アメリカのもっとも優れた児童文学に贈られる「ニューベリー賞」。毎年受賞作には注目が集まり、日本語にも多数翻訳されています。この記事では、歴代の受賞作のなかから特におすすめの物語を紹介していきます。
アメリカで出版された児童文学のなかでもっとも優れた作品に贈られる「ニューベリー賞」。18世紀に活躍した書籍商で、児童向け書籍の発展に貢献したジョン・ニューベリーの名にちなみ、1922年に創設されました。世界でもっとも古い児童文学賞でもあります。
アメリカでは、絵本に贈られる「コールデコット賞」と並び重要な文学賞として捉えられていて、受賞作は書店や図書館、教育の現場などで大々的に取りあげられるほどです。
テーマ性、文体、キャラクター、プロット、背景、表現力などさまざまな面から評価をされるため、受賞作のレベルはかなり高いのが特徴。
そのほか、子どもの読者を想定していること、アメリカ国内で前年に出版された英語の本であること、作者はアメリカ出身もしくは居住者であること、文学に貢献していることなどの基準があります。
物語の語り手は、貧しい靴屋のひとり息子トミー・スタビンズ。怪我をしているリスの保護をしたことをきっかけに、動物の言葉を理解できるという医学博士ドリトル先生と知り合い、住み込みの助手として働くことになりました。
ドリトル先生のもとには、さまざまな動物たちがやって来ます。トミーも少しずつ動物の言葉がわかるようになってきました。
ある日極楽鳥のミランダから、博物学者であるロング・アローが行方不明だという情報を聞きます。ロング・アローはドリトル先生が敬愛しているインディアンでもあり、ちょうど「運任せの旅行」をする予定だった先生は、彼の消息が途絶えたというクモサル島に行くことを決めました。こうして航海の旅が始まるのです。
- 著者
- ヒュー・ロフティング
- 出版日
- 2000-06-16
1923年に「ニューベリー賞」を受賞したヒュー・ロフティングの作品。「ドリトル先生」シリーズのなかでも代表作として扱われています。
本作の魅力は、何といっても個性豊かなキャラクターたち。オウムのポリネシアをはじめ、チンパンジーのチーチー、番犬のジップなどが大活躍。どんな動物に対しても分け隔てなく接し、正義感が強いドリトル先生の人柄にも惹かれます。
行方不明になったロング・アローを探すはずが、密航者に遭遇したり、船が嵐で壊れたりと波乱万丈。文章量はある程度ありますが、テンポのよい展開で読みやすく、ラストまで一気に読めてしまうでしょう。
主人公は、もうすぐ12歳になるジョナスという少年。天気までもが管理され安全で一切の不便がない一方、人々は薬で感情を制御されるという管理社会「コミュニティ」で暮らしています。「コミュニティ」の子どもは12歳になると長老から職業を与えられることになっていて、ジョナスは「レシーヴァー(記憶を受け継ぐ者)」の後継者に任命されました。
レシーヴァーになるのは、「コミュニティ」でただひとり。「ギヴァー(記憶を伝える者)」と呼ばれる老人から、からはるか昔の記憶を受け継ぐ役割です。
ジョナスはレシーヴァーとして話を聞くうちに、「コミュニティ」に対して疑問を抱くようになっていきました。失われたものの存在に気付き、世界の現状を変える方法を考え始めます。
- 著者
- ロイス ローリー
- 出版日
- 2010-01-08
1994年に「ニューベリー賞」を受賞したロイス・ローリーの作品です。日本では1995年に『ザ・ギバー 記憶を伝える者』というタイトルで刊行されたものの絶版。その後2010年に『ギヴァー 記憶を注ぐ者』として復刊しました。2014年には映画化もされています。
混乱のもととなる個性や自由をなくし、怒りや苦痛の記憶はすべてレシーヴァーが抱えることで平和が保たれている「コミュニティ」。人々は感情の表現を制限されています。「コミュニティ」の狭さを知ったジョナスは、同じ葛藤を経験した先代のレシーヴァーとともに世界を変えようと奔走するのです。
近未来を舞台にしたディストピア小説ですが、思春期の彼が、生と死、家族、愛、仕事、未来などに思いを巡らせる青春小説としても読むことができます。本当の幸せとはいったい何なのか、考えるきっかけになる一冊です。
14世紀のイギリス。荘園領主が管理する小さな村に、アスタという女性と、13歳になる息子クリスピンが暮らしていました。
病に臥せていたアスタが亡くなると、クリスピンは殺人と泥棒の濡れ衣を着せられ、命を狙われてしまうのです。彼の出生の秘密を知るという神父に背中を押され、村を出ることに。道中で大道芸人の男と出会い、ともに旅をするなかで、「本当の自由」について考えていきます。
- 著者
- アヴィ
- 出版日
- 2003-11-01
2003年に「ニューベリー賞」を受賞したアヴィの作品です。
実はクリスピンは、荘園領主の子ども。莫大な財産をめぐって命を狙われていました。大道芸人とともに旅を始めてからも、たびたび命の危機にさらされ、ハラハラしながら物語が進んでいきます。
クリスピンは文字を読むことができず、無知で孤独。母親が死ぬ直前まで、自分の名前すら知りませんでした。しかし村を出て外の世界を知り、物事を考えるようになり、やがてたくましく自分の道を切り拓いていくのです。
中世ヨーロッパの街並みが目に浮かぶように描かれているのも魅力的。世界史を勉強している人にもおすすめです。
デスペローは、体が小さいのに耳だけ異様に大きく、目を開けたまま生まれたハツカネズミです。音楽と物語を愛しています。
ある日、人間のピー姫に恋をしてしまうのですが、ネズミ界では人間と交わることはタブーとされています。そんな時、ピー姫が誘拐されてしまいました。デスペローは彼女を助けるために地下牢へと向かい……。
- 著者
- ケイト ディカミロ
- 出版日
- 2016-03-02
2004年に「ニューベリー賞」を受賞したケイト・ディカミロの作品です。
デスペローには、「悲しみ、絶望」という意味があります。生まれた時から異端児だった彼は、母親にこんな風に名付けられたのでした。ちょっと驚いただけですぐに気絶をしてしまうデスペローですが、音楽と物語を愛し、愛するピー姫のために精一杯頑張るのです。
また彼らと対比させて、ドブネズミのロスキューロ、姫に憧れている召使のミグも登場。物語はオムニバス形式で物語が進んでいくのですが、彼らが一堂に会した時、何が起こるのでしょうか……?小学校中学年頃から読めるでしょう。
物語の舞台は、1950年代のアメリカ。ケイティという少女の語りでストーリーが進行していきます。
日系アメリカ人のタケシマ一家は、営んでいた食品店が経営難に陥り、アイオワ州からジョージア州へ移住をすることになりました。父はひよこの雌雄鑑別、母は鶏肉工場で働きますが、当時はまだ人種差別が強く、2人の労働環境は酷いものです。しかしリン、ケイティ、サミーという3人の子どものために、愛情にあふれた家庭をつくろうと努力をしていました。
ケイティはリンから教えてもらった「きらきら」という日本語を気に入り、好きなものは何でも「きらきら」と表現するようになります。そんななか、リンにリンパ腫が見つかり……。
- 著者
- シンシア・カドハタ
- 出版日
- 2004-10-25
2005年に「ニューベリー賞」を受賞した日系アメリカ人作家、シンシア・カドハタの作品です。カドハタの父は日系二世、母は日系三世だそうで、本書の内容は彼女の幼少期をモデルにしたといわれています。
長女のリンは、しっかり者でアドバイスの達人。そんな姉に影響を受け、ケイティも偏見をもたない優しい性格に成長していきました。リンの病気が明らかになって家庭環境がどんどん崩れていっても、ケイティだけは「きらきら」を求め続けます。
涙無しには読めない感動の物語です。