「いじめ」と聞くと、胸を痛める人も多いでしょう。しかし本作は、いじめっ子といじめられっ子をメインにしていながらも、どことなく心温まる要素が含められている作品です。本作の魅力をご紹介していきます。こちらの記事には、ネタバレも含まれますのでご注意ください。 サクッと読めるショートストーリーなので、スキマ時間にも読みやすい作品です。
誰かの記憶に残るような顔立ちでもなく、制服をきっちり着ている、クラスでも目立たない男子生徒・田村は、同じクラスで不良の木崎にいじめを受けていました。
パシリに使われたり、物を盗まれたり、ノートに落書きされたり……一見聞いただけでは、立派ないじめ行為。しかし、田村の名前を正確に覚えているのは木崎だけだったり、いつもどこかに彼の微妙な優しさが込められているんです。
いじめられているはずなのに、不器用な優しさに胸が暖かくなる友情コメディ。
いじめをテーマにした作品は珍しくありませんが、ハッピーエンドだとしても内容はどこか暗く、胸が痛む作品が多いのではないでしょうか。 しかし本作は、冒頭から田村がいじめられているにも関わらず、どこか木崎の優しさを感じずにはいられません!
- 著者
- もすこ
- 出版日
- 2019-01-09
作者・もすこについての詳細は明らかになっていませんが、2018年に発売したエッセイ本『うっかり体育大生-マンガ家ですが、ニチジョン通っていました-』では、日本女子体育大学に通いながら、漫画家を志望していたことが綴られています。
- 著者
- もすこ
- 出版日
- 2018-02-22
白文鳥とごま塩文鳥、ボタンインコと暮らしながら漫画活動をしており、2015年に月刊ガンガンJOKERで『久住くん、空気読めてますか?』の連載がスタート。本作とは異なる恋愛コメディ漫画ですが、本作の雰囲気と似ていて、ほっこりする作品です。
作者の作品は、コメディを中心に描かれており、全体的に線の少ないシンプルな人物絵に、柔らかい雰囲気の作画が特徴となっています。 もすこの作品は、作品の柔らかい雰囲気の中にコメディ要素が相まって、読者を夢中にさせます。
語り部でもある田村は、クラスメイトには村田という名前だと思われています。 クラスメイトは、木崎にいじめられていることを心配して声を掛けてくれますが、誰も正しく田村の名前を呼びません。
地味で目立たず、特にこれといった特徴があるわけでもなく、小さい頃から無理な頼まれごとも引き受け、失敗を笑われても、へらへら笑顔で誤魔化してきた田村。 頼めば何でも聞いてくれそうで、何かあっても全て笑顔で誤魔化している田村は、本作のようなコメディ漫画でなければ、いじめの標的になっていたと思えるような人物です。
しかし木崎は、そんな田村の名前をしっかりと呼んでくれます。いじめの中に、どこか優しさを感じてしまった田村は、今までクラスで独りぼっちだった学校生活に、充足感が生まれました。 木崎を怖がる反面、どこか嬉しさを感じているような田村の可愛らしい姿に、心がほっこりするでしょう。
木崎は強面な表情と、威圧的な態度で、自他ともに認める不良として学校で恐れられています。 しかし田村をいじめている姿は、不良と言われると疑わしい姿ばかり。
誰かをパシリに使う時、いじめであるならば、お金を相手に渡すことは考えにくいでしょう。相手のお金で買い物をさせ金欠にし、お金が無いと言えば殴ったり脅したりするのが漫画や小説に出てくる定番ではないでしょうか。
しかし木崎は、田村に食べ物を買いに行かせはしますが、お金は自分で出します。しかも二度手間にならないよう、少し多めに持たせるのです。
難癖をつけるためのはずの制限時間も、足の遅い田村でも十分戻って来れる時間を計算し、「15分で買ってこい」という姿は、いじめというのか……その優しさに、疑問が生まれます。
イライラすると、田村にどんないじめをしようか考えますが、その表情はどこか楽しげ。 読者の中には、「それは友達と言うのでは?」と思ってしまう方もいるかと思いますが、果たして木崎がそれに気づくのでしょうか……。
他校の不良から田村を守る姿や、いじめの中に優しさが伺える姿にファンが増えること間違いなしです。
本作で行われるいじめは、いじめのはずなのにどこかそうとは思えないものしかありません。
木崎に取られたノートが、落書きされて返ってきて……しかしよく見ると文字を消せるフリスクで書かれています。しかもそれだけではなく、ケアレスミスをわざわざ指摘してくれたりします。
ケアレスミスに気づく木崎の頭の良さも気になるところですが、酷い言葉を書かれるかと思いきや、田村の名前をたくさんノートに書いたり、田村の似顔絵を描いたり……そんな可愛らしい落書きばかり。 木崎が描いた田村の似顔絵はどこか愛嬌があり、田村もなんだかその絵を消すことができません。
ほかにも、授業をさぼって田村と一緒に制服のままプールに飛び込むエピソードも。 田村には、木崎が一緒にプールに入る意味が分かりませんが、はたから見るとただ友達と一緒に授業をさぼって遊んでいるようにしか見えません。
この後、ずぶ濡れの田村を見たクラスメイトは先生に木崎のことを報告した方がよいかと話し合いますが、なぜか木崎もずぶ濡れな姿に謎が生まれていました。
いじめのはずなのに、楽しそうに見えてしまう田村と木崎の様子が魅力的な本作。木崎の不器用な優しさを、覗いてみてはいかがでしょうか。
木崎の呼び出しで夜の学校に呼び出された田村は、バットを持った木崎と一緒に学校に忍び込みます。 バットで窓ガラスを割って入るのかと思いきや、普通にドアを開けて入る木崎。なんのためのバットなのかと考えていたら…。
- 著者
- もすこ
- 出版日
- 2019-05-09
わざわざ学校に忍びこんだ理由は、「お化けが怖いから」というものでした。幽霊の方が怖がりそうな強面の木崎ですが、お化けが怖いという意外な一面が表れます。
その他にも、林間学校に行ったりしますがそこでも木崎のいじめはとまりません。新しいキャラクターが登場したり、田村の両親と木崎が対面する話など、どんどん魅力的になっていく第2巻。
木崎の不器用な優しさと、その優しさを理解している田村。彼らのほっこりする学校生活が描かれていますので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。