ファンタジーやSFは、現実とは大きく異なる舞台に胸がときめくもの。その中でも、丁寧で美麗な作画と独特の世界観で注目を集め、2019年にアニメがweb放送された『Levius (レビウス)』。 この記事では、「芸術的」とも評される本作の3つの魅力をご紹介します。
『Levius (レビウス)』は、中田春彌の漫画作品。小学館「月刊IKKI」にて2013年から連載されていましたが、雑誌の休刊に伴い2014年11月号にて終了。集英社「ウルトラジャンプ」に移籍し、『Levius/est(レビウス エスト)』と改題し、2015年5月号より連載が開始されました。
舞台はヨーロッパ風の街並みが続く、蒸気と機械が支配する架空の近未来世界。新生暦19世紀戦後の帝都では、人の身体と機械を融合させて戦う格闘技「機械拳闘」が流行していました。
主人公のレビウスは、戦争で父を失い、意識の戻らない母をもつ闘士の青年。伯父のザックをトレーナーに、競技に打ち込み、頭角を現していました。
- 著者
- 中田 春彌
- 出版日
- 2019-04-19
機械拳闘は、相手を先頭不能にしたら勝ちというシンプルな競技。試合後の生存率の低さから「最後の檻」と呼ばれていますが、競技会場であるコロシアムには多くの人がつめかけます。
勝ち続けていたレビウスは、ある日「Grade-1」という頂上と称される大会に出場するチャンスを得ます。そのためには同じ階級の選手・ヒューゴとの試合に勝たなければなりませんが、彼はレビウス戦う前の試合でアクシデントに見舞われるのでした。
本作を手に取った時、多くの読者は違和感を抱くでしょう。通常、日本の漫画は右綴じが多いですが、本作は左綴じ。セリフも横書きとなっており、アメコミやバンド・デシネ(フランス、ベルギーなどの地方を中心とした漫画)のような雰囲気を味わうことができます。
海外の漫画ファンを意識したという本作ですが、2021年1月よりテレビアニメ化が決定しています。
詳しくはアニメシリーズ 『Levius レビウス』をご覧ください。
海外の作品のように感じられますが、作者の中田春彌(なかたはるひさ)は純日本人。2010年『Maurecaの樹』で漫画家デビューをしました。小学館「月刊IKKI」に投稿したのがデビューのきっかけで、本作も翻訳時に読みやすいようにと、横書きで左開きとの指定に下で書き始めたのだとか。
高い画力はアシスタント時代に培われており、さまざまな漫画家やアシスタントのもとで、技術を吸収しています。
- 著者
- 中田 春彌
- 出版日
- 2015-12-18
漫画以外にも、朝日新聞に連載された沢木耕太郎の小説『春に散る』や、多崎礼の小説『血と霧』のカバーなど、イラストも数多く担当。2019年4月から放送されているテレビアニメ「Fairy gone フェアリーゴーン」では、キャラクター原案を担当しています。
本作のタイトルは主人公の名前。特に意味のある言葉というわけでは内容です。連載再開にあたり「エスト」が付けられましたが、フランス語で「~がいる」という意味。英語の「is」と同じような用法のようです。「est」2巻ではそのタイトルに秘められた意味も明かされており、物語に深みが生まれています。
本作は格闘技がテーマ。アクションシーンが数多く登場し、筋肉の動き、機械のきしみすら感じさせるような圧倒的な画力で読者を引き込み、登場人物たちの一瞬の輝きに魅せられます。
芸術的な雰囲気から、どこか退廃的な物語が綴られるのかと思いきや、物語はかなり王道。何かの競技をテーマにした作品の場合、主人公たちは頂点を目指して戦うことが多いですが、レビウスも機械拳闘の頂点を目指しています。さまざまな敵と出会い、切磋琢磨して成長していく様子に王道の面白さが感じられます。
その戦いをさらにヒートアップさせるのが、機械拳闘という競技のシビアさ。死に直結するような事件や戦いも少なくありません。
登場する機械拳闘士たちは、自身の考えをしっかりと持っており、それゆえに譲れない部分があります。まさしく、死と隣り合わせのこぶしの殴り合い。互いの真剣さが、作品全体に静かな熱を生み出しています。
舞台は近代のヨーロッパ風の世界ですが、大産業時代が起こった影響で、高度な機械化が進んでいる状態です。蒸気と機械が街を支配しており、空には分厚い雲のごとき蒸気が蔓延している状態です。独特の世界観で、少し作品に触れただけで、引き込まれる方も多いでしょう。
そんないわゆるスチームパンクは、SFジャンルのひとつ。蒸気機関が広く使われている世界を舞台にしており、機械というテクノロジーが生活に根付いていながらもレトロな趣が感じられます。
本作も街並みは古びていたり、競技会場がコロシアム的であったりと、随所にレトロさを感じられる世界観。
逆にテクノロジーを感じさせるのは、機械拳闘士たちの身体でしょう。
レビウスは右腕のみ機械化されていますが、拳闘士たちが機械化する部分は制限されていません。どの部分を強化するか、というところにも個性が現れ、キャラクターのイメージをより個性的にしています。
本作最大の特徴といえば、やはり圧倒的な画力。細かい描きこみには驚かされるでしょう。しかし書き込みの量にも関わらず線が洗礼されており、無駄な部分は一切感じられません。
そのなかで特筆すべき点は、静と動が巧みに表現されているという点。映像のスローモーションのように、一つの動きを切り取る描写が多く、激しく動いている場面の中に、静かだと感じられる場面があるでしょう。静と動が明確だからこそ、よりひとつひとつのシーンが心に残ります。
本作の魅力である、一枚絵のように美しいコマ。中田春彌のTwitterでは製作途中の原画が公開されることもありますが、下書き途中でも完成度が高く、驚かされるので気になった方はぜひそちらもご覧ください。
本作は、主人公のレビウスが機械拳闘士として協議に打ち込む姿と、ライバルとなる機械拳闘士たち、周囲の人間との思惑が渦巻く人間ドラマが展開されています。レビウスは機械拳闘でも大きな大会である「Grade-1」への挑戦権を得ました。「est」の序盤では、今までの戦いをダイジェスト的に紹介し、頂点を極めた姿を描きました。
しかし、レビウスは戦いの中で激しいダメージを追い、生死の境をさまようことに。1年後目覚めると、そこにはレビウスの妻だと名乗るナタリアの姿がありました。
1年の間に上京も変化し、さまざまな思惑が渦巻く中、最高峰の大会「サザンスラム」に出場することになったレビウス。ナタリアも予選を勝ち抜き、ついに本戦の火蓋が切って落とされました。
- 著者
- 中田 春彌
- 出版日
- 2018-04-19
5巻ではナタリアの戦いがメインに描かれています。対戦相手は、「Grade-1」に登場した美少女機械拳闘士A.J.ラングドンの弟、最凶兵器と名高いバルテュス。
死闘になるだろうと誰でも予想ができる展開ですが、物語は意外な方向に動いていきます。A.Jの話はもちろんのこと、ナタリアの過去や戦う理由も見どころ。相手にすらならないであろうという大方の予想を裏切り、気持ちで格上の相手にぶつかって奮戦するナタリアの姿に、熱いものがこみあげてきます。
高い画力で描かれる王道格闘少年漫画である本作。シリアスな場面ばかりかと思いきやギャグシーンも満載であり、ナタリアとのラブコメ風な描写もあるなど、楽しめる要素は満載です。
とはいえ、やはり最大の見どころは各キャラクターの熱い思いが伝わってくる格闘シーン。残酷と感じる描写はないので、女性にもおすすめです。