時に甘く、時にほろ苦いスイーツ。日常的に癒されている人もいるでしょうし、人生のターニングポイントとして忘れられない味がある人もいるでしょう。この記事では、さまざまなスイーツが登場する小説のなかから、おすすめの作品を厳選して紹介していきます。
主人公は、老舗の和菓子店で売り子をしている絢部あかり。彼女の務めている店の2軒隣りに、「ショコラ・ド・ルイ」というショコラトリーがオープンしました。
ショコラ・ド・ルイは人気店となり、あかりも客として訪れます。しかし、そこで不審な動きをする少女たちに遭遇。すると別の客が、少女たちが万引きをしたと騒ぎ始めたのです。
盗まれたのは、大きな箱に入れられた高価な焼き菓子。しかし調べたところ、少女たちは誰もその箱を持っていませんでした。
- 著者
- 上田 早夕里
- 出版日
- 2011-03-15
2008年に刊行された上田早夕里の作品です。全6編で構成された短編集。同じ場所を舞台にした1話完結型の物語です。
やはり見どころは、ボンボン・ショコラやガレットなど数々のスイーツの描写でしょう。とろっとした食感まで伝わってきそうでたまりません。
そしてそれらのスイーツと絡めたミステリーにも注目。お菓子に込められた人々の思いも繊細に描かれています。登場人物の少しほろ苦い人生とともにお楽しみください。
物語の舞台は江戸時代の麹町。治兵衛は、娘のお永、孫のお君の3代で和菓子屋「南星屋」を営んでいます。しかしある時松浦藩から、藩主が注文した時にのみ作られて一般に売ることは禁じられている「お留め菓子」を真似ていると、あらぬ疑いをかけられてしまいます。
実は治兵衛は徳川家斉の私生児で、家斉からたびたび珍しいお菓子が届けられていたため、お留め菓子の味も知っていました。
ただ実際に彼が売っていたのは、材料も作り方もまったく違うもの。やがて騒動も解決し、それ以降松浦藩の若手侍たちは南星屋に足を運ぶようになります。ある若者はお君と恋に落ち、お互いに結婚を考えるまでになりました。
その矢先、何者かの心無い行動により、破断に。お君も治兵衛も悲しみに暮れますが、なんとか奮起していきます。
- 著者
- 西條 奈加
- 出版日
- 2017-06-15
2014年に刊行された西條奈加の作品です。江戸時代の和菓子屋を舞台にさまざまな騒動がくり広げられます。
切なくなるシーンもありますが、どれも心がじんわりとあたたまる物語です。どんなことがあっても諦めず、何度も立ち上がっては前向きに生きる登場人物たちの姿に、勇気づけられるでしょう。
治兵衛はかつて日本全国を旅し、その土地ならではのお菓子を習っては記録をしていました。南星屋で売られている和菓子は治兵衛のその日の気分によって日替わりで、江戸ではなかなか食べることができないものもあるため連日大盛況。彼が作る、素朴ながらも上質な和菓子を感じてみてください。
まあるい形に、ふわふわ、サクサクとした食感。ドーナツは幸せを運んでくれるスイーツです。真ん中にぽっかり空いた穴を、哲学的に考えてしまう人もいるかもしれません。
本書は、手作りのもの、朝食用のものなど、ドーナツをテーマにした物語がまとめられたアンソロジーです。
- 著者
- 出版日
- 2014-10-08
2014年に刊行された作品です。俵万智や北原白秋、村上春樹など著名な作家たちによるドーナツの物語が、41編収録されています。
最初から最後までドーナツ三昧。ほんわかとあたたかい気持ちになる物語から、思考をめぐらせる物語までさまざまです。身近なスイーツだからこそ、語られる内容も親しみをもって読むことができるでしょう。読めばきっと、自分だけのドーナツの思い出を作りたくなるはずです。
パティシエールの亜樹は、恋人と婚約したことをきっかけに務めていた有名パティスリーを辞め、商店街の洋菓子店「プティ・フール」で働き始めることにしました。そこは彼女の祖父が営む店で、昔ながらの皮がやわらかいシュークリームを提供しています。一方で亜樹の作るシュークリームは、皮が硬いイマドキのものでした。
ある日、かつての店の後輩である澄孝と再会。2人でスイーツについて楽しく語りあいます。実は澄孝は、亜樹に対して秘めた思いを抱えていました。さらに、亜樹の友人のミヤは、澄孝へ好意を寄せています。そこに亜樹の婚約者である祐介も巻き込み、4人のほろ苦い物語が綴られていくのです。
- 著者
- 千早 茜
- 出版日
- 2019-02-08
2016年に刊行された千早茜の作品です。スイーツが登場する小説はたくさんありますが、本書は昔ながらの素朴で優しいものと、見た目や食感が楽しい流行にのったものの両方が登場するのが魅力でしょう。
亜樹の作るイマドキのシュークリームよりも、祖父の作る昔からあるシュークリームが売れている理由にもハッとさせられますし、その時々によってどちらも求めてしまう、繊細な心理描写も見どころです。
また、スイーツとともに、4人の若者たちの甘くてほろ苦い人生も描かれています。穏やかに続いていくと思われていた恋と友情は、時に刺激的で、決して甘いだけではありません。
主人公の梅本杏子は、150センチで57キロのぽっちゃり体型。同級生からからかわれ、自分に自信をなくしていました。目標がないまま高校を卒業し、たまたま見つけた求人をきっかけにデパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイトを始めます。
みつ屋では、通年発売されている生菓子から季節限定のものまで、さまざまな和菓子が販売されています。そこで働いている人たちも個性豊かで、彼らと交流を重ねながら、杏子は和菓子の奥深さを学んでいくのでした。
ある日、派手な衣装を身にまとい、泥酔した男性が来店します。彼は次々と商品に文句をつけ、周囲の人たちも怖がっていました。しかし彼の登場をきっかけに、杏子の人生は少しずつ変わっていくのです。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2012-10-11
2010年に刊行された坂木司の作品です。ぽっちゃり体型がコンプレックスの主人公、杏子を通じて、和菓子の歴史や奥深さが描かれています。デパ地下にある和菓子屋が舞台なので、スイーツ以外のお店との交流や、百貨店ならではの設定も楽しめるでしょう。
和菓子は冠婚葬祭につきもので、昔から日本人の人生のターニングポイントとともにありました。また季節との結びつきも強く、そんな特徴をうまくいかしたストーリー展開が魅力です。
また泥酔客をきっかけにくり広げられる、ちょっとしたミステリーにも注目。事件を解決へと導いていく杏子の成長する姿も見どころです。