日本の少女漫画界を代表する漫画家・大和和紀の漫画『ベビーシッター・ギン!』。時代ものの多い大和和紀の作品の中で、現代を舞台にした数少ない作品です。子育てに悩む家族を救うという、メリー・ポピンズのようなベビーシッターであるギンを描いた本作は、2019年にはテレビドラマ化も決定しました。今回は、そんな『ベビーシッター・ギン!』のあらすじと魅力をご紹介します。ネタバレも含まれますので、未読の方はご注意ください。
メリー・ポピンズのような出で立ちをしたベビーシッターが、育児に悩む様々な家庭にやってきて、子供の世話をとおして家族を幸せにしていくというストーリー。
主人公の下落合ギンは、パッと見はごつい女性。しかし実は女装をした男性で、登場シーンではよく「こんにちは赤ちゃん」を歌っています。
服装だけでなく、言動もインパクトの強いギンを中心に、様々な家庭の心温まるエピソードはもちろん、子供のことを「天使ちゃん」と呼び溺愛するギンが、男ゆえの悩みを抱えている模様など、様々な人の悩みや家族に対する気持ちが描かれていきます。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 1998-12-07
『ベビーシッター・ギン!』は、1997年から2007年にかけて連載され、全9巻(文庫版は全4巻)で完結した作品です
そんな本作は、2019年6月30日よりNHKのBSプレミアムでテレビドラマが放送されます。キャストは、ギンを演じるのが大野拓朗で、ギンの妹の美々子役をゆりやんレトリィバァが務めます。
原作では、ギンの女装が暴かれることはほとんどありませんが、実写版ではどうなるのでしょうか……その辺りに注目してみるのもおもしろいかもしれません。
『ベビーシッター・ギン!』の作者・大和和紀(やまとわき)は、『はいからさんが通る』や『あさきゆめみし』などを代表作に持つ漫画家です。特に『はいからさんが通る』は、アニメや映画化など幅広いメディア展開がされているので、タイトルは聞いたことがある! という方も多いのではないでしょうか。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 2016-12-13
『はいからさんが通る』や『あさきゆめみし』のように、時代ものの作品を多く発表しています。そんな中、『ベビーシッター・ギン!』は現代を舞台にしています。どちらとも共通しているのは、繊細で心温まるエピソードがある点です。
平安時代や外国を舞台にした作品では、その設定の壮大さにも目を奪われますが、本作ではそういった部分がないためより心温まるヒューマンドラマに目が行くと言ってもよいでしょう。
1960年代から今に至るまで少女漫画界をけん引してきた存在らしく、絵柄は乙女チックで繊細な雰囲気。数多くある作品のどれを読んでも、最後はきっと心が温かくなれることは間違いありません。
黒の帽子に黒のロングスカートとジャケット、蝶ネクタイ。サングラスをかけ、手には傘とバッグを持っているその出で立ちは、さながらメリーポピンズ。
しかし、赤ちゃんのためと思えば、母親にも父親にも徹底的な教育を施す様は、可愛い魔法使いというよりも、厳しい家庭教師のサリバン先生のようなのです。
母乳の出が悪いと母親が言えば、その食生活を見直させ、お菓子もカップラーメンも容赦なく捨てます。育児に非協力的な父親には、風呂場に突入して赤ちゃんのお風呂の入れ方を熱血指導。
最初のうちは、やりすぎでは? と思ってしまうことも多々あり、実際、作中でもその厳しさにシッターを断ろうとしたり、不信に思われることもあります。しかし幸せそうに眠り、楽しそうに笑っている赤ちゃんを見ると、ギンのやっていることは全て正しいのだと思わせてくれます。
現実だったらいろいろと問題にもなりそうなこともありそうなのに、本当にこんな人がいてくれたら……! と思わせてくれるのは、強烈でありながらも魅力的なキャラクター性があるからなのでしょう。
ギンにかかれば泣いている子はすぐに泣き止み、夜泣きする子もぐっすり眠ってしまうのですが、そこで救われているのは、赤ちゃんだけではなく母親や父親なのです。
赤ちゃんの世話に追われヘトヘトになっているお母さんや、子供との接し方に悩むお父さんなどに笑顔が戻っていく様子は、読んでいてホッとする方も多いのではないでしょうか。
もっとも、赤ちゃんのことを「天使ちゃん」と呼んで溺愛しているギンにとっては、全ては赤ちゃんのための行動。しかし赤ちゃんが笑顔になることは、同時にお母さんやお父さんを笑顔にすることなのでしょう。それは逆も然りで、お母さんやお父さんが笑顔になることは、赤ちゃんの幸せにもつながるのです。
そんなことを感じさせてくれるのは、まさに本作の魅力といえるはずです。
本作には様々な家族が登場します。ギンはベビーシッターという肩書きですが、赤ちゃんだけではなく、時には小学生の子供の世話をすることもあり、登場する家族の形はさまざまです。
すでにご紹介した通り、ギンは赤ちゃんの世話をすると同時に、お母さんやお父さんに寄り添い、時には徹底的なスパルタ指導で幸せにしていきます。この幸せというのは、言い方を変えると、見失っていたものをあらためて見つけさせてあげるといった感じなのです。
そういったエピソードが多くあります。たとえば、10代で出産した若いお母さんの話だったり、ヤクザの家の子供の話だったり、しっかり者だけど訳アリな小学生の話だったり……いずれもどこかで何かを見失っているキャラクターが、最後はそれを見つけ直し、あらためて前へ進んでいくといったストーリーになっています。
他にも、赤ちゃんが大好きなのに母親には絶対になれないギンの話も描かれ、様々な視点から家族の形を読むことができるのも、本作の魅力といえるでしょう。
最終巻である9巻には、4つのエピソードが収録されています。なかでも注目したいのは、幼い頃のギンと、その時に出会ったベビーシッター・メアリーを描いた「あのころメアリーと」という話です。
メアリーとは、ギンにとって最高のベビシッターであり、ギンがベビーシッターを志したきっかけでもある存在でした。幼い頃に母親を亡くしたギンは、男の子だからという理由で泣くことができず、母親がいないことを認められないまま我慢を続けた結果、母親の幻を作り上げていました。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 2007-03-13
そんなギンの前に現れたのが、メアリー。彼女は、ギンの本心を見抜き、母親の死を彼に認めさせます。そのことを最初は許せなかったギンですが、紆余曲折を経て、メアリーに心を開くようになりました。そしてこの出会いこそが、ギンが最高のベビシッターになったきっかけだったのです。
また、学生時代の先輩である女性・虹子と、その息子の銀四朗との交流を描く「パパと呼ばないで」では、ギンが、銀四朗は自分の子供では……? と葛藤する様子が描かれます。
メアリーの話を読んでからこのエピソードの結末を読むと、いろいろな気持ちが混じり合い、より感動することができるでしょう。
いかがでしたか? メリー・ポピンズのような格好のギンは、魔法は使いませんが、魔法のような方法で様々な家族の悩みを解決していきます。子供のことが大好きなギンが子供の笑顔のために頑張る姿はもちろん、そんなギンのおかげで困難を乗り越えていくたくさんの家族の姿にも感動できる本作。子育てに悩むお母さんやお父さんはもちろん、幅広い世代の方に読んで頂きたい作品です。