失恋してしまい、辛くて辛くてどうしようもない。友だちと遊んだり、趣味に没頭してみたりしてもうまくいかない時は、小説を読んでみてはいかがでしょうか。物語の世界に入り込むことで自分の心と自然に向き合うことができます。次の1歩を踏み出せるようになる、「おくすり」のような作品を紹介していきます。
失恋してしまった時は、ショックで何も手につかなくなってしまうこともあるでしょう。食事は喉をとおらず、仕事にも集中できず、上の空の状態になるかもしれません。
でも、そんなぽっかりと開いてしまった心の穴を、物語が埋めてくれることがあるのです。時に優しく寄り添い、時に悲しみを吹き飛ばしてくれて、時に未来へ1歩踏み出す勇気を与えてくれる……まるで「おくすり」のような恋愛小説を紹介していきます。
読めばきっと力を貸してくれるはず。前向きな気持ちになる手助けとして、使ってみてください。
小説家をしている千紘は、幼い頃に性被害にあったことがあり、その記憶を上書きするかのようにいろんな男と関係をもっていました。強引でプレイボーイな編集者の柴田は、そんな彼女の弱みに付け込むかのように近づき、千紘を翻弄していきます。千紘のほうも、怒りや嫉妬などさまざまな感情を渦巻かせながらも、頭のなかは彼のことでいっぱい。
そして、ある日のパーティー会場で、柴田の言動に怒りが爆発した千紘は、彼の手にフォークを突き刺してしまうのです。
それから数ヶ月が経った夏。千紘は休養をするために、祖父が遺した鎌倉の古民家を訪れました。1万冊以上もある蔵書をデータ化するために、本を裁断し、スキャンしていく「自炊」作業を頼まれます。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2018-07-10
2015年に刊行された島本理生の作品です。「芥川賞」の候補にノミネートされました。
小説家でありながら、本の「裁断」という作業をする千紘。過去も、仕事も、柴田のことも、ザクザクと切りながら人生を振り返っていきます。
自分の気持ちを主張せずいろんな男性と関係をもってしまう彼女の姿は、ともすれば流されやすく、だらしない人のようにも映ります。それでも、どんなに傷つけられても人と関わることを辞めない彼女の姿に、読者は不思議と惹きつけられていくのです。
単行本はひと夏の物語で終わりますが、文庫版には秋、冬、春と書き下ろしが収録されました。終盤にかけて千紘がどんどん前向きになり救われる展開に、失恋してしまった読者も勇気づけられるのではないでしょうか。
主人公の樹理恵は、アパレルショップに勤める28歳。おしゃれで派手好き、サバサバした性格をしていて、隆大という男性と付き合っています。
ある日、家賃を滞納して家を追い出されたとして、隆大の元カノであるアキヨが彼の部屋に転がり込んできました。隆大はアメリカ帰りの帰国子女で、日本に帰ってきて価値観の違いに悩んでいたところを、アキヨがずっと支えていたとのこと。
樹理恵もその信頼関係を理解はできるものの、さすがに同居は納得いきません。「大事な彼女は樹理恵で、アキヨと同居をするのは親切心から」という隆大の主張をしぶしぶ信じている状況です。
その一方でアキヨは、いずれ隆大と復縁することを狙っていました。
- 著者
- 綿矢 りさ
- 出版日
- 2013-12-04
2011年に刊行された綿矢りさの作品。「大江健三郎賞」を受賞しています。
派手な性格ながら男性に尽くすタイプの樹理恵と、地味な見た目ながら肉食のアキヨ。隆大はそんな2人の板挟みになりながら、煮え切らない態度をとり続けるのです。元カノに同情してしまう隆大か、それを受け入れてしまう樹理恵か、したたかなアキヨか……読者の置かれている状況によって、怒りのポイントが異なるかもしれません。
三角関係をめぐる計算高いバトルも見どころです。ラストは痛快で、スカッとすることができるはず。感情に流されてしまっていた自分を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
彼氏とのマンネリ、長年の不倫、会社の部下への恋……渋谷にあるセレクトショップ「Closet」には、さまざまな恋の悩みをもつ女性が訪れます。
「Closet」のオーナーは、彼女たちの魅力を引き出す服を探すのです。運命ともいえる一着と出会った時、彼女たちは前進していきます。
- 著者
- 尾形 真理子
- 出版日
- 2014-02-06
2010年に刊行された尾形真理子の作品です。尾形はコピーライターとして活躍する人物。ファッションビル「ルミネ」の広告を手掛けたことで有名です。
本作は、さまざまな恋の悩みを抱えた5人の女性が「Closet」を訪れる短編集。登場する女性たちはみな繊細で不器用、どこにでもいる普通の人として描かれています。だからこそ読者も彼女たちに共感でき、洋服によって隠れた魅力が引き出されるさまに心がほっこりとするのです。
失恋して落ち込んでいる時でも、また素敵な恋をしたいと思わせてくれる、あたたかな一冊です。
フリーターで気ままな生活をしている岡崎ゆりえ。リゾートバイトで知り合った持田英之と意気投合し、ルームシェアを始めました。
その後ゆりえは、長年ファンだったバンドマンの槇仁にインタビューをすることになり、そこから2人は関係をもってしまいます。
ゆりえは英之と別れ、槇仁の家に転がり込むことに決めました。しかし彼の家には、家族ぐるみの付き合いをしているという女性が出入りをしていて……。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2011-10-28
2009年に刊行された角田光代の連作短編集です。主人公はそれぞれ異なり、ある物語で誰かを振った人が、次の物語では誰かに振られてしまうという構成。いわば全員が片思い状態なのです。
恋をされている時と失恋する時で、こうも人は異なるのかと驚くほど、書き分けが秀逸。振られた人が劣っているわけでも、振った人が優れているわけでもないと気付かせてくれます。
たくさんの人が振られますが、けっして湿っぽくはありません。あんなにすべてを捧げた恋だったのに、終わってみれば意外とこんなものなのだという恋の盲目さと、それでもまた恋をしてしまう人間の在り方を描いた作品です。
主人公の寺子には、しおりという親友がいました。しかししおりは、2ヶ月前に突然自殺をしてしまったのです。彼女は「客と添い寝をする」という仕事をしていましたが、自殺の理由はわかりません。
また寺子は、アルバイト先の上司と不倫の関係を続けていました。彼には植物状態の奥さんがいるとのこと。寺子は彼に、親友が亡くなった悲しみを打ち明けられずにいました。
日々、寂しさと孤独を抱えながら深い眠りにつきます。
- 著者
- 吉本 ばなな
- 出版日
- 2002-09-30
1989年に刊行された吉本ばななの作品です。タイトルの『白河夜船』とは、「何が起きても気づかず、ぐっすりと眠り続けること」という意味だそう。
寺子は、親友が亡くなったこと、彼と不倫をしていること、彼の奥さんが植物状態なことなどさまざまな問題を抱え、心はぼろぼろ。しかし彼と一緒にいる時間は幸せだったので、自分の状況に気付かぬふりをしていました。そうして家に帰りひとりになると、深い深い眠りにつくのです。
親しい人を失うということは、自分のなかの何かがなくなることに等しいのでしょう。寺子は眠ることで少しずつ自分を再生していきます。寂しくて孤独な夜も、いつか明けることを教えてくれる物語です。