究会のメンバーも軟禁されてしまいました。
そんななか、第2、第3の事件が起こります……。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 2011-01-26
2008年に「本格ミステリ大賞」を受賞した有栖川有栖の作品です。作者と同姓同名の学生が、推理小説研究会のメンバーとして登場。アリスをワトソン役とした、クローズド・サークルものになっています。
クローズド・サークルとは、密室よりはもう少し広い範囲の、閉ざされた場所のこと。犯人は必ずその空間内にいる人でなければならず、外界との連絡が限られているため、探偵役が警察の介入を受けずにロジックによって犯人をつきつめる状況が自然に作り出せるのが特徴です。
しかも本作では、宗教団体の聖地で事件が起きるという完全にアウェイな状況。そんななかで、論理の飛躍がなく推理が進められていく様子は、読んでいて非常に安心できます。ミステリファンも満足できる一冊です。
主人公は、久遠小学5年生の桑町淳。仲間とともに「少年探偵団」を結成しています。
ある時、鈴木太郎という少年が転校してきました。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。それだけでなく、リコーダー盗難事件の犯人を言い当てたり、暴走トラックの事故を未然に防いだりと数々の実績を残し、いつしか彼は「神様」と呼ばれるようになるのです。
そんななか、隣の小学校の体育教師が殺される事件が発生。そして容疑者のひとりに、桑町たちの担任の名前があがります。先生の無実を証明するため、探偵団は調査を始めました。
- 著者
- 麻耶 雄嵩
- 出版日
- 2017-07-06
2015年に「本格ミステリ大賞」を受賞した麻耶雄嵩の作品です。6つの章から成る連作短編集ですが、どれも序盤で神様である鈴木が「犯人は〇〇だよ」と答えを言ってしまう大胆さが特徴でしょう。「神様の言葉は絶対に正しい」という前提のもと、探偵団はアリバイ崩しに取り掛かっていくのです。
神様の口から発せられる犯人の名は受け入れがたい時もあり、まだ小学5年生の彼らは苦悩しながら調査をしていきます。その過程で新たな事件が生まれ、しだいに人間関係まで変わっていってしまうことに……。
そして「神様の言葉は絶対に正しい」という物語の前提を逆手にとったラストは秀逸。後味が悪くも、シニカル好きの読者にはたまらないものになっています。
世界各国から死刑囚ばかりが集められた、ジャリーミスタン終末監獄。親を殺した罪で収監されたアランという青年が主人公です。アランは「牢名主」と呼ばれる老人シュルツと出会い、彼の助手となって監獄内で起こる事件を捜査することになりました。
死刑執行前夜に密室状態の独房で囚人が惨殺された事件や、男子禁制のはずの女囚居住区の囚人が身ごもった事件など、6つの謎に迫ります。
- 著者
- 鳥飼 否宇
- 出版日
- 2017-05-11
2016年に「本格ミステリ大賞」を受賞した鳥飼否宇の作品。死刑囚ばかりの監獄という変わった舞台でくり広げられる本格ミステリです。
なぜ翌日には死刑となる者がわざわざ殺されるのか、脱獄に成功した囚人はなぜあえて明るい満月の夜を選んだのかなど、魅力的な謎が満載。
最終章で描かれるのは、主人公アランにまつわる物語です。とうとう死刑執行まであと4日となったアラン。彼の犯した罪は死刑に値するものなのかという、それまでのストーリー全体を覆っていた謎が明かされていくさまが見どころになっています。