イチからわかる『国富論』分業など内容を要約してわかりやすく解説!

更新:2019.7.5 作成:2019.7.5

経済学の原点といわれるアダム・スミスの『国富論』。しかしいざ読もうとしてみると難しく、ボリュームもあるため断念してしまう人が多いのも現実です。この記事では、『国富論』において重要な「分業」や「見えざる手」などの内容をわかりやすく解説。あわせて初心者におすすめの本も紹介するので、チェックしてみてください。

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『国富論』とは。作者のアダム・スミスってどんな人?

 

イギリスの哲学者であり経済学者でもあるアダム・スミスが発表した『国富論』。1776年に刊行されました。名著との呼び声が高く、「近現代における経済学の出発点」や「社会思想史上の古典」と位置づけられています。

原著のタイトルは『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』、日本語に翻訳すると「諸国民の富の性質と諸原因についての一研究」や「諸国民の富の本質と原因に関する研究」など。

日本に初めて伝わったのは、江戸時代のことです。長崎の出島で医師をしていたドイツ人フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの蔵書に含まれていたことがわかっています。初めて日本語に翻訳したのは、明治時代に大蔵省の職員だった石川暎作です。当時は『冨國論』というタイトルで、1882年から雑誌に掲載されました。

作者のアダム・スミスは、1723年生まれ。スコットランド出身です。グラスゴー大学に進学し、スコットランドにおける啓蒙主義の中心的人物だったフランシス・ハッチソンに師事しました。卒業後は大学の教授に就任。哲学者のデイヴィット・ヒュームと出会い、大きな影響を受けたそうです。

1759年、『道徳感情論』を出版。これが評価され、1763年からは第3代バクルー公爵ヘンリー・スコットの家庭教師に抜擢されました。彼のグランドツアーに同行し、フランスやスイスを旅します。この旅先でヴォルテール、フランソワ・ケネー、ジャック・テュルゴーらフランス啓蒙思想の重鎮たちと交流を重ねたそうです。

スコットランドに帰国後、交流によって得た知識や経験をもとに、『国富論』を書きあげました。彼が『国富論』を執筆した18世紀は、「啓蒙の世紀」と呼ばれています。政治の民主化が進み、産業革命が起こる一方で、貧富の差が広がり、戦争による財政難や社会問題が起こるなど光と闇が交錯する時代でした。

 

『国富論』第1編の内容をわかりやすく要約して解説!「分業」とは

 

全5編で構成されている『国富論』。第1編の見出しは「労働の生産力における改善の原因と、その生産物が国民のさまざまな階級のあいだに自然に分配される秩序について」です。長くて難しそうですが、簡単に要約すると、「分業論」と呼ばれる考え方について書いています。

アダム・スミスは、ピン工場を例にして解説しました。鉄を針金状に伸ばし、切って、穴をあけて尖らせる……これをひとりの職人が担当すると、相当な時間がかかります。しかし複数の労働者で作業を分担すれば、効率よく製造がすすみ、生産性を高められるのです。

「なぜ分業制だと生産性があがるのか?」という問いに対し、アダム・スミスは次の3つの理由を挙げています。

・個々の作業に専念すれば労働者の熟練度が向上する
・別作業に移行する際の時間を節約できる
・各作業を容易にするための機械を発明しやすくなる

製造工程の細分化で、ムダを省くことができるという理論です。

さらには、このような分業体制が経済全体に広がることで、社会の生産性が向上し、普遍的な富が民衆にまで浸透するとしました。最終的には、ひとりひとりが自分の仕事に関する専門家となることで、多様な知識が蓄積され、豊かで文明的な社会になると主張したのです。

そもそもアダム・スミスは、人間と動物との違いは「交易する性向」にあると考えていました。人間は、「余った富」と「足りない富」を他人と交換することで、欲求を満たそうとする生き物。人間だけに認められる「交易する性質」こそが、分業論の土台となっているのです。

またアダム・スミスは、「分業体制が究極まで推し進められていき、人は自分が必要とするものの圧倒的大部分を他人の労働に依存しなければならなくなる」と予言しました。現代社会を見てみると、まさにこの予言が的中しているといえるでしょう。

 

『国富論』第4編の内容をわかりやすく要約して解説!「見えざる手」とは

 

有名な「見えざる手」について書かれている第4編。「経済学の諸体系について」という見出しがつけられていて、「経済思想史・経済学史・経済政策論」を取り扱い、経済の流れについて語っています。

当時のヨーロッパでは「金銀などの貨幣こそが富であり、富こそ国力である」と考える「重商主義」が主流でした。重商主義において大切なのは、自国に富が蓄積されること。そのため各国は、金銀が増える輸出は奨励する一方で、金銀が減少する要因となる輸入については制限する経済政策を採っていました。

しかしアダム・スミスは、この政策を批判します。経済とは、各個人や企業が自由に自己の利益を追求し、まるで「見えざる手」に導かれるように適正な富の循環を生み出すものだと主張したのです。政府が経済活動に介入するのではなく、自由な貿易を容認したほうが合理的であるとしました。

ちなみに、よく「神の見えざる手」ともいわれますが、『国富論』のなかでは「神の」という文言はついていません。またアダム・スミス自身についても、「自由放任主義者」だったといわれることがありますが、実際は「自由貿易論者」です。

実際、政府による貿易介入についても、国内産業保護のための関税や軍需産業保護のための輸出奨励金については認め、輸入制限を解除する際も慎重におこなうべきだと主張しています。

 

『国富論』第5編の内容をわかりやすく要約して解説!スミスが目指した国家の在り方とは

 

第5編は「主権者または国家の収入について」。国家の役割や在り方について述べたもので、前半で経費、後半で収入について論じています。

アダム・スミスは国家の役割として、「国防」「司法」「公共事業」の3つを挙げました。

国防は、文明国を野蛮国から守るために必要な国家第1の義務だとし、常備軍の設置を説いています。

また司法については、国家が担当すべきだとしつつも、権力分立の考えにもとづいて行政とは分けるべきだとしました。

公共事業については、インフラ整備に加えて教育も国家の果たすべき義務だとしています。

そしてアダム・スミスは、上記3つに「主権者の威厳を保つための費用」を加えたものを国家の経費とし、その財源として国有地など国家独自の収入源をもつよりも、租税を重視すべきだと唱えました。

 

まずは重要な部分だけ読みたい人におすすめ

著者
大村 大次郎
出版日
2018-01-18

 

経済学に興味がある人に対し、『国富論』を手に取ったことがあるかと尋ねれば、多くの人が手を挙げるのではないでしょうか。しかし、読破したことがあるかと質問を続けると、ほとんどの手が降ろされるのが現実です。

『国富論』は、それだけ理解するのが難しいといわれているもの。本書は、元国税調査官で歴史研究家の作者が、「2時間で読み終わり理解できる」というコンセプトのもとに解説した作品です。

重要なエッセンスのみを抽出しているので、初めて読む人にもおすすめ。これまであいまいな内容しか知らなかった方も、読めば新たな気付きがあるはずです。

 

漫画で読む『国富論』

著者
アダム スミス
出版日
2011-11-30

 

古典の名作に挑みたいと思っても、読破できず断念してしまう人は多いはず。『国富論』も例に漏れず、そのボリュームと重厚感のためハードルが高い作品です。しかし漫画で読めば、とっつきづらさはなくなります。

産業革命が起き、それまでの生活が一変した時代に生きたアダム・スミス。彼が目にしたのは、新しい技術が次々と生まれる一方で、貧富の差が広がっていく現実でした。従来の考えが通用しないという点では、情報革命と呼ばれる現代に生きる私たちにも通じるものがあるのではないでしょうか。

これからの未来を生きるヒントとしても、読んでおきたい一冊です。