ミステリー小説のなかでも人気のジャンル「館もの」。屋敷や洋館、古城などを舞台に殺人事件が起こります。閉ざされた空間のなかに隠されたトリックに、読者は挑むことになるのです。この記事では、「館もの」ミステリー小説のなかでも特におすすめの作品を紹介していきます。
資産家の息子である英哉は、結婚を機に購入したドイツの古城で妻を亡くしました。城の礼拝所にあった「鉄の処女」と呼ばれる処刑具で惨殺されてしまったのです。
英哉は、兄の和哉と、和哉の秘書、そして刑事の片山と三毛猫のホームズを古城に招待し、事件の犯人を探そうとするのですが……。
- 著者
- 赤川 次郎
- 出版日
- 2018-10-10
1983年に刊行された赤川次郎の作品。「三毛猫ホームズ」シリーズの8作目です。主人公が猫という奇抜なアイディアと、猫の飼い主である刑事の片山をはじめとする魅力的な登場人物たちで人気を集めています。
本作の舞台は、ドイツの古城です。片山たちが到着した翌日に、招待した当事者である英哉が姿を消し、唯一の交通手段だった吊り橋も落とされるという完璧なクローズドサークル。「館もの」ミステリーの定番の形ができあがるなか、新たな殺人事件が起きてしまいます。
古城に仕掛けられた巧妙なトリックを、猫のホームズはどう推理するのか、そしてその推理をどうやって片山に伝えるのかが見どころ。赤川次郎の文章は読みやすく、ミステリー初心者にもおすすめです。
物語の舞台は、角島とよばれる無人島にある「十角館」。館の形、家具、食器などすべてが十角形をしている奇妙な屋敷です。とある大学の推理小説研究会に所属する7人の大学生が、かつて角島にあった「青屋敷」で起こった不可解な事件の謎を検証するために、現場を訪れていました。
一方その頃本土では、研究会のメンバー宛てに、元会員だった女性の事故死にまつわる怪文書が届きます。
十角館のある角島と本土、交互に物語が進んでいき、やがて衝撃の結末を迎えるのです……。
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2007-10-16
1987年に刊行された綾辻行人のデビュー作。後に続く「館」シリーズの1作目でもあります。本作がミステリー界に与えた衝撃は大きく、綾辻行人はいわゆる「新本格ミステリー」の礎を築きました。
「館もの」ミステリーの魅力は、閉鎖的な空間で起こる連続殺人でしょう。本作はそれに加えて、奇怪な作りをした館そのものの謎と破天荒なトリックという、エッセンスがぎゅっと詰まっているのです。
1番の見どころは、最後に待ち受ける衝撃の一行。重要なネタバレになるため多くは説明できませんが、最後の最後まで楽しませてくれること間違いなしです。ギリギリまで真犯人がわからないスリルをお楽しみください。
十字屋敷と呼ばれる洋館を舞台に、資産家である竹宮産業の一族がひとり、またひとりと殺されていく「館もの」ミステリーです。いわくありげな一族を襲う惨劇を目撃しているのは、持っている人に不幸を与えるという人形「悲劇のピエロ」だけでした。
物語は「僕」と名乗るピエロの視点を交えながら進んでいきます。ピエロだけが見たもの、ピエロだから見えなかったもの……人形を用いた東野圭吾の巧みな手腕が光る作品です。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1992-02-04
1989年に刊行された東野圭吾の作品です。東野の「館もの」といえば『ある閉ざされた雪の山荘で』や『仮面山荘殺人事件』など山荘を舞台にした作品が有名ですが、本作にも奇妙な屋敷や複雑な関係の一族など、「館もの」ミステリーの魅力が散りばめられています。
推理のキーとなるのは、ピエロが人形であるというところ。犯人を目撃しても誰かに伝えるすべはありません。また動くことができないので、犯行のすべてを見ることもできないのです。
ピエロの視点と探偵役の視点が描かれ、読者に犯人を推理するヒントが与えられていくのですが……東野圭吾の叙述トリックに騙されないようにしてください。二転三転する真相に、ついて来れるでしょうか。
金雀枝荘は、1年前にグリム童話「狼と七ひきの子やぎ」に見立てて一族6人が殺された呪われた館です。
いったい犯人は誰なのか、一族の兄弟たちが事件を解決しようと金雀枝荘を訪れました。自称霊感少女や迷い込んできたフリーライターなど、怪しげな人物も加わり、推理合戦がおこなわれるのですが……。
- 著者
- 今邑 彩
- 出版日
- 2013-10-23
1993年に刊行された今邑彩の作品。見立て殺人が盛り込まれた「館もの」ミステリーです。見立て殺人とは、伝説や童謡などに見立てて事件が装飾された殺人のこと。この見立てが読者の推理を手助けする一方で、惑わせることもあります。
本作は1年前に金雀枝荘で起こった見立て殺人を、遺族が推理するというもの。そもそも1年前の事件は、出入り口や窓がすべて閉ざされたなかで起こった密室殺人でした。犯人はどうやって脱出したのか、なぜ童話に見立てる必要があったのか、2つの謎を推理していくことになります。
そして謎解きが佳境を迎えるなか、再び悲劇が起こるのです。もう1度始めから読み直したくなるどんでん返しも楽しめる、圧巻の「館もの」ミステリーだといえるでしょう。
ミステリー作家である有栖川有栖は、取材のために福島県の磐梯山そばにあるログハウス「スウェーデン館」を訪れました。そこの「離れ」で殺人事件が起こります。
雪上に足跡は残っているものの、あるのは離れへ向かう足跡と、第一発見者の足跡のみ。犯人の脱出経路がわかりません。
そして推理を続けるうちに、過去にあった不幸な事件との関連性が見えてくるのですが……。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 1998-05-15
1995年に刊行された有栖川有栖の作品です。作者と同姓同名の有栖川有栖をワトソン役に用いた「作家アリス」シリーズのひとつ。本作はそのなかでも、臨床犯罪学者の火村英生が活躍する「火村英生」シリーズと呼ばれるものです。
今回は探偵役の火村がなかなか登場せず、有栖が頭を悩ませながら見当違いの方向に走ってしまうさまに読者もやきもきしてしまうでしょう。火村がやって来た後の2人のやり取りにも注目です。
事件の推理だけでなく、登場人物たちの人間関係や心の痛みなど、ドラマ性も楽しめる作品。犯人の動機を知ると、切ない気持ちになってしまいます。
25年前に小学校の同級生だった7人が、「お化け屋敷」と呼ばれる館に招待されるところから物語が始まります。
館の主はOGと呼ばれる大金持ち。7人は、「世の中には、やっていいことと、やっておもしろいことがある」と語るOGに惹かれ、かつて館に通っていたのでした。
- 著者
- 勇嶺 薫
- 出版日
- 2010-05-14
2007年に刊行された勇嶺薫の作品。「名探偵夢水清志郎」シリーズで知られるはやみねかおるの漢字名義です。小学生時代にはやみねかおる作品を楽しんだ方も多いのではないでしょうか。本作は、はやみね特有のサクサクと読みやすい文章は残したまま、内容は大人向けのダークテイストになっています。
かつての仲間が館で再会した時、本当の悲劇が起こります。25年の間に何があったのか……悪夢は始まっていたのです。
サイコパスと狂気が入り混じった物語。ハッピーエンドでは終わらない勇嶺薫もいいのではないでしょうか。