『きみは面倒な婚約者』は白泉社の不定期刊ウェブマガジン「Love Jossie」で連載されている兎山もなか・原作、椎野翠・作画の作品です。本作は自身にコンプレックスを持つ社長令嬢の主人公が、イケメン婚約者と主人公よりヒロインらしいライバルとの関係に悩むラブコメとなっています。性表現もある大人の恋愛漫画といえるでしょう。 本作はスマホの無料アプリで読むことも出来るので、気になった方はそちらからもおすすめです。
地味で人より目立つような特徴はないけれど、よく気が付いて愛嬌があり、根は真面目で健気なヒロイン。そんな彼女が完璧な美男子と運命的に出会って、恋に落ち、2人が結ばれるまでに様々なトラブルがあるものの、結局ヒロインと結ばれてハッピーエンド……それが恋愛漫画のセオリーと言えるかもしれません。
本作の主人公、加治屋紫乃(かじやしの)はそんな恋愛漫画の地味ヒロイン……ではなく、社長令嬢でした。営業部のイケメンエース・橘はじめ(たちばなはじめ)とは婚約関係にあります。彼女は橘に好意を抱いているのですが、政略結婚のせいかいまいち深い関係にはなれていません。
そんな時、絵に描いたような健気系ヒロインの花澤優衣(はなざわゆい)が入社してきます。彼女は橘とすぐさま親しい仲になっていき、紫乃にとっては悪夢といえる王道的三角関係が完成します。
果たして紫乃は、恋愛漫画のヒロインのような優衣に橘を奪われることなく、幸せな結末を迎えることが出来るのでしょうか?
きみは面倒な婚約者
2017年10月30日
主要人物が王道恋愛漫画を踏襲しつつ、どこかヘンなのが本作の特徴です。
まず主人公の加治屋紫乃。加治屋フーズの平社員にして、社長令嬢。本作のヒロインではあるものの、恋愛漫画的にはお邪魔虫ポジションに当たるキャラなのが面白いところ。婚約者へは好意を抱いているのに、政略結婚という前提から本心を出せず苦しんでいます。
高飛車かと思いきや、根は天然で、影で苦心する努力家。花澤優衣に婚約者を盗られるのでは、とあたふたするところが可愛いですキャラクターです。
橘はじめは、一筋縄ではいかないキャラです。営業部のエースで、その実力と類いまれなルックスから紫乃の婚約者に抜擢されました。紫乃を含む周囲には伏せていますが、実は加治屋フーズと交流のある菓子メーカーの御曹司。社長令嬢の紫乃とはそんな共通点があります。
紫乃へはクールに対応するのに、優衣には気さくに話かけるので、紫乃も読者も邪推することになるでしょう。敬語で慇懃無礼に紫乃に接するのも半ば計算というSっ気のある人物です。
そして限りなく正ヒロイン的なライバル、花澤優衣。営業部の新入社員で、指導員となった橘に一目惚れしました。見た目も立ち振る舞いも恋愛漫画のヒロイン気質ですが、自覚的に演じていることが後にわかります。
優衣は外見に反して策士の腹黒キャラ。派手目な見た目と違って繊細な紫乃とは正反対で、キャラの関係性と内面があべこべになっているのも本作の魅力です。
優衣は紫乃と橘が婚約していることを知ってからは、略奪愛を狙って虎視眈々と行動しますが……。
本作の会話および展開は表面上、王道恋愛漫画のように進みます。
橘と優衣、正統なヒーローとヒロインらしい2人は、気のおけない上司部下の間柄で軽口を言い合います。入社したばかりの真面目な主人公とそれを優しく見守る憧れの先輩、という風にしか見えません。
一方、本作の本当のヒロインたる紫乃と橘の場合は異なります。橘は優衣に対するのとは打って変わって、紫乃へは敬語で応対するのです。相手は社長令嬢で、橘は婚約者だから仕方なく体裁を取り繕っているように描かれます。
ところが、上記の展開はすべて紫乃の視点で見た場合です。ストーリーは紫乃だけでなく、優衣や橘の目線でも語られます。そうすると印象ががらりと変わるのが面白いのです。たとえば橘がメインの話では紫乃に他人行儀なのにも事情があるからで、さらには本当に体面を繕っているのは親密に思えた優衣の方だったことが明らかになります。
このように、視点が変わるとまったく違う話になるのが本作の魅力。
恋愛漫画にすれ違いは付きもの。
前述のように、本作では紫乃をはじめとしておのおのが内に秘めた思惑が異なり、表面上噛み合っているようでも実際にはズレていることが多々あります。
橘を巡る紫乃と優衣の行動。紫乃は意図せずヒロインのお邪魔虫ムーブをして自爆し、優衣の方は内心ほくそ笑みながらヒロインを演じます。やってることは結構えげつないのですが、この辺りはデフォルメキャラでコミカルに描かれるので、紫乃に同情しつつ笑ってしまいます。
ギャグ漫画スレスレのコメディ描写があるかと思えば、突然男女の夜の営みをはっきり描くエロスが出てくるのも魅力。それこそが紫乃と橘の大人の、男女の関係です。彼が家まで送ってくれた帰り際にキスをする程度だった二人が、やがて……。
性生活では普段と異なるドSっぷりを発揮する橘にご注目ください。
真面目なヒロイン優衣と優しい先輩の橘、そして順調な2人のお邪魔虫となる橘の婚約者たる主人公・紫乃。途中までは王道恋愛漫画をなぞるような三角関係が展開されますが、紫乃と橘が肉体的に結ばれてからは「お約束」から大きく外れていきます。
紫乃と関係を持った橘が、彼女との出会いを回想し始めます。3年前、橘は新入社員だった紫乃と出会い、少しずつ打ち解けていったのでした。お互い本心を明かせる対等な相手として、2人は資料室で密会を重ねてうまく進展していたのですが……。
5話から6話にかけて、これまで曖昧にされていた紫乃と橘の出会いのエピソードが描かれます。彼の視点から語られる心境の変化、2人の淡くてくすぐったい関係が、これまでの話とのギャップも相まって面白いです。
3年前のある日、婚約する前まで二人の関係は順調でした。それがいかにして、体面の整った「婚約者」となっていったかは、ストーリー上でも重要な見所でしょう。
きみは面倒な婚約者
2019年04月01日
資料室でひっそり関係を育んでいた2人は、加治屋フーズ社長の「のっぴきならない事情」によって、突然に婚約者の関係となりました。橘の回想から時間軸は現在に戻ります。
ますます紫乃に惚れ込んでいった橘は、そのタイミングで加治屋社長から結婚の催促を受けました。橘は一世一代のプロポーズを考え、優衣にまで相談するほど悩みます。
そして橘は気取った婚約者を演じてきたことが、紫乃を不安に駆らせていたと気付き、素の自分での告白を決意。ようやく紫乃へプロポーズに挑むのですが……。
そこですんなり行くほど本作は甘くありません。この大盛り上がりの場で、とんでもない波乱が起きてしまうのです。プロポーズへ至る橘の精神的な浮き沈み、そして波乱の元凶となる衝撃の展開が最大のポイントです。
一体何が起こったのか、2人がどうなるのかはぜひ実際にご覧ください!
今回ご紹介した漫画版は気になるところで終わっていますが、原作に相当する同名の小説版は完結済みとなっています。漫画の更新が待ちきれない方は、小説版を読んでみるのもよいかも知れません。