『W県警の悲劇』結末までの見所、あらすじを解説!ドラマ化小説をネタバレ!

更新:2021.11.19

『W県警の悲劇』は、ミステリー作家・葉真中顕の小説です。2019年1月に単行本が刊行され、7月にはテレビドラマ化も決まっています。今回は、本格警察小説として評価の高い本作を、あらすじとともに作品の魅力をご紹介します。

ブックカルテ リンク

小説『W県警の悲劇』がドラマ化!どんでん返しが面白い!【あらすじ】

W県警という架空の警察署を舞台に、女性警察官が事件に挑むミステリー作品である本作。6編の短編が収録されており、全ての話で女性警察官が活躍しています。同じ場所が舞台にはなっていますが、基本的にはそれぞれ1話完結型で、ストーリーが繋がっているわけではありません。ただ、同じキャラクターが登場したり関わり合っているのが特徴です。

各エピソードでは、父親の不審死を追う交番勤務の警察官や、3D拳銃の製造所をガサ入れする鑑識課のエース、そして女性初の警視となった警察官などのキャラクターなどが活躍し、先の読めない展開や驚きを隠せないどんでん返しなどが盛りだくさんです。

その中で一貫しているテーマが「正義」。読み終わるまで騙されっぱなしで、読み終わった後には思わず正義について考えたくなる、そんな本格ミステリーとなっています。

著者
葉真中 顕
出版日
2019-01-19

2019年7月には、BSテレ東でテレビドラマ化も決まっています。女性初の警視・松永菜穂子を演じるのは芹名星、父親の不審死を追う警察官には佐藤仁美を迎え、その他にも谷村美月や佐津川愛美など、そうそうたる女優の出演が決まっているので見逃せません。原作を知っている方もそうでない方も、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

作者・葉真中顕とは?『凍てつく太陽』で有名!

著者
葉真中 顕
出版日
2018-08-23

2013年に『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作者・葉真中顕(はまなかあき)。受賞作品は、選考委員からも絶賛されたうえ、「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」などで取り上げられるなど、高い評価を受けた作品となりました。

その後、2018年に発表した『凍てつく太陽』は、昭和20年の北海道、軍需工場が並ぶ町を舞台に、連続毒殺事件を追いかけるアイヌ出身の刑事を描いた作品です。

警察小説として楽しめることはもちろん、冒険小説としても注目を集めることになった同作は、2019年に第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞などを受賞し、葉真中顕の代表作の1つとして知られることになりました。

巧みな構成やストーリー展開はもちろんのこと、緻密な伏線、仕掛けなど、どれを取っても文句なしの本格ミステリーを書く作家として、これからの作品がますます楽しみな作家です。

作品の魅力を解説!

『W県警の悲劇』の魅力は、何といっても驚きに満ちた数々のどんでん返しが用意されていることです。6つのエピソードではそれぞれ女性警察官が活躍することになりますが、いずれも予想のつかない展開で先を読むことができません。

このどんでん返しこそが本作のキモとなっているので、各所の感想では「ネタバレ厳禁」と言われるほど。そんなことからも、本作にとって緻密に張られた伏線や仕組みが大事で、見どころであることは間違いありません。

さらに本格警察小説として、警察内部の話や事件捜査についても子細に描かれており、読みごたえがあります。本格ミステリーでありながら連作短編集のため、読みやすくなっていますのでミステリーにはあまり馴染みのない方にもオススメです。

小説『W県警の悲劇』「洞の奥」の見所をネタバレ紹介!

本巻の最初の話となるこのエピソードでは、松永菜穂子(まつなが なほこ)というキャリアアップを目指す警察官と、「警察官の鑑」と呼ばれる父親を持つ警察官の熊倉清(くまくらせい)の2人の女性警察官が登場します。

序盤では、菜穂子が男社会の警察組織の中で奮闘する姿が描かれます。しかし途中から「警察官の鑑」と呼ばれ、尊敬を集めていた清の父親が不審死を遂げ、その捜査に乗り出す清の話がメインとなっていきます。

組織の暗部をのぞき込むような展開にハラハラしながらページをめくることができますが、その結末にはややモヤモヤが残るような気がする方も多いかもしれません。

実はこのエピソード、「消えた少女」と微妙に繋がっています。ストーリーが繋がっているというよりも、このエピソードでの疑問がラストに解決するといった感じでしょうか。連作短編ならではの仕掛けにあっと驚くことは間違いないでしょう。

小説『W県警の悲劇』「交換日記」の見所をネタバレ紹介!

辰沢署で刑事として働く日下凛子は、幼女殺人事件を捜査をしています。被害者の目撃情報を吟味し、犯人は変質者なのかと思わせておく序盤から、中盤では倒叙風の仕掛けが動き出し、終盤の意外な展開へと続いていくのです。

さらに、そんなミステリーに加えて、主人公の凛子が密かに思いを寄せる先輩刑事の上原佑司との恋物語も描かれていきます。しかし、凛子の片想いの相手は既婚者で、しかも誰もが知る愛妻家。そんな恋愛エピソードもただの添え物ではもちろんなく、物語の中で重要な役割を担うことになります。

タイトルの交換日記も、最後でその意味がわかるようになっているので、できれば一気に最後まで読んでみてください。その構成とミスリードに思わず唸ってしまうことは間違いありません。

小説『W県警の悲劇』「ガサ入れの朝」の見所をネタバレ紹介!

著者
葉真中 顕
出版日
2019-01-19

W県警の鑑識課に所属する千春は、鑑識チームのエースと呼ばれる優秀な捜査員です。そんな彼女はある日、3D拳銃を密かに作っている製造所へガサ入れをすることになり……。

他のエピソード同様、最後のどんでん返しに様々な場所に張られた伏線やミスリードがあって、最後は思わず騙されたと感じてしまうでしょう。また、「交換日記」と同じく、主人公の千春と上司の野尻との恋愛模様も加わっており、ストーリーのアクセントになっています。

ただ、収録されているエピソードの中ではもっとも王道ともいえる話であり、ミステリーに精通している方であれば、他のエピソードほどの驚きは少ないかもしれません。そのぶん読んでいる間の安心感や読み通りだった時の爽快感を覚えることもできるので、王道ならではの楽しみを感じてみてください。

小説『W県警の悲劇』「私の戦い」の見所をネタバレ紹介!

野倉署の生活安全課に所属する葛城千沙(かつらぎ ちさ)が警察官を志したきっかけは、学生の頃に痴漢の被害にあった経験です。痴漢にあった時、恐ろしくて声を上げることができなかった千紗。それが悔しくて、そんな過去の自分と同じように痴漢の被害に泣き寝入りしている女性を助けるため警察官になったのです。

それから生活安全課に配属された千沙は、ある日、痴漢の現行犯で逮捕された男を取り調べることになります。しかし何も語らならい男を前に、彼女の中では男に対する怒りが沸き上がってくるのです。

序盤では、女性のために女性の敵と戦う女性警官の正義の物語のように思えるのですが、読み進めるうちに痴漢だけではない別の「敵」が登場してくるなど、どんどんと思いがけないことになっていきます。

この辺りは他の作品も同様なのですが、「私の戦い」では、千沙の存在感があるせいかどこか気持ちの良さを感じることができるのも特徴。短い物語の中でこれぞミステリー! といえる味わいを感じることのできるエピソードです。

小説『W県警の悲劇』「破戒」の見所をネタバレ紹介!

日尾署の刑事課に所属する滝沢純江(たきざわ すみえ)は、ある日、神父による父親殺しの事件について捜査を担当することになります。敬虔な神父が父親を殺してしまった背景には、老いた父親がいろいろと分からなくなってしまっていたということがありました。

序盤では、悲しい父親殺しかと思いきや、謎に満ちた証言や複数の疑惑などが次々に登場し、一見単純に見えた事件がどんどん複雑になっていきます。「ガサ入れの朝」と同じく、ミステリーに精通している方にとっては王道といえるエピソードになっています。

そのため他のエピソードに比べると先を読める部分もあるかと思いますが、登場するキャラクターや犯人の動機などを含め、本格ミステリーを思い切り楽しむことができるはずです。

小説『W県警の悲劇』「消えた少女」の見所をネタバレ紹介!

著者
葉真中 顕
出版日
2019-01-19

本巻のラストを飾るこのエピソードには、最初の「洞の奥」に登場した松永菜穂子が再び登場します。

キャリアップを目指していた菜穂子が、ここでは遂にW県警で初めての女性警視となっています。男社会のなかでも女性警察官の活躍を支えようとする姿を思わず応援したくなってしまう方も多いかもしれません。

このエピソードでは、菜穂子が名探偵のような立ち位置で動くのですが、そこにあるキャラクターが登場し、読者を驚かせるでしょう。そして、女性として、警察官として、菜穂子が抱いているポリシーや正義感といったものに焦点が当てられていき、最後は本巻に収録されている全話を通した「正義」というテーマについて深く描かれていくことになります。

読者も、思わず正しいこと、正義とは何かと、考えてしまうかもしれません。

謎解きの楽しみを思う存分味合わせてくれる本作ですが、女性が活躍する話としても楽しむことができます。女性の活躍が著しい昨今ですが、警察組織はまだまだ男性社会だと言われています。その中で奮闘する女性には、どんな葛藤があるのか。そんな姿もぜひ楽しんでみてください。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る