高校に行くための勉強は教えてくれるのに、なぜ高校に進学するのかは誰も教えてくれなかった。 きっとみんなは答えを知っているのだろうな。 そんなことを考えていた15歳の僕にこんな面白いエッセイあるよ。と教えてあげたい。
「忍者になりたい」
15歳の僕は本気でそう考えていた。
真剣に向き合ってくれた父、母、ありがとう。バカなんじゃないの。とストレートな意見を伝えてくれた姉、ありがとう。当時担任だった数学のS島先生、呆れながらも「お前何言ってんだ」と笑ってくれた(当時の僕はポジティブに捉えていた)バスケ部のK田先生、Y野先生には感謝してもしきれない。もし今親の立場になったとして、15歳の子どもに「忍者になりたい。」と言われたらと想像するとゾッとする。
しかし当時の僕は本気だった。
中学を卒業したら山にこもる。イノシシやシカ、ウサギやネズミなどを狩りながら食料を調達し、衣服をつくり、病にかかった際は山の木の実などを煎じた薬草をつくり、自分で治癒しながら生活をして、密命が届けば街で暗躍して使命を果たす。そのために日々修行をしながら忍者になろうと思っていた。
進路相談という名目で中学三年の時に行われる三者面談がある。そこで僕は何の疑問もなく、忍者になりたい。とS島先生に伝えた。その日の面談はそれだけで終わった。きっとその時の進路の意味は、どの路に進むかではなく、どの高校に進学するか。という意味での進路だったのだろう。
それはそうだ。担任のS島先生が「それじゃあ」と言って、忍者に最適な山を教えてくれる訳でも、弟子入りできる伊賀の流派を教えてくれる訳でもない。
なぜ反対されるのだろうと悶々としながら学校生活を送っていた。高校に進学するための勉強は教えてくれるのに、なぜ高校に進学するかは誰も教えてくれなかった。今なら分かる。きっとその答えは、そういうものだから。それは教えられずともみんなが分かっていることだったのだと思う。
高校での学校生活も経て、今年で31歳を迎えた今なら高校に進学する理由として「そういうものだから」という答えに納得できる。納得した方が色んなことがスムーズに進む。
「高校を卒業してからでも忍者になれるんじゃない」
と、突き放すことなく助言してくれた母には頭が上がらない。あの時もし忍者になっていたら、今こうしてホンシェルジュを書いていないだろう。ましてや人目に多く触れ、時には舞台の上に立って芝居をするという忍者として一番避けなければいけない状況が多い役者にはなっていなかっただろう。
- 著者
- 若林 正恭
- 出版日
- 2018-08-30
2013年に発売されたオードリー・若林正恭さん初のエッセイ本『社会人大学人見知り学部 卒業見込』の続編にあたる『ナナメの夕暮れ』。雑誌『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)にて2015年~18年に書かれたエッセイ全33回に加えて、書き下ろしの新作エッセイも追加されている贅沢な一冊。
なぜ忍者になっちゃダメなんだ。高校に行かなければいけなんだ。そんなことを考えていた15歳の僕に今から会いに行ってそっとこの本を渡してあげたい。
本の中で若林さんは「忍者になりたい!」とか「なぜ高校に行くのだ!」と嘆いていた訳では無いけれど「そういうものである。」という物事に対して疑問を持って良いんだ。その疑問に引っかかって良いんだ。と、31歳を迎えた今の自分にも、寄り添ってくれたように感じた一冊。