鎌倉時代から江戸時代にかけて成立したといわれる『御伽草子』。「浦島太郎」や「一寸法師」など、現代でもなじみ深い話が収録されています。この記事では、作者や分類、有名な話のあらすじ、太宰治が手掛けた『お伽草紙』についても紹介していきます。
鎌倉時代から江戸時代にかけて成立したといわれる『御伽草子』。挿絵が入った短編集です。
それまでは貴族間の恋愛をテーマにした作品が主流だったなかで、名前のない庶民が主人公のものや、擬人化された動物が登場するもの、神仏の化身が登場するものなど新しい主題が用いられました。
すべてをあわせると、400編以上存在するといわれています。文章の構成が単純なものが多かったため、読者は挿絵を見ながら楽しんだんだとか。
分類は多ジャンルにわたり、神仏を説くために僧侶たちが作った「僧侶・宗教物語」、庶民を主人公にして笑いの要素や出世の要素が多い「庶民物語」、中国などの外国や架空の国を舞台にした「異国・異郷物語」などがあります。
作者が明らかになっていない作品が多く、江戸時代には『御伽物語』や『新おとぎ』などのタイトルでさまざまな人が刊行をしていました。後に書店を営んでいた渋川清右衛門が「浦島太郎」「鉢かづき」「一寸法師」など23編を集めて『御伽草子』として発表したことをきっかけに、現代の形になったそうです。
- 著者
- 西本 鶏介
- 出版日
- 2002-05-01
あるところに、高柳の宰相がいました。子宝に恵まれませんでしたが、神仏に祈りを捧げるととても美しい姫を授かります。姫が10代半ばになった頃、ある1匹の狐が、彼女へ恋をしてしまいました。
狐はまた姫に会いたいと願い、人間の男に化けて近づくことを考えます。しかし「人間と獣が契りを交わすと人間の命が尽きる」という決まりがあったので、狐は姫と同年代の娘に化けて、彼女のもとに仕えることを選びました。
狐は姫に気に入られ、「玉水の前」という名を授かります。ところがある日、玉水の前を育ててくれた養母が、物の怪による病を患ってしまいました。養母には玉水の前の伯父である古狐が憑りつき、苦しめていたのです。玉水の前は仏教の教えを説き、伯父を説得。養母も無事に回復しました。
しばらく経つと、姫は結婚をすることになります。玉水の前は気分が晴れません。これまで本来の狐の姿を隠して傍にいましたが、正体を明かして怖がられるのも辛いと考え、結婚式のどさくさに紛れて姿を消すことを決意しました。これまでのことを手紙に記し、小さな箱とともに姫に渡します。
後に姫が手紙を読むと、そこには玉水の前の想いが込められていました。姫は涙を流し、狐でありながら優しい心をもっていたことに心を打たれたそうです。
人間と、獣である狐の関係が描かれた「玉水物語」。作者は不詳です。
狐が男性に化けて恋愛関係になるのではなく、恋心を抱きながらも自身の想いを押しとどめて一途に奉仕をするところがポイントでしょう。同時に姫も玉水の前を慕い、2人で幸せになることを願っていました。ひたむきな心と純粋さに胸が切なくなる物語です。
あるところに、浦島太郎という名の青年がいて、漁師をしながら両親を養っていました。ある日釣りをしていると、亀がかかります。かわいそうに思って逃がしてあげることにしました。
それから数日後、浦島太郎は浜でひとりの女性と出会います。乗っていた舟が漂着して困っているとのことでした。一緒に船に乗り、竜宮城という彼女の国へ連れていってあげると、女性は浦島太郎に求婚。2人はそのまま結婚し、3年の時を過ごしました。
ある日浦島太郎は、残してきた両親が心配になり、家に帰ることを女性に伝えます。すると女性は、自分はあの時助けてもらった亀だと告白し、絶対に開けないことを約束したうえで玉手箱を手渡すのでした。
浦島太郎が自国に帰ると、様子がすっかり変わっています。通りがかった老人に両親に所在を訪ねると、なんと700年も前の人だと言われ、お墓の場所を案内されました。絶望した浦島太郎が玉手箱を開けると、煙が立ち上り、浦島太郎は老人になってしまうのです。さらにその後、鶴へと姿を変え、仙人が住むといわれている理想郷へ飛び立ちました。
同じ頃、竜宮城にいた女性も亀に姿を変え、理想郷へと向かったそうです。
『御伽草子』に収録される前から、50以上の類似作品が作られたそう。「いい行動をすればいいことが返ってくる」「約束を破るとバチが当たる」などの教訓が込められているといわれています。
また「鶴」と「亀」は現代でも縁起がいいものとして捉えられていますが、そのきっかけは『浦島太郎』だそうです。
河内の国に、ひとりの男が住んでいました。長谷観音にお祈りをしていたところ、願いどおりに娘を授かります。やがて美しい少女へと成長しました。
彼女の母親は長い間病気を患っていて、同じく長谷観音にお祈りをすると、娘の頭に鉢をかぶせるようにというお告げを受けます。そのとおりにしてみると、頭から鉢が取れなくなってしまいました。
母親の死後に家にやって来た継母は、娘を気味悪がり、家から追い出します。娘は命を絶とうと入水を試みますが、鉢があるおかげで体が浮き上がり、死ぬことができません。そのうち通りすがりの公家に助けられ、彼の家で働くことになりました。
ある日娘は、その家の四男である若君から求婚されます。しかし周囲は猛反対。若君の兄の嫁と「嫁くらべ」をして、結婚を断念させようと画策するのです。
「嫁くらべ」が前日に迫った晩、突然頭の鉢がはずれ、娘の美しい顔があらわになりました。しかも彼女は歌を詠むのも琴を弾くのにも優れていて、非の打ち所がありませんでした。
「嫁くらべ」の後に2人は無事に結婚し、子宝にも恵まれ、娘は長谷観音への信心を忘れずに幸せに暮らしたそうです。
タイトルの「かづき」とは、「頭にかぶる」という意味の言葉です。頭にかぶせられた鉢のせいで辛く苦しい生活を強いられた彼女は、自身の人生の悲惨さを憎んだことでしょう。死にたいと思っても、死ぬことすらできなかったのです。
しかしその後の展開は、グリム童話の「シンデレラ」にも通じるような一発逆転。幸せを勝ち取る展開に、昔の読者もワクワクしたに違いありません。
あるところに老夫婦がいて、子どもが欲しいと祈り続けていると、やがて男の子を授かることができました。しかし子どもの身長は一寸しかありません。一寸法師と名付けられ育てられますが、何年経っても大きくならなかったことから、老夫婦は彼を気味悪がるのです。一寸法師は仕方なく、自ら家を出ることにしました。
やがて京にたどり着くと、とある宰相の娘に一目惚れをします。しかし小さな体ではどうすることもできないと考え、まずはその家で働かせてもらうことに。そして眠っている彼女の口元に米粒をつけ、彼女に米泥棒の濡れ衣を着せるのです。
怒った宰相は娘を殺そうとしますが、一寸法師はその場をうまくとりなし、2人で家を出ることにしました。船に乗った2人はやがて島に到着します。そこには鬼がいて、一寸法師を飲み込んでしまいますが、彼は自分の小ささを活かして、何度飲み込まれても鬼の体の外に出ます。やがて鬼は恐れを抱き、持っていた打ち出の小槌を置いたまま逃げていってしまうのです。
一寸法師はその後、打ち出の小槌をを使って自分の体を大きくし、無事に娘と結婚することができました。さらに鬼退治の噂は宮中にまで広まり、一寸法師は中納言にまで出世をしたそうです。
『御伽草子』のあらすじを見てみると、現代に一般的に伝わっている「一寸法師」とは異なることがわかるでしょう。一寸法師は恋をした娘を手に入れるために人を騙すことを厭わない、少々ずる賢い人物として描かれています。
体が小さいというコンプレックスを個性としてうまく活かし、次々と困難を乗り越えた一寸法師のストーリーは、子ども向けの童話ではなく、大人も楽しめる物語だったのです。
- 著者
- 太宰 治
- 出版日
1945年に刊行された年太宰治の短編集『お伽草紙』。戦争で被災するなか執筆作業がおこなわれたそうです。
「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4編を収録。いわずと知れた有名な物語に、太宰の想像力によって新たな要素が加えられ、ユーモアに富んだストーリーへと書き替えられています。
古典を読みたいけれど、とっつきづらいと考えている人にもおすすめの一冊です。