ディストピア小説おすすめ5選!想像すればするほど怖くなる本

更新:2019.5.30 作成:2019.5.30

ユートピアの対義語として語られる「ディストピア」。平和を掲げた理想的な社会のように見えつつ、実は格差が激しくて生活のすべてが管理されている社会です。近未来を舞台にしたSF作品で描かれることが多いのが特徴。この記事では、ディストピア小説のなかから特におすすめの作品を紹介していきます。

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ディストピア小説とは

 

理想郷を意味するユートピアの対義語「ディストピア」。日本語では「暗黒郷」「絶望郷」などと訳されます。

表向きには平等で秩序があり、紛争もないため、ユートピアと似通った平和な社会に見えます。しかしその実態は、徹底した管理体制によって自由や尊厳を奪われているのです。

常に誰かに監視され、行動が制限されています。激しい格差があり、人間扱いされない階級の人たちは表に出ることもできません。反抗する者には組織が制裁を加え、社会から排除される仕組みです。

ディストピア小説とは、このような暗黒郷を題材に描かれた作品のこと。架空の世界を舞台にしたSF小説で多くみられます。またディストピア小説が増えた背景には、ソ連の社会主義やナチスの全体主義が明るみになったことが関係しているといわれています。

巨大ネットワークが支配するディストピア小説『ニューロマンサー』

 

物語の舞台は近未来。人口頭脳を用いたサイバネティクス技術と巨大な電脳ネットワークが地球を覆い、「ザイバツ」や「ヤクザ」と呼ばれる巨大組織が経済を牛耳っています。

主人公のケイスは、電脳空間「マトリックス」に入り込み企業情報を盗み出すプロハッカーとして活躍していました。しかし契約違反をしたために脳神経を焼かれ、ハッキング技術を失っています。

ある日彼のもとに、モリイという女性が現れました。彼女は、「マトリックス」へ入り込む能力を与える代償として、「マトリックス」のなかでももっとも危険とされているコンピューター複合体への潜入を依頼してきます。

ドラッグ漬けの堕落した生活を送っていたケイスは、この提案を受け、陰謀と暴力が渦巻く「マトリックス」の世界に再び舞い戻ることを決意するのです。

著者
出版日

 

1984年に刊行された、アメリカの小説家ウィリアム・ギブスンの作品です。『ニューロマンサー』とは、脳神経の「ニューロン」と、死霊使い「ネクロマンサー」を掛けあわせた造語だそう。また、人間の脳や意識と、コンピューターやネットワークが過剰に融合した世界を描いた「サイバーパンク」というジャンルを開拓した作品としても知られています。

本作では、「ザイバツ」「ヤクザ」と称される企業が中心になって、巨大なネットワークで地球を支配しています。人間の人格や記憶はデータ化され、肉体が滅んだ後もデータとして存在することが可能です。その一方で、システムを利用して抹消することもできるのが特徴。人の命をデータとして扱うことへの恐怖が描かれたディストピア小説です。

ディストピア小説の代表ともいえる作品『すばらしい新世界』

 

時は西暦2049年。人間の受精卵は瓶の中で製造され、階級や体格を決定づけられて誕生します。病気にかかることはなく、また階級ごとに内容の異なる睡眠時教育がおこなわれるため、皆はそれぞれの生活に満足したまま死んでいくのです。

最上層階級として生まれたバーナードは、階級の存在しない蛮人保護地区へ旅行へ行きました。そこでジョンという青年に出会います。バーナードは、ジョンが受精卵孵化センターの所長の息子だと知り、彼の母親のリンダも一緒に連れて帰ることにしました。

しかし、蛮人保護地区で育ち、シェイクスピアの古典を愛読していたジョンにとっては、この新世界は「愚者の楽園」にしか見えません。

著者
オルダス ハクスリー
出版日
2013-06-12

 

1932年に刊行された、イギリスの小説家オルダス・ハクスリーの作品です。タイトルの『すばらしい新世界』は、シェイクスピアの戯曲「テンペスト」からの引用だそう。

本作では、長年続いた戦争の終結をきっかけに、世界から暴力をなくすため作られたディストピア社会が描かれています。階級が上の者はひとつの受精卵からひとり生まれますが、階級が下の者はひとつの受精卵から最大で96人もつくることができ、瓶の中で培養、製造され、階級ごとに指定された知能や容姿を与えられているのです。蛮人保護地区から、効率を重視した新世界にやってきたジョンは、人間らしさとは何かを考えます。

どちらの世界がよいのか、一概には結論を出せないのがポイントでしょう。「不幸になる権利を要求している」という言葉が印象的です。

運命が決められた子どもたち『わたしを離さないで』

 

物語の舞台は、1990年代末のイギリスです。介護の仕事をしているキャシーが、自らの過去を振り返ります。

彼女は、「ヘールシャム」という全寮制の学校に通っていました。外から隔絶された場所に建ち、子どもたちは先生の管理のもと、工作や詩などの創作活動を中心とした生活を送ります。

当時のキャシーは、「わたしを離さないで」という曲が入ったカセットテープが大好きでした。ある日、この曲を聴きながらダンスをしているところを、たびたび施設を訪れるマダムに見られてしまいます。すると、普段は冷たい表情をしている彼女が泣いているのです。

キャシーがヘールシャルムを卒業する年、実はこの学校の生徒には「ある役目」があることを知らされます。そしてマダムが泣いていた理由と、ヘールシャルムの真実を知ることになるのです。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

2008年08月22日
カズオ・イシグロ
早川書房

 

2005年に刊行された、日系イギリス人の小説家カズオ・イシグロの作品です。作中に登場し、タイトルにもなっている「わたしを離さないで」は実在する曲。キャシーは当初「子を授かった母の歌」だと認識していましたが、読み進めるうちに違った解釈が得られるでしょう。

本作に登場するヘールシャムは、臓器提供のために作られたクローン人間が通う学校。健康診断が毎週おこなわれ、子どもたちは将来に夢や希望を抱かないよう育てられていました。「役目」を終えると死ぬ運命にある彼女を見て、マダムは思わず涙したのです。

クローン人間であるはずのキャシーとその友人は、自分たちにまつわる秘密を少しずつ探っていきます。そこに本当に愛しあう人がいれば臓器提供の猶予がもらえるという噂や、能力を強化したクローンを作る研究などが絡みあい、物語に深みを与えています。

荒廃したディストピアをひたすら歩く小説『ザ・ロード』

 

原因不明の「災い」に見舞われ、ほとんどの動植物が絶滅した世界。生き残った人間はわずかな食料を命がけで奪い、「人食い」にはしる人もいました。

そんななか、ある父親と息子は、灰色の荒野をひたすら歩いています。道中で餓死寸前の人間や犬を見つけても、助けられるほどの余裕はありません。彼らは何度も危機に直面しながら、道徳と信仰を胸に、光を求めて歩き続けるのです……。

著者
コーマック・マッカーシー
出版日
2010-05-30

 

2008年に刊行された、アメリカの小説家コーマック・マッカーシーの作品です。

描かれいるのはまさに「終末」。過去とも未来とも知れない灰色の荒野を、名もなき父親と息子が歩き続けます。2人が交わす会話が何よりの見どころでしょう。息子は「災い」の後に生まれたので、この灰色の世界しか知りません。そんななか父親は、息子に何を教えてあげられるのでしょうか。

やがて海にたどり着きますが、そこで父親の命が力尽きます。息子は何を思い、彼の運命はどこへ向かうのか。ずっしりと心に響く読後感を得られる作品です。

ヘイトが増幅されたディストピア小説『R帝国』

 

物語の舞台は、架空の島国「R帝国」。民主主義をうたっているものの、実際には野党が飾り同然の独裁国家です。

国民の大半は、人工知能を搭載した「HP」という端末を所持していて、HPの情報は絶対権力の「党」が統制しています。「党」への批判的な意見は検閲装置で検挙され、処刑の対象となりました。国民は政府を妄信し、HPで自身の幸せをアピールするだけの人間へと成り下がっています。

そんなある日、R帝国は隣国と戦争を始めました。会社員の矢崎は、戦争の意義が曖昧なことや、謎の組織の存在を怪しみ、政府に対して無謀な戦いを挑むのです。

著者
中村 文則
出版日
2017-08-18

 

2017年に刊行された中村文則の作品です。絶対権力の「党」が独裁しているR帝国に暮らす人々は、HPで自分が誰よりも幸せであるとアピールをしながら生きています。

「人々が欲しいのは、真実ではなく半径5メートルの幸せなのだ」(『R帝国』より引用)

しかし幸福を誇示する裏では、他者に対する憎悪や妬み、差別などのヘイトが溜まり、当たり前のように核武装や死刑制度を受け入れる社会も形成されていくのです。国が突然戦争を始めようと、誰も興味をもちません。

未来の日本を彷彿とさせるかのような内容に、背筋がピリつくディストピア小説です。