文芸

西澤保彦のおすすめ小説7選!魅力的なキャラクターが謎を解明していく

更新:2020.12.1 作成:2016.12.6

推理小説作家島田荘司に作品が認められ、作家としてスタートした西澤保彦は、キャラクターを活かしたミステリーを描く名手です。そんな西澤作品のおすすめを7作ご紹介します。

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島田荘司に見出された個性的ミステリー・西澤保彦

西澤保彦は日本の小説家です。1960年、高知県高知市で生まれ、高知県立安芸高等学校を経て、米国私立エカード大学創作法専修卒業。

大学卒業後に帰国して、高知大学経済学部教務助手や土佐女子高等学校講師などを勤めるかたわら小説執筆を開始しました。

1990年、『聯殺(れんさつ)』が鮎川哲也賞の最終候補に残り、受賞はできませんでしたが、招待された受賞パーティーの席で島田荘司を紹介されて「いいものがあったら見てあげます」と言われたそうです。その後、『解体諸因』の第一稿を島田荘司に送ったところ、講談社の編集者に渡り、1995年に小説家デビューとなりました。

個性的な4人の学生が酒を飲みつつ事件の真相に迫る

第1章から最終章までの9つの章で構成されており、すべてがバラバラ殺人を扱っている異色の連作集です。ミステリーにおけるバラバラ殺人とは、「どこで誰がなぜ殺したか」ではなく、「なぜバラバラにしなくてはならなかったのか」という面がいちばん重要なのかもしれないと思える構成にもなっています。

そして、この「なぜバラバラにしなくてはならなかったのか」の部分を考え、意味を持たせ、ミステリーとして成立させていく西澤保彦の思考に驚かされることでしょう。
著者
西澤 保彦
出版日
1997-12-12
また、この作品は、四国にある安槻市(高知県高知市がモデルらしい)の国立安槻大学の学生である匠千暁(タック)、高瀬千帆(タカチ)、辺見祐輔(ボアン)、羽迫由起子(ウサコ)という個性的な4人が様々な事件に遭遇し、その真相を解き明かすという「匠千暁シリーズ」の1冊目でもあります。

ちなみに、西澤自身が名称を決めていないため、出版社や解説者などによって「タック&タカチシリーズ」、「タカチシリーズ」、「辺見祐輔シリーズ」、「安槻大カルテット」などとばらばらに呼ばれているようです。

主に酒を飲みつつ事件の仮説を立てるため、酩酊推理と呼ばれる推理を披露しています。
4人が成長していく姿も描かれていることから、青春小説めいた部分も持ち合わせていて、そこも楽しむことができるという二重の楽しさがあります。難しいミステリーではないと思いますので、4人の友情を読む気楽さで手にとっていただいてもいいと思います。

同じ1日を9回繰り返してしまう少年は祖父を助けられるのか

久太郎は、進学校に通う16歳の高校生ながら、同じ日を9回ずつ繰り返すという反復の落とし穴に月に何度も陥ってしまうせいで、精神的には30年に近い歳月を生きている状態でした。

そんな久太郎は、元旦恒例の祖父の家での新年会の席で、祖父に意識がなくなるほど痛飲させられてしまいます。自宅に戻ったはずなのに、眼を覚ますと祖父の家の二階で、新年会と同じ日の朝を迎えていました。穴に嵌ったことを理解し、祖父から逃げたところ、なんと祖父が殺されてしまい……。
著者
西澤 保彦
出版日
1998-10-07
久太郎はなんとか祖父の死を阻止しようと頑張るのですが、どうあがいても、その日の終わりには祖父は亡くなってしまいます。

名探偵ではないので、何度も失敗を重ねつつ事件を解いていく過程がほんとうに面白いのです。久太郎がやり直す9回分の1日が、それぞれ区切られているため、読みやすくてわかりやすく、より世界にハマっていくことができます。リセットできる回数には限りがあるため、緊張感があふれ、先の展開が気になって仕方がない状態に陥ってしまうことでしょう。

ビル・マーレイ主演映画『恋はデジャブ』にインスパイアされた作品だそうですよ。

SFの定番の時間跳躍ものを推理小説の舞台でやるおもしろさをたっぷり味わってみてください。

肉体と人格が別になった大地震の日からはじまるミステリー

199×年12月21日。苫江利夫は、アメリカ合衆国カリフォルニア州のハンバーガーショップで食事を摂っていた際に、数十年に一度という規模の大地震に遭遇してしまいます。負傷し、出入口が潰れた店内から脱出も出来なくなり、さらに、天井が落下して圧死しかねないぎりぎりの状況から、人々は地下へと通じるドアを破って逃げ出し、難を逃れました。

負傷したショックで意識を失っていた江利夫が目を覚まして鏡を見ると、そこには別人の顔――そう、江利夫の精神は他人の肉体へと『転移』していたのでした……
著者
西澤 保彦
出版日
2000-02-15
人格転移というファンタジー設定とミステリーのルールを巧みに混合されているため、基本的な土台はしっかりしていて、謎解きも本格的。なんでもありな印象にはなりません

登場人物たちは活き活きとしていますし、エンターテイメント映画の様相を見せるラストもなかなか魅力的です。

人格転移が描かれているという特殊な部分に慣れることができれば、過不足なく楽しめる作品だと思います。

美少女・神麻嗣子が密室の謎に挑戦する

神麻嗣子の超能力事件簿と称されるシリーズの1作目です。

女好きのワンマン社長宅での新年会に招待された人々は、気が付けば外に出ることが出来なくなっていました。電話も通じない閉じられた空間で、社長の死体が発見され……

超能力は実在するけれど、一般人には知られていないという世界を舞台にしたシリーズです。エスパーが関わっているとされる事件が起こり、誰がエスパーなのか、どんなふうに超能力で犯罪を行ったのか、などを推理するのがテーマになっています。
著者
西澤 保彦
出版日
超能力という言葉が出てくると、なにもかもすべてを超能力のせいにする矛盾だらけの作品になりがちなのですが、そこはさすが西澤保彦らしく、矛盾を感じさせないおもろい作品となっています。
超能力が存在するという設定も、読んでみれば納得できるし、許せるものに思えます。ストーリーはもちろん個性的なキャラクターに魅了されてしまうことでしょう。

市民サーヴィス課臨時出張所の活躍を描くユーモアミステリー

「市民サーヴィス課臨時出張所」で、さまざまな市民から持ち込まれる相談ごとに応対するのは、黒い腕貫を嵌めた年齢不詳の職員です。彼はとても聞き上手で、みな、プライベートな悩みごとまで話してしまうのです……。

彼から返されてくるさりげないひとことに問題解決のヒントが隠されています。その過程をユーモアたっぷりに描いている連作ミステリーです。7作収録されています。
著者
西澤 保彦
出版日
2011-12-03
こんなサーヴィス課があったらいいなぁと思ってしまうほど、魅力的な設定なのです。

どれも大事件ではなく、でも自分ひとりでは解決しきれない内容のものばかりなのに、話を聞いただけで事件を解決してしまうわけです。でも、与えてくれるのはヒントのみで、自分で解決するように促される展開なのが実に魅力的でした。

自分のことは他人に頼るのではなく、最終的には自分でなんとかしなければならないのだと、改めて思える作品でもありました。なんだかとても前向きになれますよ。おすすめです。

ジュブナイルのように偽装されたミステリー

外部から隔絶した「学校(フアシリティ)」に集められた10歳から12歳の子どもたちが、プリントに書かれた事件を、ディスカッションで推理する実習を行なっています。ただ、学校がなんのためにあるのか、子どもたちにはわかりません。
著者
西澤 保彦
出版日
この作品が優れているところは、まず奇想的な世界観でしょう。

子どもたちが「邪悪なものが潜んでいる」と考える学校には、見たことのないハイテク機器があります。校長先生を「プリンシパル」と呼び、生徒たちもお互いのことを詩人(ポエト)、妃殿下(ユアハイネス)、けらい(オベイ)、ちゅうりつ(ニュートラル)などと奇妙なあだ名で呼び合います。そしてそれらが、わけのわからない状況で、あっけなく死んでいくのです。

奇想的な設定なのに、心理描写がたくみで、多くを語らないまでも自分を取り巻く世界との齟齬が時間とともに明らかになります。ラストの大掛かりなトリックとともに、最後までひきつけられる作品です。

西澤保彦の真骨頂

鳴沢文彦は女性に対し、憤っていました。それは、レストランで嬌声をあげるマダム風な女性に対してであり、これから同伴する女性に対してでした。金があるうちは媚びてくるくせに、金を払わないそぶりをみせると、すぐに表情を変えてくる。そして、その思いは全女性に対する考えへと変わっていくのです。

そのように考える要因は、鳴沢が育った環境にありました。鳴沢の父は一代で財を成した財産家であり、鳴沢自身はお金に困ったことはありませんでした。

鳴沢は小学校、中学校時代、周囲からは「たかる」相手としてしかみられていませんでした。どうせ親が金持ちだからいいじゃないか、というわけです。気を抜くと周囲から金をせびられる、と信じていました。

高校に入るとバンド活動をはじめ、ようやく金銭抜きで友とよべる仲間ができます。高校時代の善き想い出の大部分を占めるのはバンド活動とバンド唯一の女性メンバー、奏絵への想いです。その奏絵への想いがふとしたことで蘇ります。

著者
西澤 保彦
出版日
2013-10-10

鳴沢は、長年抱いてきた奏絵に対する想いと、ちょっとした出来事の組み合わせを集めることで、目的達成のための犯罪構想を一気に膨らませてしまいます。計画は予定どおり実行されました。しかし、鳴沢が意図した目的を達成することはできなかったのです。しかもその結末は鳴沢自身を「狂」わせる、驚愕の結末でした。

グロテスクなストーリーではありますが、そのストーリー展開は巧みに組み合わされています。そして、警察の推理展開とも合わせ、読者は次の展開に次々に引き込まれていくのです。想像を超えた驚愕の結末は西澤保彦作品ならではの展開であり、つい読み返し改めて納得します。もう一つ別の西澤ワールドとして、外せない一冊になりそうです。

西澤保彦は、いわゆるキャラクターミステリーに近い作品を生み出しています。ミステリーのおもしろさもさることながら成長していくキャラクターを楽しめるものが多いので、そんな部分もぜひ楽しんでほしいと思います。