世の中には、本筋がわからないものや文章の言い回しが独特なものなど、読書好きの人にとっても読むのが難しい小説があります。この記事では、世界的に有名な作品でありながら、意味を理解して読破するのは不可能とまでいわれる小説をご紹介。ぜひチャレンジしてみてください。
主人公は、イングランドのヨークシャーに暮らすトリストラム・シャンディ。これまでの半生を回想しつつ、完璧な自伝を書きあげようと思い立ちました。
しかし彼は、自身が誕生するより前、精子として射精される段階から書き始めるのです。さらに、細部まで書き記したいという異様なまでのこだわりを示し、自伝の内容は脱線に脱線を重ねます。
- 著者
- ロレンス・スターン
- 出版日
- 1969-08-16
イギリスの小説家であり牧師でもあるローレンス・スターンの作品です。本書は1759年から5回に分けて全9巻が発表されましたが、結局未完のままローレンスは亡くなってしまいました。
内容は統一されておらず、トリストラム・シャンディという架空の人物の自伝でありながら、彼の父ウォルターや、叔父のトウビーについても多く語られています。なんと生まれるまでの回想だけで3巻分を費やし、読者を圧倒してくるのです。
唐突に真っ黒に塗り潰されたページが登場することもあれば、読者に想像を描いてほしいと白紙のページも登場。また作者であるローレンスの思考を表現した絵のページなど、かなりの型破りっぷりです。注釈や引用も多く、一貫したストーリーがあるわけでもなく、さらに長編ということで読み切るのが難しいといわれています。
ただその一方で、作者の遊び心や、読者をからかって楽しむ様子も伝わってくるのが魅力です。ぜひ翻弄されてみてください。
物語の舞台は、1800年代前半のロシアです。当時は「ナポレオン戦争」の真っただ中。フランス軍はアウステルリッツの戦いやボロジノの戦いを経て、ヨーロッパを制覇しようと、モスクワに進軍してきました。しかし戦いは長引き、寒さや飢えから退却することになるのです。
その頃ロシアでは、ボルコンスキー公爵家、ベズーホフ伯爵家、ロストフ伯爵家という3つの貴族が没落の危機に陥っていました。本書では、ベズーホフ家のピエールを主人公に、当時のロシアの人々を描いていきます。
- 著者
- トルストイ
- 出版日
ロシアの小説家であり思想家でもあるレフ・トルストイの作品です。1865年から雑誌上で連載されていました。
本書の特徴は、なんといっても登場人物が多いこと。その数559人といわれています。ナポレオン戦争という時代の流れに翻弄されながら、彼らは恋や友情を育んでいきます。物語の舞台があちこちに飛び、それぞれのストーリーが紡がれる群像小説のため、その世界観を理解するのに時間がかかるかもしれません。
当時のフランスとロシアの関係や歴史的背景などを、ロシア人がどのように見ていたのかを知れるうえでも、貴重な作品だといえるでしょう。世界的名著といわれる本作、1度お手に取ってみてはいかがでしょうか。
語り手の「私」は、記憶を失い、自分の名前もわからない状態。精神科の病棟で目を覚まします。隣の部屋からは、モヨ子という女性の鳴き声が響いていますが、「私」にはそれが恐怖でしかありません。
どうやら「私」は複数の事件と関わっているようで、「呉一郎」という男が引き起こした殺人事件の謎を解くのに、「私」の記憶がカギになっているそうです。
医師の若林は「私」の記憶を回復させようと、さまざまなものを見せてきます。
- 著者
- 夢野 久作
- 出版日
1935年に刊行された夢野久作の作品です。10年以上の歳月をかけて執筆され、その作風から「日本三大奇書」のひとつに数えられています。
若林が「私」に見せたもののなかには、とある精神病患者が書いた「ドグラ・マグラ」という手記がありました。そこには本書の内容や結末が記されていて、メタフィクションの手法がとられています。ちなみに「ドグラ・マグラ」とは、「キリシタンの使う幻魔術」という意味で、長崎県の方言として使われていたそうです。
時計の音で目覚め、時計の音で眠りにつくことをくり返す「私」の行動に、しだいに物語が進んでいるのかさえもわからなくなります。読めば読むほど混乱し、1度読んだだけでは到底理解できない作品になっているのです。
本書の舞台は、アイルランドの首都ダブリンの郊外にある居酒屋。店の主人であるイアウィッカー、妻のアナ、そして3人の子どもたちが暮らしています。しかし作中で彼らは省略されたアルファベットで表記されるのです。イアウィッカーの略称である「HCE」は、時には人間以外のものを表す時にも用いられ、混乱を招くでしょう。
タイトルにもなっているフィネガンという人物は、ある日屋根から落ちて亡くなるのですが、通夜の日に生き返りました。物語は、歴史や神話、そして現実を多重構造的に織り交ぜながら、フィネガンの一生を記していきます。
- 著者
- ジェイムズ・ジョイス
- 出版日
- 2004-01-07
アイルランドの小説家、ジェイムズ・ジョイスの作品です。1924年から雑誌で連載され、1939年に単行本が刊行。しかしその内容の難解さと「ジョイス語」と呼ばれる作者独自の表現が多数用いられているため、1969年まで日本語には翻訳されませんでした。
タイトルにある「ウェイク」とは、ゲール語で「通夜」、英語で「覚醒」を意味しています。さらに「フィネガン」は特定の個人を指しているわけではなく、「複数人のフィネガン」「全人類」を表していると考えられていることから、全人類の生涯を綴った壮大な物語だといわれているのです。
作者の膨大な知識と、従来の文法を覆す表現が多用され、読むのはかなり難しい作品。玉砕覚悟で読んでみてください。
主人公の唯野仁は、早治大学の文学部で教授をしています。1度話を始めるとなかなか止まらないほどの饒舌でしたが、彼のおこなう文芸批評論の講義は、学生たちに人気です。
そんな唯野は、別名義で純文学の小説を執筆しています。世間に知られることを恐れていましたが、彼の作品が文学賞を受賞してしまい、大学中にばれてしまうことに。そして盛大な罵倒を受けるのです。
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
- 2000-01-14
1990年に刊行された筒井康隆の作品です。全9章で、それぞれ前半が唯野の日常生活、後半が各章のタイトルに書かれている「現象学」や「構造主義」などの理論を彼が講義するという構成になっています。この講義内容が非常に難しいのです。
しかし読んでいくと、それらの文学批評論を作者である筒井がよく思っていないことがわかるでしょう。物語に書くことで、いわば批評家の批評をしているのです。
また、作家としての正体を知られてバッシングを受ける唯野を描くことで、大学内の醜悪な内部構造を批判。大学、文学という2つの権力に立ち向かう筒井の姿勢が面白い作品です。
猛暑が続いた夏も、もうじき終わりを迎えようとしていた頃。三輪与志という青年は、病院の塔につけられた時計を眺めていました。その時計は蒸気で動くもので、永久的に活動を続けることができるそうです。
与志は病院に、高校時代の友人である矢場徹吾を訪ねに来ていました。彼はある事件を起こして精神科に入院をしていたのです。
その後、与志のもとに首猛夫という人物が現れます。彼は革命家を自称し、与志の兄である高志が事件について詳しく知っていると匂わせてきました。
- 著者
- 埴谷 雄高
- 出版日
- 2003-02-10
小説家であり思想評論家でもある埴谷雄高の作品です。1946年から1949年まで雑誌上で連載されましたが、作者が結核になったため中断。1975年になって続編の執筆が再開されました。
「思弁的小説」といわれていて、作中では共産主義にもとづいた思想を中心に、登場人物たちの間でさまざまな議論が交わされていきます。
議題はキリストや釈迦、さらには「虚体」や「虚在」という観念的な存在にも言及。その難解さから、世界観自体をイメージしづらい作品になっています。