小説『朝が来る』2人の母の優しい物語。4の見所をネタバレ解説!映画化原作

更新:2019.6.20 作成:2019.6.20

不妊治療の末、特別養子縁組によって子どもという光を手にした夫婦。一方、若すぎるがゆえに我が子を手放さざるをえなかった未成年の母。そんな傷ついた彼女には、あまりに壮絶な道のりが待ち構えていました。「私の子を返して」と、突然の電話から始まる2人の母の葛藤と愛の物語。「家族」についてあらためて考えさせられる物語です。 映画化が決定した本作の見所を、結末まで紹介していきます。ネタバレも含まれますので、未読の方はご注意ください。

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小説『朝が来る』のあらすじ紹介!生みの親と、育ての親の物語

神奈川で夫と6歳の息子と暮らす主婦・栗原佐都子。ときにママ友との関係に悩みながらも、満ち足りた日々を送っていました。

そんな栗原家に、突然かかってきた1本の電話。「片倉ひかり」と名乗る電話の主は、「子どもを返してほしい」と衝撃の一言を告げるのでした。

実は、息子の朝斗は特別養子縁組で授かった子であり、片倉ひかりは生みの親の名前。「返せないならお金を用意してほしい」と脅す彼女に、夫婦は直接会うことを決めます。

かつて中学生で出産したひかりは、涙ながらに2人に子どもを託したのでした。その姿を知る夫婦の前に現れた女には、純情そうだった過去の面影がありません。「この女は本当に朝斗の母なのか?」と2人は疑念を抱くのでした。

女の正体、そして栗原家の行方は……?

著者
辻村 深月
出版日
2015-06-15

本作は、朝斗という子どもをめぐる2人の母親と2つの家族の、対照的な人生の物語です。

2016年にはすでにドラマ化され、安田成美と川島海荷が佐都子とひかりを演じ、不妊治療や中学生の妊娠というテーマが話題になりました。2017年には再放送されるなど、指示の高い作品です。

大人のドラマとして反響の大きかった本作ですが、2020年には映画化も決定されました。キャストはまだ発表されていませんが、複雑な役どころを誰が演じるのか、そしてドラマとの違いなどに期待が高まります。

作者・辻村深月とは?

作者・辻村深月は1980年生まれで、2004年に『冷たい校舎の時は止まる』でデビューしています。

2010年に『ツナグ』にて吉川英治文学新人賞、2012年には『鍵のない夢を見る』で直木三十五賞を受賞。2018年本屋大賞に輝いた『かがみの孤城』も大きな話題となりました。

繊細で揺れ動く心情を描く文章に定評があります。不妊治療を諦めた女性と、子供を育てることのできなかった女子中学生の心情を、どのように描くのでしょうか。また、難しいテーマである本作を書ききれたのは、作者の手腕といえるでしょう。

著者
辻村 深月
出版日
2012-08-27

本作を執筆したきっかけは、編集者の言葉だったとのこと。「不妊治療をする夫婦が養子を迎える話はどうか」という提案に「期待されている」と感じたそうです。

血のつながりに関わらず、信頼しあおうとする親子の姿を描きたかったといいます。

一方で、子どもを手放す母親の心情も丁寧に表現されています。「彼女たちの葛藤は報道などでは伝わらず、身勝手だとまで思われてしまうことも。それがもどかしかった」と作者。

物語の後半では、中学生で妊娠・出産した後のひかりの半生が描かれます。胸の詰まる展開と、1つ1つの言葉に作者の思いが垣間見ることができるでしょう。研ぎ澄まされた表現力で書ききった本作は、小説だからこそ伝わるものを感じてほしいと思います。

『朝が来る』見所1:様々な家族の物語。登場人物たちが抱えるものとは?

27歳で清和と結婚した栗原佐都子。充実した生活を送っていましたが、子どもには恵まれませんでした。不妊治療を開始し、告げられたのは夫の「無精子症」。長い治療の道のりが始まります。

一方、真面目な両親に息苦しさを感じつつも「普通の子」だった片倉ひかりは、ありのままの自分を認めてくれない母親との間には溝がありました。

「うちの子に限って交際なんて」と携帯を覗き見る母をよそに、ひかりは同級生のと付き合い、妊娠。発覚時には、すでに堕胎できる時期を過ぎていたのでした。

そのころ、神奈川から岡山まで通院していた佐都子と清和。痛みに耐え、高額な費用と手間をかけても成果が出ないことに苦しんでいました。

「2人で生きよう」と決めた矢先、特別養子縁組を仲介する「ベビーバトン」の存在を知ります。そうして夫婦の元にやってきたのが、ひかりの子・朝斗でした。

朝斗を迎えたことで、「朝が来た」かのごとく輝いていた栗原家の毎日。しかし、そうしている間に片倉家は静かに壊れていきます。

実の親子であるひかりとひかりの母が互いを受け入れられない一方で、血がつながらないからこそ懸命に想いあう佐都子と朝斗。その対比が描かれます。

本作は、様々な家族のあり方に、深く考えさせられます。

『朝が来る』の見所2:2人の母を愛す、朝斗の存在

朝斗の成長につれ、彼の思いも、作品の重要なポイントになっていきます。

物語の冒頭、あるトラブルが。朝斗が通う幼稚園の友達・大空(そら)くんがジャングルジムから落ち、「朝斗に押された」と話したのです。否定する朝斗の話を聞いて、佐都子は息子を信じることを決めます。

「なら大空が嘘をついてるのか」と怒る大空くんのママと険悪になり、佐都子は頭を抱えることに。そんな母を、「ぼくが押したって言ったほうがいい?」と健気に気遣う朝斗。

ここで初めて、朝斗が養子であると読者に明らかになるのですが、佐都子はだからこそ、朝斗を信じなくてはと固く誓うのでした。

トラブルは解決するものの、片倉ひかりを名乗る電話に栗原家は再び揺れ動きます。電話の女は、「朝斗が養子であることを本人や周囲にバラす」と脅し、金を要求しました。

しかし夫婦は、毅然と言い放ちます。朝斗は自分が養子だと知っていること、そしてもう1人の母のことを「広島の母ちゃん」と親しみを込めて呼んでいることを伝えるのでした。朝斗の「母ちゃん」はそんなことをするはずがない、そう女に詰め寄るのでした。

全てを知り、2人の母を愛する朝斗のひたむきさに心を打たれます。

『朝が来る』の見所3:不妊治療中の夫婦と、望まぬ妊娠をした中学生。ベビーバトンが繋いだ縁

中学生で妊娠したひかりは、人目を忍び、広島にある「ベビーバトン」の施設で出産することになります。

そこは望まぬ妊娠をした母親たちが暮らす寮で、彼女も優しく迎えられたのでした。同室のコノミとも打ち解け、お腹の子へ手紙を綴りながら過ごします。

ある日、海を見ながらふと子どもに話しかけたひかりは、すっかり母親になった自分に驚きます。逃げてしまおうか、という思いがよぎりますが、不可能なことは明らかでした。

代わりに、一緒に見たこの景色を覚えていよう……そう決め、子どもに別れを告げます。

不妊治療を断念した栗原夫婦は、ベビーバトンの説明会へ赴きます。初めは抵抗があったものの、団体の代表である浅見の「親のためでなく、親を探す子のため」という言葉で受け入れを決意。

その後、ひかりの出産の連絡を受けた2人は、広島まで駆けつけます。幼い母の姿に驚きつつも、深く頭を下げた夫婦。ひかりは

「ごめんなさい。ありがとうございます。この子をよろしくお願いします」
(『朝が来る』より引用)

とひたすら涙を流すのでした。ひかりと朝斗の別れ、そして2人の母が出会うこの場面は、本当に胸がいっぱいになるシーンです。

『朝が来る』の見所4:ひかりが生き抜いた壮絶な6年間……その後の結末とは【ネタバレ注意】

出産した子を夫婦に託し、自宅に戻ったひかりを待つのは、孤独な日々でした。

全てを無かったことにし、 ひかりを「普通の子」に戻そうとする家族。一度は母になり、大人になってしまったひかりとの亀裂は深まるばかりです。

巧とも別れ、「ここではないどこか」を求めて彼女は家を飛び出します。

向かったのは、広島にあるベビーバトンの寮。働きたいと訴えますが、団体は解散が決まったことを告げ、帰るよう説得するものの、ひかりは首を縦に振りません。

著者
辻村 深月
出版日
2015-06-15

彼女は広島に残り、住み込みの仕事を始めることに。しかしそこで、過酷すぎる毎日を過ごすことになります。

厳しい環境で頑張っても評価されず、やっとできた友人にも裏切られ……。その後は、胸が苦しくなるほど壮絶な展開が待っています。

追い詰められ、栗原家に脅しの電話をかけたひかり。過酷な状況に、全ての逃げ道がなくなった彼女は、雨の中、歩道橋の下を眺めぼんやりと考えるのは、家族と、これまでの人生のこと。

「もうこのまま、終わってもいい」と張り詰めた糸が切れかけたそのとき、彼女の前に現れたのは……。

果たして、ひかりの元にも「朝は来る」のでしょうか?胸を突く結末がそこにあります。

「家族」というもののとらえ方が変わる作品。すべての人に読んでほしいと思います!